今週の小ネタ:HIITが早漏に効く、メンタルが強い人は腸が健康、暴力的なゲームで人は暴力的にならない
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
HIITが早漏に効くかも
「1日7分間のHIIT(高強度インターバルトレーニング)で早漏が軽くなる!」って研究(R)が出ておりました。
ご存じのとおり早漏ってのは意外と深刻な問題で、その原因もかなり複雑。一般的には、 不安、ストレス、対人トラブルのような心理的プレッシャーや、ホルモンバランスの乱れや神経伝達物質の異常といった生物学的な要因が関わっているとされております。
そのため、治療の種類も幅広く、心理療法から薬物療法まで様々。しかし、これらの治療法には効果がないこともよくありまして、特にクスリを使った治療には嫌な副作用も多いんで、問題が解決されないことも多いんですよ。
そこで研究チームが思いついたのは、「HIITみたいなハードなトレーニングをしたら早漏がやわらぐのでは?」ってアイデアです。HIITは、短時間の激しい運動と低強度の回復または休息を交互に繰り返すトレーニング法で、普通の有酸素運動よりも短時間で心肺機能が改善するのがウリ。詳しくは「いまさら聞けない「HIIT」超入門」をチェックしていただければ幸いです。
仮説を検証するため、研究チームは18歳から34歳の男性76人を招集し、参加者を3つのグループのいずれかに振り分けてます。
- 毎日7分間のHIITを行う。
- 毎日7分間のゆっくりとした呼吸法トレーニングを行う。
- 対照グループとして、通常の呼吸法トレーニングを行う。
実験の期間は2週間で、その間みんなに早漏チェックリストに記入してもらい、症状がどう変わったかを調べたんだそうな。その結果なにがわかったかと言いますと、
- HIITをしたグループは、早漏の症状が減少した。
- HIITにせよ呼吸法トレーニングにせよ、トレーニングで注意力が高まったグループほど、早漏の症状が改善していた。
- 安静時からセックス後までの心拍数の増加が大きい男性ほど、早漏の症状が少なかった。
って感じだったそうです。要するに、性行為のあいだに意識をコントロールできる能力が、早漏の改善に役立つ可能性があるってことですな。HIITってのは、心肺機能だけでなく注意力を高める働きもあるんで、それによって早漏が改善するかもしれないわけですね。
まぁ収集されたデータはすべて自己申告に基づいているんで、バイアスは割と大きそうですし、 参加者が研究の目的を知っているタイプの実験なので、それで結果が歪められた可能性もあるでしょう。その点で、まだHIITで性機能が上がるかは謎なんだけど、心肺機能と下半身の健康に密接な関係があるのは間違いないので、その目的でHIITをやってみるのも良いかと思いますねー。
メンタルが強い人は腸が健康
「ストレスに強い人は腸内細菌が良い感じだぜ!」って報告(R)が、UCLAから出ておりました。いわゆる“レジリエンス”に腸が関わってるって話ですな。
この研究は、アメリカの健康な男女116人を対象にしたもので、まずはみんなのレジリエンスを評価するために、コナー・ダビッドソン・レジリエンス尺度(Connor-Davidson Resilience Scale)を使用。 このテストは、「私は不快な感情に対処できる」「私はつらいことがあってもすぐに立ち直る傾向がある」といった文章にどれぐらい賛成するかで、その人のレジリエンスを計測するようにデザインされております。
そのスコアに基づいて、参加者をレジリエンスの高い人と低い人の2つのグループに分け、さらにみんなの脳をMRIスキャンで調べつつ、便のサンプルもチェックしたんだそうな。そこで、どんな傾向が見られたかと言いますと、
- 脳の画像データを見てみると、レジリエンスが高い人は、感情コントロールと認知機能に関わっている脳エリアの活動が活発だった(前帯状皮質と前頭前皮質がより活発に活動していた。これらの領域は、感情の暴走を防ぎ、ストレスに対してより的確な反応をさせる)。
