このブログを検索




感情を制する者はキャリアを制す!──「新・エモーショナル・インテリジェンス」を徹底解説した本を読んだ話

 
 

新しいEQ(The New Emotional Intelligence)」って本を読みました。『EQ 2.0』で日本でも有名なトラヴィス・ブラッドベリー博士の最新作でして、当然ながらEQ研究の最新版をまとめた一冊になります。個人的には、EQについては「どこまで有用性があるかはまだ謎が多いよなー」って印象ですけど、感情コントロールが大事なのは間違いないので、とりあえず追っかけております。

 

その点で本書は「現代の生活と仕事にフィットするEQの鍛え方」がわかりやすくまとめられておりまして、非常に参考になりました。ということで、いつもどおり本書から参考になったポイントをまとめておきましょうー。

 

  • ブラッドベリー博士の調査によれば、「職場でのトップパフォーマーの92%が、EQ(感情知能)スコアが高かった」とのこと。この背景には、「IQやスキルでは差がつきにくくなった現代では、感情の扱い方こそが差別化要素になっている」という現実がある。たとえば、

    ・同じような学歴・職歴の同僚が並ぶ場合は、ストレスへの耐性や対人スキルが評価されやすい
    ・管理職になればなるほど、「どう部下と向き合うか」「チームの空気をどう作るか」が問われる
    ・プレゼンや商談では、相手の感情の流れを読める人ほど成果を出せる

    つまり現代では、「賢い人」より「感情を扱える人」のほうが上に行く時代だと言える。

 

  • EQは「生まれつきの才能」じゃなく、「後天的に伸ばせるスキル」なのがミソ。本書では「EQは鍛えると脳が変わる」事実を神経科学的に説明しており、感情の発生源である「大脳辺縁系」と、それを理性的に扱う「前頭前皮質」の間には、情報伝達の通路がありまして、EQのトレーニングを重ねることでこの通路が物理的に太くなるとしている。これは、心の中に「感情から行動へのバイパス道路」を作るようなイメージで、回数を重ねるごとに脳の配線が変わり、感情的な反応が穏やかになっていくのだと考えられる。

 

  • これは筋トレで筋肉が太くなるのと同じ原理であり、

    初期:ムダに怒る/焦る/混乱する
    中期:あ、また来たな……と気づいて止まれるようになる
    後期:そもそも感情の乱れが起こりにくくなる

    という変化が段階的に起こっていく感じになる。これはメンタル面だけでなく、対人関係やキャリアにもじわじわと効いてくるのだと思われる。

 

  • ブラッドベリー博士の調査によると、「EQが高い人は平均して年収が37,000ドル(約550万円)多い」というデータもある。具体的には、EQを1ポイント上げるごとに年収が1,700ドル増え、これはEQが高い人ほど昇進・信頼・リーダーシップの獲得率が上がるからである。また、「会議で空気を読んで発言できる」「クレーム対応で感情を抑えて冷静に対応できる」「部下の失敗に建設的なフィードバックができる」といったスキルは、どの職場でも重宝されるし、報酬にもつながりやすい。

 

  • 人間の脳は、同じ行動を繰り返すと、その動きを効率化するための神経回路を作る。これはEQのトレーニングでも同じで、最初は意識して抑えていた怒りが、だんだんと自然に湧かなくなり、最終的には“怒らない人”になる、という行動の自動化が起こる。しかも脳の性質上、一度定着した習慣はなかなか消えないため、これは「習慣を使った自己再設計」だと表現できる。

 

  • 本書では、EQを以下の4つの柱に分けて説明している。

    自己認識 → 自分の感情に気づき、反応のパターンを理解する力
    自己管理 → 衝動やストレスをコントロールし、冷静に行動できる力
    社会的認識 → 他人の感情や空気を読み取り、共感する力
    人間関係の管理 → 信頼関係を築き、対立を乗り越える力

    この4軸をバランスよく伸ばすことで、EQ全体が底上げされていくのだと考えられる。本書では、各分野ごとに合計60の戦略が用意されていて、自分に合ったトレーニングを少しずつ習慣化していく形になっている。

 

  • 本書で紹介されるアプローチには、以下のようなものがある。

    ・怒りファネル:怒りという感情の裏には、実は「恥」や「恐れ」など別の感情があるので、それを見極めて、根本の感情に正面から向き合うと怒りは消える。これは神経回路の再構築に直結するプロセスを利用したものであり、もしイライラしたらその裏にある感情を書き出すようにしてみるとよい。

    ・朝に「感情チェックイン」:目が覚めたら今日の気分を一言で表してみる。

    ・6秒ルール:特にイラッとした時や言いそうになった瞬間に、6秒ほど間を空ける。その間は、ゆっくり深呼吸しながら、自分の心身にどのような変化が起きているかをチェックする。

    ・エモーション対ロジック:感情が理性より強く出そうな時、自分の中で「感情が言うこと vs 理性が言うこと」をそれぞれ書き出して比べる。この可視化により、「感情に引っ張られて判断が偏ってないか?」という自己チェックが可能になり、冷静な判断がしやすくなる。

    ・“引き金”のリスト化:自分の感情がグッと揺さぶられやすい 人・場面・言動を紙に書き出しておく 。自分の感情が暴走しやすいパターンを事前に認識できれば、その場面に向かう前に心の準備ができるようになる。

    ・決定理由の共有:「なぜそうするのか」を言わずに進めると、相手が不安を感じやすいので、決定の根拠と背景を簡潔に説明する習慣をつけることで、誤解や不信が減り、チームの安心感が高まる。

 

ということで、シンプルで実行可能なワークが豊富で、実際に使いやすい本になってるんじゃないでしょうか。他にも、この本には「EQテスト™」というオンライン診断ツールが付いていて、今のEQの強みと弱みを数値で可視化できるようになってるのもよいですね。多分、邦訳も出るでしょうから、気になる方はぜひどうぞ。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM