プロアスリートも使う“重曹”で、どれぐらい運動のパフォーマンスは上がるのか?
『テレグラフ』を読んでたら、「80%のエリート・ランナーがパフォーマンスアップのために炭酸ナトリウムをサプリとして使ってるよ!」って記事(R)が載ってて驚いたりしました。
炭酸ナトリウムってのはいわゆる重曹のことで、日本だと洗濯やキッチンの掃除などによく使われる、あの白い粉ですな。これを飲むことで運動のパフォーマンスが上がり、良い結果が出やすくなるというんですな。
というと、「わざわざ重曹を飲むの?」って気になる人も多いでしょうが、この話には一定の裏づけがありまして、
といったデータを過去に紹介しております。実は「重曹で運動のパフォーマンスが向上する!」って考え方は割と常識で、1980年代までさかのぼる長い研究の歴史があったりするんですよ。
重曹が運動に効く理由はいくつか提案されていて、
- ハードな運動をすると乳酸が生成されるが、重曹はその酸性度の上昇を抑えてくれる。
- 水素イオンによって筋収縮が妨げられてしまうのを、重曹が中和してくれる。
といったメカニズムがメジャーですね。他の理由も考えられるものの、とりあえず重曹に効果があるのは間違いなさげ。
では、具体的に、「重曹はどれぐらいスポーツ競技の記録改善に役立つのか?」ってことで、エッジヒル大学などのチームが良いデータ(R)を発表してくれておりました。結論から言うと、40キロのタイムトライアルで重曹を使ったら、サイクリストの成績が1.4パーセントほど改善したというもので、マラソンなどをしている人には興味深い内容になってるんじゃないかと。
この研究は14人のサイクリストを対象にしたもので、40キロのタイムトライアルを3回行ってます。
- 練習用のタイムトライアル
- カプセルタイプの重曹を飲んでタイムトライアル(重曹のマイクロ錠剤をスープのようなハイドロゲルに包んだものを使ったらしい)
- 上とよく似た“ニセ重曹”のカプセルを使ったタイムトライアル
その上で、みんなの成績を比べてみたら、
- 重曹を使ったタイムトライアルでは血液のpHが上昇した(つまり、重曹のおかげで酸性度が低くなった)。
- 重曹を使っても使わなくても心拍数は変わらず、主観的な運動のツラさも変わらなかったが、成績は1.4パーセントほど改善した。全体のテストを通して、重曹を使ったグループは、より高いレベルの乳酸に耐えることができた。
みたいになります。従来の仮説どおり、重曹によって体内の乳酸が緩和され、それによってパフォーマンスがちょっとだけ上がった感じですね。
この試験が個人的に注目したいポイントは2つあって、
- 1時間もかかるタイムトライアルでも、重曹の効果が出ている。重曹が最も効果を発揮するのは1分から10分まで(乳酸レベルが最も高くなるから)だとされており、そのため「重曹はスプリントみたいな短時間の競技に有効だよ!」言われていた。
その点で、今回の試験は、タイムトライアルの全体を通してペースが速くなっており、持久力を使うような運動でも重曹には意味があるのかもしれない。
- この実験では、カプセルタイプの重曹を使っている。このタイプの重曹サプリは胃腸への負担が少ないのが特徴だが、なにせ値段が高くて手に入れづらいのが難点。また、このサプリは普通のカプセルよりも区別をつけやすいので、実験の参加者は、「これは重曹だな!」と気づいた状態でタイムトライアルに参加していたかもしれない。なので、重曹を運動サプリとして使う前に、どこでも手に入る安価な重曹との比較も見てみたい。
ってところです。おそらく重曹で運動のパフォーマンスが上がるのは間違いないものの、これで「スーパーで売ってる安い重曹を買ってくるか!」って気分にはならない感じっすね。
というのも、どこでも売ってる重曹ってのは、そのまま飲むと消化器系への負担が大きくて、膨満感、胃痙攣、下痢などの副作用が起きちゃうことで有名なんですよ。過去に重曹を使ってきたアスリートたちは、これらの不快感と戦いながら、重曹をガブ飲みしてきた歴史があるんですね。この問題を防ぐために、今回の実験では特殊に加工された重曹を使い、そのまま腸に送り込むようにしたわけっすな。
そんなわけで、私としては、もっと安価で胃腸への負担が少ないサプリでも開発されないと、そこまで重曹を使ってみるきにはならんなぁ……というのが正直なところで。大金でもかかったマラソンに参加することにでもなったら考えるかもしれませんが、日々のHIITを楽にするために使うのはちょっと難しいですかねぇ。
それでも「俺は重曹を試してみたい!」とお考えの方は、「ベストな「重曹」の飲み方とは?」のエントリを参考にしてくださいませ。どうぞよしなに。