創造性を高めて良いアイデアを出すにはどうすればいいんですか?【イベント質問のお答えシリーズ#1】
ということで、こないだ翻訳家の岸本佐知子さんと対談をしまして、個人的にめっちゃタメになったんですよ。そこで「疑問があったらブログで解答します!」と募集したところ、大量のご質問をいただきましたんで、今回から複数のシリーズでお答えしていきます!
で、まずは今回の対談イベントの大きなテーマだった「創造性アップ」についてです。
創造性に必要な「違和感」の察知力を鍛えるには?
岸本さんは、日常で多くの違和感を感じていると対談でお話しされていました。日常生活において「なぜ」という違和感を感じられるようになりたいと思いました。この力を鍛える方法を教えていただきたいです。
このご質問は、対談の中で話に出た「創造性を高めるには日々感じている“違和感”を覚えておくのが大事!」ってテーマにからむポイントですね。わたくし、“創造性”は日々の違和感を察知することから生まれるものだと思ってまして、それというのも、
- 新しいアイデアや価値を生み出すには、「既存の枠組みとは違う視点」 を持つことが必須。しかし、私たちが普段生きている世界には、暗黙のルールや既存の常識が根づいているので、違和感を持つのが難しくなっている。新たな視点を持つためにも、「当たり前」に違和感を覚える能力は必須だと思われる。
- 人間の脳ってのは、スピーディに情報を処理するために、頭の中に構築された既存の枠組み(常識とか社会コードとか)を使って世界を理解している。しかし、そのままだと枠組みから外に出た発想が出せないので、「違和感」を起点にして新たな疑問を持ち、既存の枠組みを揺さぶる必要が出てくる。
- 違和感を察知するためには、普段の環境を「なんとなく」見過ごすのではなく、意識的に観察する必要がある。これが「発見力」につながりやすい(岸本さんは、ホントにこれがうまい)。一方で、たいていの人は、日常の些細なズレをスルーしてしまうことが多い。
みたいなメカニズムがあるからです。ここらへんの話は、創造性研究でもよく指摘されている内容でして、違和感をスルーせずに保持する能力ってのは、良い発想を生むのに欠かせないはずだと思ってるんですよ。
では、この力を鍛えるにはどうすれば良いかってことで、次のご質問に移りましょう。
「違和感力」をつけるにはどうすれば良い?
鈴木さんは日々の小さな違和感を記録していますか? 記録の仕方も良い方法があれば教えてください!
あと、記録するだけでなく、適時適当なタイミングで引き出すコツみたいなものも知りたいなーと思います。
私の場合、「違和感」についてはiPhoneのメモアプリに記録してます。違和感は数秒で頭から抜けちゃうので、とにかく自分が手軽に記録できれば何でもよいと思います(アブラサスの薄いメモ帳とかでも良いと思う)。私がここにどんなことを書いているかと言いますと、
- 鳩時計の鳩って、鳩じゃなくてカッコウの鳴き方だよなぁ
- Xの「いいね」は5,000を超えたあたりからクソリプがつき始めるなぁ
- 旅館のバイキングって、ライチが置いてある率が異常だよなぁ
- 合宿免許って、免許合宿のほうが呼び方として正しいよなぁ
みたいな感じです。ご覧のとおり「だからなんだ?」って記述ばかりでして、ここから新しい視点やアイデアが広がるケースは1%にも満たない感じではあります。ごくまれに本を書く時に役立ったりしますが。
ただし、ここで大事なのは「とにかく記録し続ける」ってことでして、やってるうちに違和感に敏感になってくるものなんですよ。この感覚は伝えづらいんだけど、脳の違和感エリアがずっと活性化する感じと言いますか。あくまで私だけの経験で恐縮ですが、とりあえず何でも良いから500件ぐらい記録してみると、「違和感脳」が発達してくるイメージですかね。
で、記録したものは週ごとに見直して、「なんか面白いな」「やっぱり変だな」と思ったものに「★」マークをつけたりしてます(ここは完全に直感で良い)。これを何度か繰り返して、★が3つになったものは別のファイルに転記してる感じです。これをやってると、「自分にとって面白いものは何か?」「何を私は面白いと思うのか?」って認知が深まるし、オモシロ違和感の発見率がドンドン高まっていきますんで、お試しください。
年を取ると想像力は落ちるのか問題
想像力は元に戻るものでしょうか? 昔は色々なアイデアが湧いてきたのですが、年齢を重ねるにつれて想像力が衰えてしまった気がします。悲しいです。鍛え直すべきでしょうか?
