今週の小ネタ:ハリー・ポッターの組分け帽子テスト、意外と使えるんじゃないか説&「安心すると集中力が下がる人」がいるんじゃない?問題

ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
ハリー・ポッターの組分け帽子テスト、意外と使えるんじゃないか説
「ハリー・ポッターの組分け帽子診断」ってあるじゃないですか。私はハリー・ポッター未履修勢なので、これが何をやっているのかさっぱりわからないのですが、要するに「あなたはこの世界では◯◯組だから、こういう性格です」みたいなのを診断するってことでいいんですよね?(詳しくないのであくまで推測)
で、この手の診断モノってのは、通常は「まぁ、ただのお遊びでしょ」ぐらいで終わるもんなんですけども、最近の研究(R)で「あれ?ハリー・ポッターの帽子診断って、条件次第では本当に性格を当てられるのでは?」って結論になってて面白かったです。
実験の被験者は677人の大人(18〜55歳)で、まずは全体を「ハリポタ原作を読んだ人:578人」と「ハリポタを読んでない人:99人」にわけて、その上でみんなに以下の性格テストをやってもらったんだそうな。
- 公式サイトの組分け帽子診断
- 「本当はどの寮に行きたい?」という質問
- ガチの性格検査(HEXACOモデル)
- ダークトライアド(ナルシシズム等)
つまり、既に定評のある性格テストの結果と照らし合わせて、ハリポタの性格テストがどれぐらい精度があるものなのかを調べたわけですね。参加者の特性を、ちゃんと原作を読んだ勢と読んでいない勢に分けてるのもナイスですな。
結果1「ファンに限れば、テストの正確性は割と高い」
まず、原作を読んだ人に限って分析を行った場合は、「ハリポタ性格診断」の結果はかなり正確だったらしい。ざっくり言うと、
- スリザリン → マキャベリズム、ナルシシズム、サイコパシー高め
- レイブンクロー → 思考好き(複雑な問題を解決することに喜びを感じやすい)
- グリフィンドール → 外向性がやや高め
- ハッフルパフ → 協調性・誠実性が高めだが、情緒はやや不安定
みたいな感じです。私はこれは何を言ってるのかさっぱりわからないんですが、原作を読んだ人にはしっくりくるんでしょうな。あと、統計的には有意でも、ハウス間の差は小さいので、あくまでざっくりとした傾向としか言えない感じっすね。
また、この研究では「実際にテストで割り当てられた寮」と「自分が行きたい寮」の比較も行ってまして、こちらでは「行きたい寮のほうが、性格との対応が強いケースが多い」って結果も出てたりします。つまり「組分けテスト」の結果よりも「自分の願望のほうが自分の性格を的確に表している」可能性があるってことですね。じゃあ、テストいらんやんって気もしてくる結果ですね。
結果2「原作を読んでいない人には、テストはほぼ意味なし」
一方で、ハリポタを読んでない人はどうだったかというと、
- グリフィンドールと外向性が、ちょっと関係してた
- それ以外は、ほぼ無関係だった
みたいになります。要するに、「物語を知らない人にとって、組分け帽子はまったく当たらない」ってことですね。つまり、「ハリポタテスト」ってのは、心理測定というより「今の価値観や理想像をよく表す鏡」みたいな感じなんで、「自分はどの寮か?」よりも、「なぜ、その寮に惹かれるのか?」を考えたほうが自己分析と使えて有益かもしれませんな。
ちなみに、なんで原作を読んでいる人ほどテストの精度が上がるのかと言いますと、ここで研究チームは「ナラティブ同化仮説」って考え方を提唱しておられます。ナラティブ同化仮説ってのは、ざっくり言うと、物語にどっぷり浸かった人は、キャラや集団の価値観が脳にすり込まれ、そのうち「自分はこのタイプだ!」というセルフイメージが完成、その結果として「質問に答えるときも、その物語をとおして自分を見るようになる」って現象のことです。原作ファンは、原作のイメージを通して自分を見るので、「ハリポタ性格テスト」の精度が上がりやすくなるってことですね。
この話は、個人的にハリポタテストに限らず重要な知見だと思ってまして、世に出回る「性格診断」や「タイプ分け」みたいなものの多くは、性格そのものより“理想の自分”や“価値観”を映す鏡だったりしますからね。だから、何らかの性格テストで「当たってる!」「しっくり来る!」と感じたら、それは自己理解の入口としてはわりとアリなのかもしれません。MBTIなんかもそんな感じで付き合う分には良いのではないかと(ただし、人生の判断材料にするのは、やめとけって感じですが)。
「安心すると集中力が下がる人」がいるんじゃない?問題
「集中力が続かない!」って問題の原因はよくありますが、その大きな原因のひとつに「強い感情に気を取られて、目の前の作業に意識が向かなくなってしまう」ってのがあります。たとえば、「過去の失敗を思い出しちゃった!」とか「SNSの通知が頭から離れない!」みたいなことですね。
