【質問】パルス電磁場療法が体にめっちゃ良いってどこまで本当ですか?
こんなご質問をいただきました。
パルス電磁場療法って意味がありますか?若返るとか病気が治るとか言われています。怪しい気がしますが、ちゃんとしたデータもあるみたいで、よくわかりません。
ということで、パルス電磁場療法の効果はどうなんだってお尋ねであります。パルス電磁場は“PEMF”と呼ばれるテクノロジーで、だいたい以下のような機器を使って行われます。
これがどういう技術なのかと言いますと、あるメーカーさんはこんな説明をしておられます。
EMPpad Omnium1とEMPpad iMRSは、非常に低い強度と周波数のパルス電磁場(PEMF)を使用し、体内の細胞をターゲットとし、細胞の働きを改善します。 これにより、効果的な免疫反応や健康的な身体全体をサポートするなど、幅広い健康効果が得られることが研究で実証されています。
ってことで、特定の周波数と強度でパルス化された電磁場を体に当てることで、細胞や組織の修復が促進され、痛みや炎症が減り……という話なんですな。
磁石や磁場を使って健康になろうぜ!みたいな話は昔からありますが、パルス電磁場機器のメーカーさんは、以下のような説明をしておられます(R)。
PEMFテクノロジーは、地球の磁場を模倣した強度と周波数の電磁パルスを供給するために開発されました。 広範な研究により、これが全身の“細胞共鳴”と呼ばれるプロセスを刺激し、人生を変える健康効果をもたらすことが実証されています。
EMPパッドは地球の磁場を正確に模倣しており、それによって細胞の働きが正常化するんだよーって主張であります。それなら、私たちはいつも地球の磁場にさらされているんだから、わざわざマシンを使う必要があるの?とか思っちゃいますが、とにかくそういう話なわけです。
でもって、この手の商品には、だいたい「研究がいっぱいあるんですよー。実験もたくさん行われてますよー」みたいな文献リスト(R)を提案するのが定番。"細胞共鳴”に関する文献をいろいろと並べてくれているんですが、こういったリストでよくあるポイントとしては、
- 引用された文献を実際に見てみると、そのほとんどが主張とは無関係だったりする。
- 細胞か動物を対象とした基礎科学的な文献を大量に並べて、リストを水増ししている。
- 実際に商品を使った臨床試験は行われておらず、その商品が採用している“理論”にする研究しか列挙しない(この場合は、パルス電磁場を使用したあらゆる研究が並べられている)。
- より大規模な研究ではネガティブな結果が出ているのに、ポジティブな結果が出た単一のデータしか提示しない(たとえば、この場合は、「PEMFで骨折の治りが早まった!」みたいな研究が選ばれているが、2011年の系統的レビュー(R)では、複数のデータをまとめたうえで「いまのところ証拠はない」としている。
みたいなものがあります。商品の効果とは関係ない細胞とか動物のデータを並べ、実際に商品の効果をチェックしたわけでもない研究をリストアップして、「なんだかわからんがいっぱいデータがあってすごそうだ!」と思わせるわけですな。
しかし、当然ながら、皿の上の細胞に変化があったとしても、その介入が臨床的に有用であるかどうかの予測はムリ。こういった研究のほとんどは効果的な治療にはつながらないので、ここから治療や機器の有効性を主張するのは、なかなかしんどいものがありますな。
ちなみに、一部では「PEMFは癌にも良い!」みたいな主張もあるんですが、こちらでも細胞に関する基礎科学的な研究しか行われていなかったりします。ある特定のPEMFが癌に良いって証拠があるなら、すでに標準治療として保険適応になるはずですしね。
まぁ、電磁場そのものは、少なくとも現実には存在するんだから、健康に影響がある可能性はゼロとは言えません。ただし、いまのところパルス電磁場療法の主張には、ほとんど信憑性がないのも事実。パルス電磁場が動物や人間に目立った影響を及ぼすことは、これまで一度も示されていないので、変なクリニックに引っかからないようにご注意くださいませ。
ちなみに、上に列挙した4つのポイントは、本当に“健康メーカーあるある”なので、参照文献リストをチェックするときは、ここらへんに注意しておくと良いのではないでしょうか。どうぞよしなにー。