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【質問】スマートウォッチって本当に睡眠を測れるんですか?

 

 

こんなご質問をいただきました。

 

スマートウォッチの測定値は本当に信頼できるのか?」を読みました。スマートウォッチの睡眠測定は精度が悪いとのことですが、これは使いものにならないレベルなのでしょうか?私はApple Watchを使って睡眠を調べているので、気になりました。

 

ということで、スマートウォッチはちゃんと睡眠の質をチェックしてくれているのか?ってお尋ねであります。私も最近はガーミンで睡眠をチェックしてまして、このテーマは気になるところです。

 

で、スマートウォッチが睡眠を計測する際には、測定のポイントが大きく分かれまして、

 

  1. 睡眠の総時間は正しいのか?
  2. 睡眠の段階はチェックできているのか?

 

という2つの指標ごとに、わりと精度が変わってくることがわかってるんですよ。まずはそのへんを見てみましょう。

 

まずは「スマートウォッチで計測する睡眠の総時間は正しいのか?」って問題から。スマートウォッチが伝えてくる「昨夜の睡眠は8時間でした」って報告は正しいのかってポイントですな。

 

この点については、クイーンズランド州立大学の睡眠科学者であるシャーリー・サージェント先生の研究(R)が有名で、Apple、Garmin、Oura、Polar、Whoopといったガジェットが、どれぐらい正しく睡眠をチェックできるのかを調べております。

 

その結果は、「だいたいのガジェットは睡眠時間の検出に非常に長けている!」というモノで、睡眠研究所でちゃんと参加者の脳と筋肉の活動を記録した場合と比べて、ここ最近のウェアラブルガジェットは、86~89%の精度で睡眠時間を判断できたんだそうな。

 

かつての睡眠トラッカーは加速度計だけで睡眠を判断していて、「動いていなければ眠っている」ぐらいの判断しかできなかったんですが、最近のデバイスは、心拍数の測定や呼吸数、皮膚温度なども使ってアルゴリズムを改良してますんで、ここらへんの精度は高いみたいね。なので、「自分がどれだけ眠ったか?」を判断したいときは、スマートウォッチの報告を信じて良さそうであります。

 

では、続いて「スマートウォッチは睡眠段階の違いを判別できるのか?」ってポイントを見てみましょう。ウェアラブルガジェットは、レム睡眠や深い睡眠、浅い睡眠みたいに、睡眠の質がどうだったかをちゃんと判別できるのかってポイントですな。

 

こちらもシャーリー・サージェント先生がナイスな研究(R)をしてくれていて、Apple Watch、ガーミン、オーラリングなどの精度を確かめてみたところ、

 

  • 睡眠段階の違いを検出する機能については、まだ発展途上の段階!
  • ウェアラブル端末は睡眠段階の50~61%の精度でしか検出できなかった!

 

とのことです。もうちょい詳しく言うと、ガーミンやポーラーなどの精度は50~51%で、最も成績が良かったOura Ringで61%って感じです。こうして見ると、睡眠段階の測定については、意外とスマートリングに分があるのかもですな。

 

まぁ睡眠段階の検出が難しいのは当然で、最近のデバイスが採用しているアルゴリズムの多くは、心拍変動(HRV)に依存しているんですよ。HRVについては「ストレスに強くなりたきゃ「ポラールH10」+「EliteHRV」が最適説」などをご参照いただければと思いますが、要は心拍から心拍へのタイミングの微妙な変動のことで、睡眠段階によって変化することがわかっております。

 

ただしHRVは、いろんな要素からの影響を受けやすい指標でして、激しい運動やストレスが多かった日はHRVが下がったりするんですよね。なので、睡眠段階を正しく把握するってのは、なかなか難しいもんなんですよ。

 

というわけで、睡眠段階を調べるためには、ウェアラブルの睡眠トラッカーはちょっと心許ないかなーって感じです。睡眠時間を把握したいだけなら、なんの問題もないんですけどね。

 

まぁ、人によっては、いつ床に入り、いつ起きるかについての客観的なデータがあるだけでも、自分の睡眠を正すための指針として役立つでしょう。万歩計を使ってる人が、「あともうちょっと歩こう!」ってモチベーションが高まるのと似たようなメリットですな。

 

また、現時点では、睡眠段階の計測は精度が低いものの、私としては「長期間の変化を見るためなら、そんなに悪くないんじゃないかなー」と思っております。たとえば、スマートウォッチが「深い睡眠の量がだいたいいつも15~20%です」と報告してきたのに、急にある日から「深い睡眠の量は10%でした」と言ってきたら、それは何かが起きているサインだと考えられるでしょう。特に深い睡眠が取れていないと、何年か後に認知障害を発症する可能性が高くなりますんで、このあたりの変化をチェックしておくのは有用じゃないかと。

 

とはいえ、おそらく多くの人にとって、わざわざガジェットを使って睡眠の変化を計測しなくても良い気がするのも確かです。私の場合は、あくまで好奇心で計測を続けてますが、たいていの人は「よく眠れなかったなぁ」なんてのは感覚でわかるはずだし、「昨日の酒が悪かったな」「もうちょい運動するか」「寝る前のスマホをやめるか」みたいな判断をするために高度なアルゴリズムはいらないですもんね。

 

ってことで、スマートウォッチで睡眠を計測すべきかは割と趣味の問題になっちゃいますんで、上記の研究の精度を参考にしつつ、ご自分で判断していただければと。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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