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カロリー制限の真実:マウス実験から見える長寿のカギ


 

カロリー制限で寿命が延びる!ってのはよく聞く話。人間を対象にした研究が難しいので、果たしてヒトでもカロリー制限で長生きできるかはわからんのですが、アカゲザルの研究では割と良い傾向が見られてまして、アンチエイジングの手法としては有望な気がするわけです。

 

というわけで、新たに出てきた研究(R)も、カロリー制限やプチ断食が長寿におよぼす影響をガッツリ調べてくれてて有用でした。マウスを使った実験なので、どこまでヒトに適用できるかは謎なんですけど、類似研究の中ではかなり徹底してるし、かなり参考になる知見が披露されてるんで、内容を押さえておくと良いのではないかと。

 

で、この研究がどのようなものだったかと言うと、研究チームは以下のような問題意識を述べておられます。

 

カロリー制限や断続的絶食は寿命を延ばすと言われるが、これが果たしてすべての人に有益なのか、あるいは一部の人にだけしか有益でないのかを調べたかった。

 

この問題を研究するには人間では難しいので、遺伝的に多様なマウスモデルに注目した。

 

とのこと。当たり前ですが、万人に当てはまるような魔法の健康法なんてないので、カロリー制限で寿命が延びる効果も人によって違うんじゃないかと考えたわけですな。確かに、カロリー制限をすれば、それだけ栄養の摂取量は下がるでしょうし、中には悪影響が出る人がいてもおかしくないですもんね。

 

ということで、この研究では、遺伝的に多様な約1000匹のマウスを、5つの食事法のいずれかに従って飼育しております。

 

  1. 1日のカロリー摂取量を基準カロリーの60%に制限
  2. 1日のカロリー摂取量を基準カロリーの80%に制限
  3. 週に1日だけ絶食(カロリー制限なし)
  4. 週に2日連続で絶食(カロリー制限なし)
  5. 好きなときに好きなだけ食べ物を摂取

 

ハードなカロリー制限、ゆるめのカロリー制限、週1断食、週2断食というパターンを作って、それぞれの効果をチェックしたわけですね。

 

その後、研究チームは、すべてのマウスの寿命がどうなったかを記録し、さらには各個体の免疫、血液、代謝、機能、行動特性など約200項目もの評価を実施。カロリー制限によってすべてのマウスの寿命が延びたのかを調べたんだそうな。かなり徹底したデザインの、よい研究じゃないでしょうか。

 

では、どんな結果が出たのかを見てみましょうー。

 

  • いつでも好きなものを食べられるマウスは平均25ヶ月間生存した。それに対し、週1〜2の断食を行ったマウスの生存期間は平均28ヶ月間だった。

     

 

  • 最も寿命が長かったのはカロリー制限を行ったマウスで、ベースラインのカロリーの80%を摂取したマウスは平均30ヶ月、60%を摂取したマウスは平均34ヶ月生存した。

 

  • カロリー制限によって逆に寿命が短くなるような兆候は見られなかった。ただし、ハードなカロリー制限には、筋肉量が減っちゃったり、免疫系が変化して感染症に弱くなったりといったデメリットも観察された。

 

ということで、デメリットも見られるものの、やはりハードなカロリー制限には寿命を延ばす働きが認められたっぽいんですな。40%ものカロリー制限はしんどすぎるので、個人的にやろうとは思わないんですけど、注目すべき結果なのは間違いないっすね。

 

ただし、この研究から得られる知見には、もうちょい別のニュアンスがありまして、以下のような結果も出ております。

 

  • 低体重、低体脂肪率、低グルコースレベルなどは、マウスの長寿には直接関係しなかった。これらの能力の根底には遺伝的要因があるため、それが長生きの鍵になる可能性がある。

 

  • 各グループの寿命には幅があり、数ヶ月しか生きられないマウスもいれば、4年半も生きるマウスもいた。 長寿マウスに共通するのは、研究チームが「レジリエンス」と名付けた要素で、 これは生涯を通じて、体重、体脂肪率、免疫細胞の健康状態を同じに保てることを意味している。

 

ということで、この2つは大きなポイントかと思われます。もうちょい簡単に説明してみると、

 

  • カロリー制限によるメリットが得られるかどうかは、遺伝的な素質によるものがかなり大きい。

 

  • カロリー制限のあいだにも、さほど体重や体脂肪が変わらないのがめっちゃ大事っぽい。

 

みたいになるでしょう。研究チームいわく、

 

このマウス研究では、遺伝の要素が強く影響していることが分かった。遺伝子は、食事の影響力を評価するための「物差し」となり、例えばカロリー制限を40%行うことで寿命が劇的に延びるが、個体差は依然として多い。

 

つまり、食事療法は特効薬ではなく、平均寿命を延ばすことはできても、個々の長寿を保証するものではない。

 

とのことで、「やっぱり遺伝子エリートには勝てないなぁ……」って気がするわけです。といっても、これは「遺伝子に恵まれないとカロリー制限など無駄!」って話ではなく、研究チームはこんなことも言っておられます。

 

遺伝は明らかに大きな役割を果たすが、肥満や不健康な食生活など、遺伝に逆行するようなことは避けたい。たとえ良い遺伝子を持っていても、不適切な行動をとれば、その効果を打ち消すことになる。

 

遺伝子の潜在能力を最大限に引き出すためには、健康的な食生活を続け、標準体重を維持することが望ましい。

 

遺伝子に恵まれようが恵まれなかろうが、とにかく健康的な食事は有効だし、特に適切な体重をキープするのがめっちゃ大事なんじゃないか、と。確かに、この研究では、体重と体脂肪率を同じレベルに保ち続けたマウスと、晩年になっても体脂肪を減らさなかったマウスが最も長生きしてまして、生涯にわたる体型維持の大事さが示されている気がするわけです。

 

さらに研究チームいわく、

 

身体は常に自己調整の状態にあり、常に『ちょうど良い』バランスを保とうとする。

 

そのため、身体の細胞機能すべてを支えるのに十分な栄養素が供給され、すべてのシステムが適切な間隔で、決まった時間に、特定の量で機能しているとき、身体は最高の状態で機能している機械のようになる。

 

これにより、身体が機能する能力が長時間持続し、寿命が延びる可能性が高くなる。

 

とのこと。つまり、人体は常に適切なバランスを取ろうとして頑張っているので、常に健康的な食事を心がけておけば、あとは体重が減らないレベルの軽めのカロリー制限を実践するのがベストなのかもですなぁ。あくまでマウス実験ながら、これはヒトにも当てはまりそうですなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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