ショート動画を見続けると、なぜ何もする気がなくなるのか?問題
「ショート動画を延々と見ていたら、頭がぼんやりして何もする気がなくなった……」みたいなことを言う人が増えております。私はオッサンなのでショート動画はほぼ見ないんですけども、周囲からそういう言葉を聞くことはありますね。
で、海外ネット民のあいだでは、このような状態を「ブレインロット(brain rot)」と呼ぶことがあります。直訳すると「脳腐り」みたいな感じで、2024年にはオックスフォード大学出版局の「今年の言葉」に選ばれたほど一般化した言葉だったりします。
もちろん、本当に脳が腐るわけじゃなくて、ブレインロットってのは、低品質なデジタルコンテンツを大量に見続けた結果、
- 頭に霧がかかったようになる
- 注意力がバラバラになる
- 情報を処理できなくなる
- 自分でスクロールを止めにくくなる
といった問題が起きちゃう状態を指すんですな。
なんとも嫌な話ですが、新しい研究(R)では、「ブレインロットはメンタルにどのような影響を与えるのか?」という問題を調べてまして、なかなか興味深い結果になっております。
この研究は、トルコの若者439人を対象にしたもので、
- デジタルコンテンツによる認知疲労
- 燃え尽き
- ストレス
- 不安
- 抑うつ症状
などを質問紙で調べたんだそうな。参加者の半数以上は、1日に5時間以上もSNSを使っており、約4人に1人は7時間以上も画面をスクロールしていたというから、なかなかの数字ですな。
で、分析の結果がどうだったかと言いますと、
- ブレインロットは、うつを直接予測してはいなかった。つまり、ショート動画を大量に見たからといって、すぐにうつ状態になるわけではない。
- その代わり、「ブレインロット → 燃え尽き → ストレス・不安 → 抑うつ症状」というステップ式で抑うつに発展するルートが確認された。
って感じだったそうな。ブレインロットのせいでいきなり病むってことはないものの、いろんなルートをたどって段階的にメンタルをやられることはあるんじゃないか、と。
具体的にどういう流れでメンタルを病むのかと言いますと、
- 短い動画を次々と見続けることで認知的なエネルギーが削られ、なにもやる気がなくなる。
- その結果として「燃え尽きた!」みたいな感覚が強まる。
- 普段の生活で起きる問題に対処する余力がなくなる。
- そのせいで、ちょっとした仕事や人間関係のトラブルにも強いストレスを感じるようになり、不安も高まる。
- メンタルをやられる!
みたいな感じになってます。研究チームは、この現象を「損失のスパイラル」と呼んでまして、ブレインロットのせいで脳のエネルギーがなくなっちゃうせいで、あとにいろんな問題が起きてしまうところを強調しておられました。
では、なぜ短い動画は脳を疲れさせるのか?ってとこが気になりますが、研究者たちは、この問題を「認知負荷理論」で説明しております。
ご存じのとおり、人間のワーキングメモリ(頭の中で一時的に情報を処理する能力)には、かなり厳しい限界がありまして、一度に処理できる情報量はめっちゃ少ないんですよ。ところがショート動画では、指を一回動かすたびに文脈が完全に切り替わりまして、いま「お笑い動画」を見てたと思ったら、次は「戦争のニュース」に変わり、さらに「料理のレシピ」が出てきて……みたいな情報のシフトが数十秒のあいだに次々と起きるじゃないですか。脳からすればこれは大変な作業なわけです。
しかも、それぞれの情報を十分に処理する時間がないんで、長期記憶にも残りにくいのも大きな問題のひとつ。要するに、大量の刺激は入ってくるのに、知識としてまとまらない状態が延々と続くことになるんですな。その結果として、脳は大量の情報を処理した気になっているのに、実際には何も身につかず、疲労感だけが残るような状況が起きるんですよ。
まぁ、あくまでも一時点のスナップショットを押さえたような研究なので、これをもって本当に「ブレインロット → 燃え尽き → 不安 → うつ」という順番で症状が進むかどうかは謎であります。というか、もともとストレスや抑うつ症状が強い人ほど、ショート動画を長時間見る可能性も十分あるでしょうし。なので現時点では、「ショート動画を見続けて頭が疲れると、日常に対処するためのエネルギーがじわじわ奪われちゃうかもよー」ぐらいにお考えいただくといいでしょうな。
でもって、この研究を実生活に活かすなら、要点は2つありまして、
- ショート動画を「見終わった後の自分」をチェックすると吉:ショート動画を見たあとに「頭がぼんやりする」「仕事や勉強を始められない」「感情が平板になる」「疲れているのにスクロールを止められない」「以前より日常の問題にイライラする」といった変化があるなら、すでに認知的な資源が削られている可能性が大。もしこのような状態が起きているなら、とりあえず情報の摂取を止めて、おだやかな活動をはさむほうがいいでしょう。具体的には、散歩する、風呂に入る、紙の本を読む、ぼんやりするなどですね。
- ショート動画を「見たくなった時の自分」もチェックすると吉:今回のデータでは、自分が何を感じているのかを把握したり、感情の強さを調整したりするのが苦手な人ほど、ショート動画による燃え尽き、ストレス、不安が強く出る傾向にあったそうな。自分の感情がわからない人は、なぜスマホを手に取ったのかも把握できず、退屈や不安をショート動画で紛らわせるのを繰り返すでしょうからね。そのため、ショート動画を見たくなったときは、「いま退屈しているのか?」「焦りからスマホを開いたのか?」「嫌な気分を消そうとしているのか?」といった感じで、セルフチェックを行ってみるのも有効でしょう。
みたいになります。いずれにせよ、ショート動画の問題ってのは、単に時間を浪費することじゃなくて、数秒ごとに文脈が切り替わる刺激を浴び続けた結果、日常生活に使うはずだった認知的なエネルギーまで削られてしまうとこにあるんで、くれぐれもそこに意識を向けるようにしてくださいませ。



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