- さらに、レジリエンスが高い人たちは、腸内細菌が良い成分を生み出す量が多かった。これらの成分は、いずれも体内の炎症を抑え、腸のバリアを強化する働きがある。 そのおかげで、有害物質が体内に入り込みにくく、全身の炎症も起きにくい傾向があった。
- ついでに、レジリエンスが高い人たちは、環境適応、遺伝子の伝播、代謝に関連する遺伝子の活性が上昇していた。
ってことで、これらの知見をまとめると、レジリエンスが高い人は腸内環境も良好であるって傾向が見られるわけです。私が知る限り、脳と腸のデータをここまでちゃんと統合した研究って珍しいので、レジリエンスは単なる心理的な状態じゃなくて、脳と腸が複雑にからみあった生物学的な特性だってことを示してくれていて、非常によろしいですね。
研究チームいわく、
脳と腸のつながりは、ストレス管理に重要です。 常にストレスを感じていると、このサイクルが続き、慢性的な炎症を引き起こし、免疫力を低下させ、心臓病や糖尿病などの長期的な病気や、うつ病のような精神疾患のリスクを高めることになります。
ストレスを管理することで、腸内の健康的なバランスを保つことができ、ひいては心身の健康全般を支えることになるのです。
とのこと。まぁ横断研究なのでデータの精度はそんなに高くないんですけど、レジリエンスを高めるには、脳と腸の両方をターゲットにするのが正しいってのは間違いないんじゃないかと。レジリエンスは全身的な現象だと考えて、ガンガンに腸もいたわってやったほうが良さそうであります。
暴力的なゲームで人は暴力的にならない
「暴力的なゲームをやっても、暴力的な人間にはならない」ってデータが多い昨今でございます。「暴力的なメディアが若者を攻撃的にする!」と言われたのは昔の話で、近年は、その主張に反するようなデータのほうが多いんですよね。
新たなデータ(R)も、暴力的なメディアの影響に関する話でして、まず結論から言ってしまうと、
- 他人に暴力(身体的にも精神的にも)をふるいがちな人ほど、暴力的なビデオゲームをプレイする傾向が少しあった。これは特に若い人たちに顕著だった。
- ただし、暴力的なゲームをプレイすることにより、未来の暴力性が増えるという証拠は見つからなかった。
みたいになります。攻撃的な人が暴力的なメディアに惹きつけられることはあれど、暴力的なメディアが人を攻撃的にすることはないんじゃない?って結論ですね。
この調査はチェコの青年3,010人を対象にしたもので、2020年6月から2022年12月までの1年半にわたってデータを収集。みんなの攻撃性と共感力を測定した上で、最も頻繁にプレイするゲームを3つの挙げてもらったんだそうな。
その上で、得られたデータにクロスラグパネル分析を行い、異なる時点で同じ変数を評価。これによって、暴力ゲームが人を攻撃的にするのか?攻撃的な人が暴力ゲームに惹かれるだけなのか?をチェックしております。
その結果をざっくり見てみると、
- 参加者が最も頻繁にプレイしたゲームは、マインクラフト、ロブロックス、フォートナイト、グランド・セフト・オートシリーズ、ブロスタなど。
- 暴力的なビデオゲームを多くプレイする人ほど、認知的共感と言語的攻撃性のスコアがわずかに高い傾向が示された。また、暴力的なビデオゲームをより多くプレイした参加者ほど、身体的攻撃性のスコアが高くなる傾向がやや強く、 一般に、男子の方が女子よりも暴力的なビデオゲームをプレイしていた。
- 一方、個人内の調査では、参加者がプレイしたゲームの暴力レベルによって、攻撃性や共感性が変化する事実は明らかにされなかった。つまり、暴力的なゲームは、攻撃性を高める直接的な原因ではないと考えられる。
ということで、近年の考え方と同じで、暴力ゲームと攻撃性の悪化には関係がないって結論であります。これでまだ決着がついた話じゃないものの、個人的には、ゲームだけでなく漫画やアニメにも同じことが言えるんじゃないかなーと思ってますが、どうなんでしょうかね。