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【質問】Apple Watchを使ってたら運動が楽しくなくなりました

 


 

こんなご質問をいただきました。

 

Apple Watchを買って、運動と睡眠の計測を始めました。心拍数や睡眠の質の変化が目で見えて、最初のうちはやる気が出て良かったのに、しばらくしたらやる気が下がった気がします。いまは運動は続けられていますが、嫌々やってる気がします。これはどうにかならないでしょうか?

 

とのこと。活動量計を買ったは良いものの、なんだかやる気がなくなって、嫌々感がすごくなってしまったって話ですね。

 

実は、これは“活動量計あるある”として有名な現象でして、自己の活動の定量化やバイオハッキング系の人であれば、一度は通る道じゃないかと思います。かく言う私も、OURAリングやMUSEなどで瞑想による変化を数値にしていたら、「数値化のおかげで瞑想の習慣は続くんだけど、めっちゃ嫌々やってる」って状態になったりしたもんです(今もその感覚は余裕で残っている)。

 

では、このように運動や睡眠などの指標を定量化する手法には、メンタル面での欠点があるのでしょうか? 

 

この問題については、2016年の文献で調査が行われていて、歩行や読書などの活動を数値化したら、私たちのモチベーションがどう変わるのかをチェックしてくれてます。

 

例えば、1つ目の実験では、研究チームは105人の学生に数分間、図形に色を塗らせ、その作業を楽しめたかを評価するように指示したんですよ。すると、塗り絵の出来ばえについて数値によるフィードバック(「あなたは1つの図形を塗り終えました」みたいな)を受けた被験者は、より多くの作業をこなしたものの、楽しさの度合いは低かったと報告したんだそうな。

 

さらに、他の2つの実験では、研究チームは100人に万歩計を1日中装着してもらい、どのような行動の変化が起きたのかを調べたんですよ。こちらの結果も塗り絵と同じで、万歩計を着けた参加者は、万歩計を装着しなかった人よりも多く歩いたものの、ウォーキング自体は楽しめなかったと報告したらしい。

 

さらに、別の実験では、300人の学生を対象に「何分でどれだけのページ数を読んだか」を測定しつつ、どんな違いが出るかも検証してます。こちらの結果も予想通りで、ページ数を測定したグループは対照群よりも大量のページを読んだものの、読書を楽しむことができなかったらしい。

 

この傾向はすべての実験で一致してまして、簡単に言うと、運動や睡眠を測定すると、運動量が増えたり睡眠の質が上がったりはするかもしれませんが、その活動から得られる楽しさは減るってことですな。

 

こういった現象について、研究チームは、「行動を測定することで、その行動を完遂しようとする内発的な動機が損なわれる」と仮説を立てておられます。要するに、絶え間なく測定や数値化を行うと、プロセスよりもアウトプットに注目することで、楽しい活動がより仕事のように感じられ、最後には楽しさが減少しちゃうって話です。金が発生したとたんに趣味が楽しくなくなっちゃうのと同じですな。

 

とはいえ、これは「数値化なんてやめて好きにやれ!」って話じゃないので注意してください。上の実験によれば、数値化によって行動の総量が増えるのは確かなようで、それによって習慣化が進むことは十分に考えられるでしょう。別に数値化が本質的に悪いわけでもないんですよ。

 

なので、自分の行動を数値化したいときは、以下のようなルールに従ってみると良いかもしれません。

 

  1.  追跡すれど執着はせず:私も日々の活動を計測してますが、その結果にこだわって落ち込んだり、毎日のように統計的な評価を行ったりはしておりません。その代わり、1日の終わりに、いくつかの主要な指標をざっと確認して「1時間以上連続して座り続けてないか?」「1日1万5千歩以上は歩けたか?」「心拍数や体温が通常より高いのは過剰なストレスやトレーニングのせいか?」ってあたりをざっと考えて、あとは次に進むようにしてます。

    要は、これは気の持ちようの問題で、常に人生を分析するよりも、その行動から得られる経験に時間を費やすことの方が重要だよーってのは、定期的に自分に言い聞かせたりしてますねぇ。



  2. 基本は身体の感覚を信じる:たとえば、活動量計が「今日はめっちゃ動きました!」とか言ってくると、実際はお腹が空いていないのに、「よし!夕食後に好きなものを食べるか!」とか思っちゃうのが人間というもの。あるいは、睡眠アプリが「いつもより睡眠時間が短いです」と知らせてきた場合、本当はそれほど疲れていなくても、急に疲れを感じたり不機嫌になったりするケースもよくある話です。

    この問題を避けるためには、1日の5分ぐらいでいいんで、静かな時間を取って自分の体を主観でモニタリングする癖をつけるのも割と有効です。その際は、「今日の自分のエネルギーレベルは実際どの程度なのか?」ってあたりに意識を向けておくと、数値に意識を乱されにくくなりますんで。



  3. 内発的動機の価値を思い出す:ご存じのとおり、内発的動機ってのは、その活動そのものから得られるモチベーションのことです。「運動は楽しい!」「ぐっすり眠れて気持ちが良い!」ってとこから生まれるモチベーションですね。

    これが大事なのはみんなわかってるんだけど、気を抜くとすぐ忘れちゃうものなので、時には立ち止まって「もしこの活動を数値化していなかったら、自分がしていることを楽しんでやっているだろうか?」「この行動自体を楽しむ方法はないだろうか?」と自問してみると良いでしょう。

 

ってことで、いろいろ書いてきましたが、数値化によって内的なモチベーションが下がるのはよくあること何で、もし運動が楽しくなくなったり、睡眠が妨げられるようになったと感じたら、数日間だけ完全にデバイスを使わないようにして、何か変化があるか試してみてください。どうぞよしなに。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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