このブログを検索




スパイの仕事は営業と同じ?プロが説得術の裏技を教える本を読んだ話

 


『スパイのように売り込め:諜報の世界から学ぶ説得術(Sell Like A Spy: The Art of Persuasion from the World of Espionage)』って本を読みました。著者のジェレミー・ヒューウィッツさんは企業セキュリティのプロで、元スパイ、FBI、人質交渉人、特殊部隊の退役軍人などと仕事をしてきた人らしい。

 

というわけで、本書も著者の経験を活かした内容になっていて、「スパイってどんなコミュニケーションを取ってるの?」ってあたりを掘り下げてくれていて楽しかったです。別に科学的なエビデンスを取り扱った本じゃないものの、経験知に裏づけされた知見の数々は、心理学のデータとも矛盾していない印象を受けました。

 

では、いつも通り、本書から勉強になったポイントをざっくりまとめてみましょうー。

 

  • 当たり前だが、ジェームズ・ボンドやジェイソン・ボーンのようなスパイはいない。スパイはタキシードを着ないし、カジノに出入りもしないし、アストンマーティンを運転したりもしない。

    どちらかと言えば、スパイの仕事とは、精神科医やセラピスト、あるいはウェルスマネジメントのコンサルタントのように、コミュ力が必要な仕事のほうに近い。スパイの仕事とは、ターゲットを説得して自分の国やグループに刃向かうように仕向けることであり、その意味で、スパイは“最強の営業担当者”だと言える。事実、著者が知り合ったスパイは、みなコミュ力が高く、相手に影響を与えるのがとても上手かった。

 

  • 著者が知り合った元スパイの言葉に、「優秀な諜報部員は、あるレベルや観点において、ターゲットと真の絆を持っている」というものがある。優秀な営業担当者と同様に、スパイはどんなターゲットとでも相手を深く知ろうとし、信頼関係を築くところから仕事を始める。

 

  • しかし、当然ながら、スパイが狙うターゲットには、共感が難しい相手も少なくない。独裁国家の犯罪者やテロリストなどと接触し、彼らと真の絆を築くのは容易ではない。

    そこでスパイは、どんなに嫌な人物であっても、相手の中にある人間性の核を見つけようとする。つまり、犯罪者の家族思いな側面だったり、テロリストの慈善活動だったりと、そうした人間性があふれる部分に注目することで、真の絆を築く方法を見つけ出していく。こうした信頼によるつながりは、ターゲットに望ましい行動をとってもらいたい時に、非常に重要となる。

    このようなコミュニケーション法はスパイでなくとも有効で、嫌な相手と会話をしなければならない状況でも、まずは自分との共通点や類似点、または尊敬できる点などを見つける必要がある。

 

 

  • さらに、スパイが使う中でもうひとつ重要なテクニックは、“自分の弱さをさらけ出す”ことである。

    これは、なかなか打ち解けられない相手と仲を深めるのに効果的な方法で、例えば著者のケースでは、右耳がまったく聞こえないという“弱み”をビジネスシーンで伝え、相手の右側にしか座れないことを伝えると、たいていは向こうの態度が大きく軟化する。これは、“弱み”を見せたことにより、単なる営業担当者から、一人の人間として認められたことによるものである。これによって私たちは距離を縮め、より親密な関係を築くことができるようになる。

 

 

  • 私たちは誰でも、興味のある人物に出会った場合、その人物についてすべてを知りたいと思い、相手を質問攻めにすることがある。しかし、この行為は、相手に疑念を抱かせたり、身構えさせたりする可能性が大きい。

    その代わりに、相手に質問することなく情報を引き出すことを考えねばならない。例えば、CIAの訓練では「誰かに質問せずにできる限り多くの情報をゲットせよ」という命令が出される。この時に、CIAの職員は、狙った人に近づき「暑いですねぇ。私はもともと北の出身なので参っちゃいます」などと話しかけ、相手から「私は南フロリダで育ったので、あまり気になりません」といった答えを引き出す。

    このように、たいていは自分自身について語ることで、相手も同じように返事をしてくる。これは人間の生得的な傾向なので、これを活用するのが重要となる。

 

 

  • FBIの人質交渉人は、緊張感のある状況を乗り切るために、社会的影響力を駆使する。例えば、交渉の場で犯人が叫んだり、早口でまくし立てたりした際にも、交渉人は冷静な口調を維持し、ゆっくりと慎重に話を進める。これは、行動科学の研究により、たいていの人は、会話の相手が特定の口調やスピードを維持した場合には、それに従う傾向があることがわかっているからである。

    そのため、もし誰かに怒られた場合も、自分は落ち着いた態度を維持し、ゆっくりと慎重に話すよう心がけたい。そうすれば、相手は落ち着きを取り戻し、こちらのの会話に応じてくれるようになる。

    同じように、もし誰かが怒りをぶつけてきたら、すぐに立ち上がらずに相手に座ってもらい、まずは自分の考えを話してもらうことを優先すること。相手が言いたいことをすべて吐き出させてやり、なにか口を挟みたくなっても、ひたすら相手がすべてを吐き出すまで待つのが重要である。

    また、最後には、相手がすべてを言ってくれたことに対して感謝の気持ちを示すのも重要である。そうすることで、会話はさらに落ち着くことになる。

 

 

  • それでも相手が冷静にならない時は、時間稼ぎをするのがベスト。感情は認知に勝るため、感情が溢れているときは、脳がうまく働いてくれない。

    どうしてもその場が冷静になれないと感じたら、いったんタイムアウトを要求し、冷静になってからコミュニケーションを取り直すように持ちかけるしかない。

 


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM