人間の創造性はAIに勝てますか?【イベント質問のお答えシリーズ#4】
ということで、「対談イベントの質問にお答えしていくシリーズ」の第4弾です(#1,#2,#3)。今回は、対談イベントで私がたびたびテーマに挙げた、「AI」に関するご質問にお答えしていきましょうー。
人間の創造性はAIに勝てるのか問題
話の序盤にあった、AIと創造力の研究について詳しく聞きたいです。
これは、私がイベントの前半に取り上げた「大半の人類は創造性でAIに負ける」って研究に関するご質問です。これはトゥルク大学などが2023年に発表した試験(R)で、56人の人間を3種類のAIチャットボットを戦わせて、「どっちが創造性が高いか?」を調べたんですよ。
使われたAIはChatGPT-3.5、ChatGPT-4、Copy.Aiの3つで、人間とAIに「日常的な物(ロープ、箱、鉛筆、ろうそく)の斬新で創造的な使い方を考えて!」と指示して、その答えを6人の評価者に採点してもらったんですね(もちろん、評価者は「どれが人間の答えで、どれがAIの答えか」はわからない)。そこでどんな結果が出たのかと言いますと、
- AIは「低品質なアイデア」を出すケースが少なく、品質が安定していた。一方で、人間はありきたりな答えや意味不明な回答をすることが多かった。
- ChatGPTにクリエイティビティで勝てる人間は9.4%しかいなかった。平均点ではAIの方が高得点であり、AIは人間よりも斬新なアイデアを多く出せる。
- ただし、良いアイデアの最高点では人間がAIを超えることも多く、上位9.4%の 「最も創造的な人間」はAIを超える答えを出す傾向があった。
みたいになります。つまり、AIはたいていの人には創造性で勝つものの、最高レベルの創造性では人間が依然として優位なのではないかってことですな。
では、なんでAIは創造的なアイデアを出せるのか?ってとこが気になりますが、私としては「あんだけ膨大なデータにアクセスできて、過去の創造的なアイデアを記憶できるんだから、当然と言えば当然よなー」としか思えないわけです。基本、アイデアってのは過去に出た発想の組み合わせなので、元ネタが多いほど意外性のあるコンビネーションを生むのは楽になるでしょうからね。さらには、AIは人間みたいに気分の変動を受けないので、「焦って頭が真っ白になる問題」も起きないでしょうしね。これもAIの強みでしょう。
他方で、「じゃあ人間には何の強みもないのか?」と言われれば、そんなこともないんじゃないでしょうか。というのも、
- AIは「驚き」や「ユーモア」などのニュアンスを捉えにくいので、本当に芯を食ったアイデアを出すのはおそらく人間のほうが上手い。
- AIは過去のデータに依存しているので、「これまで誰も考えたことがないアイデア」を生み出すのは難しい。
ってあたりはあるんじゃないでしょうか。まぁこれらの「強み」は、あくまで創造性が全人類の上位約10%に当てはまる人にしか適用できないので、ほとんどの人には「AIの力を借りたほうがいいんじゃない?」って感じになるんでしょうが。
また、「人間はクリエイティブでAIに勝てない!」って事実は2024年にも報告(R)されてまして、こちらはヒューストン大学とライス大学の研究チームが行ったもの。全部で5つの実験を行って、参加者に3つの異なる条件でアイデアを出すように指示したんだそうな。
- ChatGPTを使う
- Google検索を使う
- 何も使わずに自力で考える
その後、一般参加者(同じ被験者グループ内の評価者)とビジネス経験5年以上の専門家によって、集まったアイデアを評価させたところ、
- ChatGPTを使ったアイデアは、どちらの評価者からも「より創造的」と評価された!
みたいな結論だったらしい。こちらも「AIの方が確実に良いアイデアを出せるよー」って結論でして、人類としてはなかなか悲しい感じが漂うわけです。
でもって、この研究でも、AIの創造性ってのは「異なる概念をうまく組み合わせる能力」によるものだと指摘されているのが大きなポイントっすね。たとえば、日常的な問題に対するアイデアを考える際、人間はどうしても「過去の経験」や「一般的な発想」に縛られちゃうんだけど、上でも見た通り、AIは膨大なデータをもとに、異なる分野の概念を組み合わせるのが得意ですからね。つまり、iPhoneみたいに「過去に存在したいろんな技術を組み合わせて新しいものを作る」みたいなタスクについては、AIのほうが格段に得意だってことになりましょう。
というと、「創造性でも負けたら人類の敗北だ!」みたいな気分になる人もいるかもですが、個人的には、これらの研究は「AIをうまく活用して、人間の創造性を高める方向で考えた方がいいっしょ!」てのを示唆してるものだと考えております。これは前にもちょっと触れた話ですけど、上の2つのデータってのは、AIを受け身の姿勢で使うんじゃなくて、創造性のサポート装置として使うぶんにはかなり有用であることも示してますんで。
たとえば、具体的な使い方としては、
- 「ひとりブレスト」の「相棒」として使う:これまでの研究では、集団で行うブレインストーミングってのは、逆に創造性を下げる方向に働くことがわかっている。これは、人前でアイデアを発表するのに緊張したり、大勢でネタ出しをすることで手抜きが発生するのが原因だとされる。しかし、AIを相手にしたブレストであればこの問題を解決できるし、既存の思考パターンに縛られる問題も解決しやすくなる。
私が実際にやってる使い方だと、
1)本を書く時とかに、まずは自分のアイデアを3〜5個書き出す(「序章にマサイ族の逸話を置いて、そこからタンパク質の摂取量問題につなげては?」みたいな)→
2)ChatGPTに「他に良い導入の展開はない?」と尋ねて、発想のバリエーションを増やす→
3)「このアイデアをもっと面白くできる?」「関連する斬新なアイデアは?」みたいに尋ねて、さらにバリエーションを増やす。→
4)最後は直感で選別するか、出たアイデアを組み直す。
みたいにやってることが多いですね。まぁこれでAIが出たアイデアを実際に採用するケースってほぼないんだけど、発想の足がかりにはなるし、なによりも手を動かすことで別のアイデアが出やすくなるのが大きいなーと感じております。
みたいなものが考えられるでしょう。私の場合はブレスト用に使うことが多いですが、人によっては「このアイデアの実現が難しいポイントは?」「このアイデアをもっと魅力的にするには?」「もっと面白くできる?」みたいに尋ねて批評サポートに使うのもありでしょう。とにかく、AIってのは「アイデアの種を増やす」「視点を広げる」「フィードバックをもらう」ために活用するぶんには、人間の創造性を上げる方向に働いてくれますんで、そこらへんに留意しながら付き合っていくといいんじゃないでしょうか。
などと書いてたら、1つの質問への回答だけでだいぶ長文になったので今回はこのへんで。【イベント質問のお答えシリーズ】はまだまだ続きまして、次回もAI編をお送りします。