まー、今とところ「歳を取ると想像力が落ちる」ってデータはないんですが、年齢を重ねると認知機能に変化が起きまして、新しい情報を覚える能力が下がったり、昔の情報を思い出せなくなったりはするので、これが想像力に悪影響をもたらす可能性はあるかもしれません。私も過去の記憶はどんどん抜けるようになってきましたし。
ただ、一方で年を取るごとに結晶性知能(蓄積された経験や知識を活かす能力)は高くなるので、この能力を活かした想像力や創造性の高まりは生涯続くんじゃないかと思っております。そこらへんについては、「人生後半の戦略書 ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法」が詳しいので、お読みになってみると良いでしょう。
創造性への取り組みとか
私はパレオさんの創造性も一般的に比べて高いと感じてます。
しかし岸本さんの独特なものよりは少ないのかな?と感じてます。
そこで気になったのが、自身で創造性を高めたいと感じているのでしょうか?
またそれにあたって取り組んでいることはありますか?
どう考えても、創造性があったほうが日常が楽しいので、高めたいというよりは「なるべく発揮できたらいいなぁ……」ぐらいの感じです。そのためにやってることとしては、
- 上述した違和感ノートはずっとつけてる
- 「運の方程式」で取り上げた「Qマトリクス」もやってる
- なんも出てこない時は「現代で最も求められるスキル「創造性」を成長させるための5か条」で書いた「アイデアがない状態で行動を起こす」を指針にしてる
といったあたりになりますかねぇ。あと、いまの課題としては、私は一貫してリラックスが下手なので、いまいち拡散的な思考が発生しづらいところがありまして、「細かいイメージを頭に思い描く」って介入は意識してやってみることがありますね。ここらへんは、岸本さんが「細かいイメージを描くのは翻訳の時に必ずやる」とおっしゃってましたな。
小説よりも創造性が上がるものとは?
想像力を上げるために、小説を読む以外に一つ挙げるとしたら何ですか?
これはいろいろありすぎてひとつに絞るのが難しいし、「想像力が高まる複数の介入を比較してみたよ!」って研究もないので、あくまで私の意見になっちゃうんですが、
- 海外旅行に行く!
ってのは割とおすすめです。これは心理学者のアダム・ガリンスキー博士も指摘しているポイント(R)で、先生の調査によれば、海外で過ごす時間が長い人ほど創造性が高まる傾向が見られるらしいんですな。この効果は、「異文化を積極的に取り込んでいる人」ほど大きいらしく、このような人は、一貫して洞察力、連想力、アイデア生成力が高かったんだそうな。
これは非常によくわかる話で、海外に行って異なる文化を体験できれば、どうしても自分の先入観や思い込みを疑い直す必要が出てきますからね。海外に行くと自然に従来の枠組みから離れられるってのは、十分にある話ではないでしょうか。創造性のために海外に行きたい方は、ぜひツアーでなく、自分でスケジュールを組み立てて行ってみてくださいませ。
「共感力」と「空気を読む力」問題
岸本さんは、「空気が読めない」ことに困っていたけど、翻訳家としては「共感力を発揮されている」とおっしゃっていました。空気を読む力と共感する力は、似て非なるものなのでしょうか?
確かに「空気を読む力」と「共感する力」は似たところがありまして、どちらも他者の微妙な行動の変化に気づかなきゃいけないところは同じっすね。つまり、両者とも観察力や感情的知性が重要なのは間違いないでしょう。
なんだけど、この2つの能力ってのは、
- 共感力=他者の感情や心理状態に寄り添い、内面的な変化を敏感に感じ取ったり、相手の内的イメージに没入できる。
- 空気を読む=グループ全体の雰囲気や社会的な暗黙のルール、非言語的なシグナルなどを理解できる。
って点で異なってたりするんですよ。そのため、共感力が高い人ってのは一点に集中して情報を処理するのが得意な傾向がありまして、そのおかげで目の前の個人の感情に強くフォーカスできたり、感情の微細な変化を敏感に察知したりといった能力が発揮できるんですね。
が、一点に集中するぶんだけ、集団全体の雰囲気や文化、状況に根ざした暗黙のルール、非言語的なシグナルといった幅広い情報をまとめるのは難しくなり、「場の全体の流れ」みたいなものの処理はおろそかになる傾向があったりします。言ってみれば、「空気を読む力」は集団に適応するためのスキルなのに対し、「共感する力」は個々の人間の感情を理解するためのスキルって感じでして、そこらへんが違ってくるんじゃないかと。
また、岸本さんの場合は、「常人では忘れてしまう細部の記憶をちゃんと覚えている」ってのもおそらくポイントで、脳内に雑多すぎる情報が残ってしまう結果、暗黙のルールのような広範囲の情報を処理するのには難儀するのかもしれません。まぁ、この「細部を覚える」能力はクリエイティブに必須なので、そこは善し悪しってとこじゃないでしょうか。
ちなみに、これに関連した話として「自分が空気を読める人間かどうかがわかる「SM尺度」」ってエントリも過去に書いているので、合わせて参考にしてください。