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2024年8月に読んでおもしろかった4冊の本と2本の映画

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2024年8月版でーす。今月に読めたのは21冊ほどで、なかでも良かったものをまとめてみます。ちなみに、その他に読んだ本や見た映画については、インスタグラムのほうに載せてますんで、気になる方はどうぞ。

 

 

人生後半の戦略書 ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法

 

人生の後半を豊かに過ごす方法をまとめた一冊。著者のアーサー・C・ブルックス先生は、アトランティック誌のコラムなどで有名で、前から「おもしろい文章を書く学者さんだなー」とか思っておりました。

 

本書も同じ手腕が冴えていて、ダーウィンのように人生の後半を不幸にすごした人物と、バッハのようにうまい具合に人生を調整して幸福に死んでいった偉人を比較しつつ、そこに大量のエビデンスをぶち込んでいて、おもしろ実用書としてクオリティの高い仕上がりになってました。

 

ここで披露されるアイデアは、私のブログをお読みの方であればおなじみのもので、

 

  • 年齢を重ねるにつれて流動性知能が衰え、結晶性知能が高まっていく。つまり、若いときには大量の事実を処理でき、年をとるほどそれらの情報を使いこなすのがうまくなる。この事実を認識し、それに従って人生へのアプローチを変えるのが大事。

 

  • 歳を取れば取るほど、成功中毒から脱却するのが超大事になる。特に、仕事一辺倒の生活から脱却し、趣味や人間関係を大切にできるかどうかは、高齢者の幸福度を大きく左右する。

 

  • 満足とは、持っているものを、欲しいもので割ったものである。つまり、「満足度=持っているもの÷欲しいもの」。そのため、名声、権力、富をどれだけ持とうが満足できないので、「満足度=1」になる前に、消費主義や成功主義への中毒を断ち切らなければならない。 

 

といったあたりは、非常に納得しながら読みました。結晶性知能の話題は1970年代からありますが、ここでは「歳を取ってもみんな流動性知能ばっか使うよねー」って視点が強調されていて、人生の指針として使いやすくなってるのが良いですね(「このデータって有力な反証があるよな……」と思うところも一部にありましたが、まぁ大勢に影響はないのでよし)。

 

ちなみに、本書で提案される指針は、まだ人生の前半にいる方にも「幸福度アップの基本」として十分に有用だと思いますんで、お若い方もぜひどうぞ。私もとっくに人生を折り返してますんで、「もっと仕事を減らそう……」とかあらためて思いましたねー。

 

 

FRIENDSHIP(フレンドシップ) 友情のためにすることは体にも心にもいい

 

友情が心身に与える影響を科学的に探求し、意味のある友人関係を築くための実践的なアドバイスを提案する本。

 

「パレオな男」をお読みの方であれば、友情の重要性はすでにご存じのはず。本書でも「親しい友人がいる人は、早期死亡リスクが45%も下がる」「最強のうつ予防策は、信頼できる友達を持つこと」といった有名なデータが取り上げられてまして、改めて人間関係のインパクトに感心させられたりしました。“友情”は、現代における最も重要な問題のひとつなので、ぜひ押さえておきたい知識でしょう。

 

本書の構成は、最初の4分の1で友情の価値を説明し、残りで良い友人を作る方法の概説に費やすというもの。具体的な方法としては、積極的なコミュニケーションの取り方や、友人との関係を深めるための心理的なテクニックなどが含まれるんだけど、個人的には、“愛着理論”に基づいて友情の枠組みを説明しているあたりがナイスでした。不安型と回避型の愛着を持つ人が、それぞれいかに友人作りに悩み、人間関係を維持するのに困難を抱くのかについて、かなりのページを割いて論じてくれているんですな。

 

その説明はかなり細かくて、根っからの回避型である私には刺さりまくり。「回避型の人は感情が体の中で目詰まりを起こしている」「安心感を取り戻せたときしか、他者を思いやる方に意識とエネルギーを向けられない」とか、いちいち心臓を刺されてしまい、読み終わるころには血まみれになりました。

 

まぁ、よく知らない人物のストーリーを延々と語る、ポップサイコロジーの本ではおなじみの手法をかなり使っているので、「もっとエピソードを減らして、研究を詳しく説明して欲しいなぁ」とは思いましたが、愛着に問題を抱えた方は、ぜひお読みください。

 

 

体内時計の科学:生命をつかさどるリズムの正体

 

現代社会が私たちの健康、幸福、そして寿命に与える影響を解説し、体内時計と共に生きることの重要性を説く本。

 

「サーカディアンリズム(概日リズム)」が、いかに私たちの睡眠、食事、仕事、さらには思考能力に影響を与えるかをめっちゃ細かく説明してくれていて、

 

  • 睡眠不足が多いほどBMIは高くなる。

 

  • 睡眠と概日リズムの乱れ(SCRD)は、長期的に持続すると、免疫抑制、胃腸障害、心血管疾患、血糖値の上昇につながる

 

  • 概日リズムは女性の月経周期にも影響し、月経周期が正常な女性は全体の15%に過ぎない。

 

  • 睡眠不足の子どもは学業成績が悪いことがわかっている。 

 

  • アメリカでは医療ミスにより毎年多くの死者が出ており、その主な原因は夜勤と長時間労働にある。 

 

みたいな恐ろしいネタが満載。このような問題が起きる原因を、視交叉上核(SCN)の働きから根本的に説き起こしてくれまして、あらためて良い勉強になりました。

 

ただし、科学的な正確性を追求する本の常で、驚くような快眠テクニックは出てこないのでご注意ください。いくつか例を挙げると、

 

  • 朝には日光を浴びる。

 

  • 寝る前にお風呂に入ったり、シャワーを浴びたり、手足を温めたりする。

 

  • 寝室は、清潔で、静かで、涼しく、邪魔なものを少なくする。

 

  • セックスは睡眠に良く、逆に良い睡眠は性欲を促進する。

 

といった感じで、いずれも当たり前の話ばかりで、がっかりする人もいるかもしれません。とはいえ、精度が高いデータをもとに、正しい説と間違った説をより分けてくれているのは、やはりありがたいところで、

 

  • 睡眠アプリは睡眠の記録に便利だが、現在の技術の進歩ではレム睡眠とノンレム睡眠を分別するには不十分。

 

  • リラックス効果のあるオイルが睡眠に与える影響については、決定的な結論は出ていない。

 

などの正しい知見を再確認できるのは有用ですね。単なる健康アドバイスに留まらず、自身の体内時計に対する理解を深め、それに基づいて生活を再設計させてくれる良書なので、ご一読あれ。

 

 

 

4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した

 

4歳のころにアウシュビッツから解放された男性の回顧録。当然、当時の記憶はあいまいなので、娘さんが親族へのインタビューやナチスが残した記録をリサーチして、詳しい部分を補完したらしい。

 

その意味で創作の部分も多いんですが、数あるホロコーストものの中でも、小さな子供の視点を通して書かれた手記は珍しく、幼児期から思春期までの変遷を追うことで、収容所に入る前から戦後の人生にまで焦点が当てられているあたりが本書の独自性ですね。

 

歴史的に見ると、著者の一家は、ポーランドで行われたナチスの残虐行為のほぼすべての段階を体験してまして、故郷がドイツ国防軍に焼き払われ、ゲットーでの暮らしを余儀なくされ、収容所で父と兄が殺され、故郷へ帰ってもユダヤ人への差別は続き、ミュンヘンでの避難民として暮らし……といった感じで、アウシュビッツから解放されただけでは終わらない苦難の連続は、大変勉強になりました。

 

家族の愛情を描く物語としても感動的で、死にかける著者を母が救い出し、他のユダヤ人の協力を得て部屋にかくまうあたりは、思わず落涙。収容所から解放された主人公が、ようやく自分の名前を取り戻すシーンは、わかっていても泣いちゃいますね。

 

 

 

インサイド・ヘッド2

 

思春期を迎えた主人公の脳内でうずまく、感情の揺れを描く人気作の続編。

 

前作では、人間が持つ5つの基本的な感情が、いかに私たちの行動をコントロールしているのかを映像にした傑作でしたが、本作では新たに登場する「不安感」を主軸に据えることで、また一歩進んだメンタルの問題を扱っていて良き。

 

“思春期”と言えば、感情に反応する能力だけが爆上がりして、その体験と距離を置く能力は未発達なところに問題が起きるわけですが、この状態を、精神の動きもふくめて映像にしていて驚きました。

 

その上で、単に新たな感情が暴れるだけの話にせず、人生の体験がすべて己の信念を形作り、これが人間のアイデンティティを形作るプロセスを、記憶のボールから伸びた糸がからまっていく映像として視覚化するあたりもお見事でしょう。

 

私自身も、自分のメンタルがうまく機能しないときの脳の働きを把握するためのフレームワークとして、本作の知見を使っていこうと思わされました。

 

さらに言えば、これらのコンセプトのおかげで、

 

  • ネガティブな感情もふくめて、すべては人間の生存に役立っている。

 

  • ネガティブな体験を悪いものとみなすのではなく、その来し方や未来のビジョンをすべて受け入れた結果が、人間としての不完全な完全性を形作る(いわゆる「ホールネス」の考え方)。

 

といった、第三世代の認知行動療法に近い考え方までがストーリーに組み込まれているんだから凄い。しかも、これをギャグ満載のエンタメとして成立させてるんだから、ぐうの音も出ませんね。

 

思春期の話とはいえ、ここで描かれる不安の暴走は誰にでも当てはまるはずでして、特に後半のシークエンスには、自らの脳を覗き込んでいるかのような気分にさせられる人も多いはず。

 

その結果として、クライマックスでは、単に主人公がマインドフルにホッケーをし始めるだけなのに、それでも感動させられるんだからビックリですね。

 

 

ホールドオーバーズ

 

1970年代のニューイングランドの寄宿学校で、クリスマス休暇中に居残りを余儀なくされた3人が、嫌々ながら一緒の時間を過ごす話。

 

主人公の3人は、それぞれが心に傷を負っていて、それぞれが人生に失望していて、そのせいでみんな表面上は嫌な奴になっていて……という、誰もがいつ陥ってもおかしくないメンタリティがリアルに提示されていて、まずはそこを堪能させていただきました。

 

「みんなが休暇を楽しむなかで自分だけ居残りをする」って設定のおかげで、各自が抱える喪失感が浮かびやすくなる仕掛けになってるのも上手いですねぇ。

 

基本はめっちゃ地味な話なんだけど、傷ついた人間が触れ合う際に起きるダイナミズムを、感傷的になりすぎずに観察者の視点を保ちつつ、人生への失望が少しずつ癒されていく様子を描く手際には思わずホロリ。

 

どんな嫌なやつでも、耳を傾ける時間さえあれば、互いを救い合うチャンスがある(かもしれない)ってテーマを丁寧に描いていて、「なんか押しつけがましくない人間ドラマが見たいなぁ」って時にはバツグンのおすすめ。 


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