当然ながら、どうでもいい情報は無視できないと、目の前の作業にはいつまでたっても集中できないわけで、近年では「集中力=感情のコントロール」みたいな考え方も生まれております。心理学ではこれを情動コンフリクト制御と呼びまして、とにかく自分の感情をうまく取り扱うことができるかどうかが生産性を左右するカギだと考えられているわけですね。
で、新しく出た研究(R)も「感情コントロールによる集中力アップ」の話で、まだ大まかな結論から言ってしまうと、
- 感情への振り回されやすさは、愛着スタイルに大きく左右される
みたいになります。愛着スタイルはこのブログでも何度か取り上げた考え方で、幼いころの親(とくに母親)との関係に基づいて、対人関係のクセを示す理論のことです。大きく分けて、
- 安心型=他者との距離感がうまく、感情の安定性が高い
- 回避型=依存が苦手で、近づかれると距離を置く傾向
- 不安型=見捨てられ不安が強く、相手へ依存しやすい
の3つがありまして、このうち自分がどれに当てはまるかによって、集中力をうまく発揮できるかどうかが変わってくると言うんですね。
これは中国の大学生225名を対象にした実験で、どんな内容だったかと言いますと、
- 愛着スタイル質問紙で、みんなの不安と回避の度合いを測定
- 感情ストループ課題を実施
みたいになります。感情ストループ課題は、自分の感情に心を乱されずに目の前のタスクに集中できるかどうかを判断するテストで、「SNSのニュースが気になって集中できない!」みたいな問題に悩まされるかどうかを確かめている感じです。
で、結果がどうなったかと言いますと、
- 愛着不安が高い人ほど、強い感情に流されやすい
- 特に「ポジティブな単語」が出てきたときに、意識がブレやすくなる
って感じです。つまり、見捨てられる不安が強い人は、たとえば誰かに褒められた直後や、好意的なメッセージを受け取ったあとのような場面で集中力が途切れてしまいやすいってことですな。一方で、回避型の愛着スタイルは、感情による集中力のブレとほぼ無関係だったということで、これは不安型に特有の現象なのかもしれません。
さらに、ここでは別の実験も行われてまして、今度は185名の学生に、
- 過去の安心できたコミュニケーション
- 過去の傷ついたコミュニケーション
- 過去のどうでもいいコミュニケーション
のどれかを短い文章で思い出して書いてもらい、そのあとで「今どれくらい安心してるか?」や「感情ストループ課題の成績」もチェックしたんだそうな。要するに、事前にメンタルが安心するような情報を脳に与えた上で、テストの結果はどうなるかを調べたんですね。
その結果がどうだったか言いますと、「過去の安心できたコミュニケーション」を事前に思い出した人は、
- テスト前の「安心感」はちゃんと上がった
- しかし、愛着不安が高い人ほど、むしろ集中力が乱れがちになった
って傾向が見られたそうな。つまり、安心することで逆に感情に流されて、集中力が下がってしまう人がいるってことですな。おそらく愛着不安が高い人ってのは、もともと感情のアンテナが過敏になってるので、そこに「安心していいよ」というサインが入ると、逆に「じゃあ感情を全力で処理するぞ!」みたいな状態になるんでしょうな。
一方で、「過去の傷ついたコミュニケーション」を思い出した場合はどうだったかと言いますと、
- 全体的に、感情で集中力が減る現象が改善した
- 特に、愛着不安が低い人は、「過去の傷ついたコミュニケーション」を思い出すと、集中力アップの効果が大きい
みたいになりますね。これを見ると、愛着不安がある人は、自分の脳に脅威を与えた方が、逆に集中力が高まるのかもしれない気がしますなぁ。
なので、今回の研究を雑にまとめると、
- 愛着不安が高い人は、感情に注意を奪われやすく、安心するとむしろ感情処理が暴走しちゃう。
- 脅威や緊張の感覚は、感情への注意を打ち切って、集中力を高めることがある
みたいになります。世の中には「安心すればパフォーマンスが上がる」や「リラックスすれば集中できる」みたいなアドバイスもありますが、そう簡単には言えないってことなんでしょうな。
そのため、この話を日常の生活に応用するのであれば、
- もしあなたが、人間関係に不安を感じやすく、感情に振り回されやすいタイプなら、あえて時間制限をつけたり、少し緊張感のある環境に身を置くほうが、集中力が上がる可能性がある。
って感じになるでしょう。私は回避型なのでここには当てはまらないんですけども、不安型の人には良いアドバイスじゃないでしょうか。
もちろん、ラボ内で確認された現象なので、現実世界への一般化には注意が必要なんだけど、「自分にとってどのような気分が最適か?」ってのは、一旦立ち止まって、考えてみる価値があるかもしれませんねぇ。


