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小説を楽しく読むためには、どこに注目すると良いでしょうか?【イベント質問のお答えシリーズ#8】

  
 

ということで、「対談イベントの質問にお答えしていくシリーズ」の第8弾です(#1,#2,#3,#4,#5,#6,#7)。前回に引き続き、「小説」に関する質問にお答えしまーす。

 

 

小説を楽しく読むポイントは?

小説の読み方でお聞きしたいことがあります。自分は小説を読むとき、傍観者の視点で読み、あまり物語の先行きを予想せず、流れにまかせて読むことが多いです。そこで、パレオさんは、小説を読む際に特別何か意識していることはあったりしますか?例えば、特定の登場人物に感情移入するなど。もし、あれば教えていただけると嬉しいです。

 

ってことで、前回は「より小説を楽しむために、フィクションを読み慣れない人がやっとくと良いこと」をまとめたわけですが、ここではもうちょい踏み込んでみましょう。実際に小説を読んでいる間に、どんなポイントを意識すると、より内容を楽しめるようになるのか?って話ですな。

 

まあ正直、このあたりは好みの問題も大きいし、エンタメ小説みたいに読者サービスが多い作品は流れのままに読めば良いと思います。が、リディア・デイビスやらフォークナーみたいなものを読む際には、意識的に文体や構造をチェックしたり、物語のリズムや語りの技法を意識した方が楽しくなるケースが多いのも事実なんですよね。

 

では、前回の「下準備」を終えた後、いざ読書を始めた時にはどうした方がよいかを見てみましょう。すべてを最初から完璧に押さえようとする必要はありませんが、気になる視点から取り入れると読書が楽しくなって良いのではないでしょうか。

 

 

1.声と語り口

語り手は誰か? 語り方や口調にはどんな特徴があるか?を意識してみよう!ってポイントです。たとえば、

 

  • 語り手は物語の内側にいるか? それとも外側から客観的に語っているか? 1人称で語っている時は、語り手の主観がゴリゴリに入っていないか? 信頼できない語り手の可能性はないか?とか考えると、「日の名残り」とかが「この老人の言ってることは実は怪しい!」みたいに気づけて楽しいです。

 

  • 文体はシンプルか、華麗で装飾的か? 皮肉っぽいか、軽妙か、感傷的かなど、語り手の“態度”に注目してみるのも吉。ここを意識すると、読者が語り手をどこまで「信用すべきか」や、物語をどう受け取るべきかがわかってきたりしますんで。

 

 

2.視点

誰の目線で物語が進むのかを意識しよう!ってポイントです。たとえば、

 

  • 物語の視点は固定か変化するか? 語り手と視点人物が同一か、分離しているか?
  • 特定のキャラクターの内面だけを描いているか? 『戦争と平和』みたいに全ての登場人物の考えが語られているか?

 

ってとこは意識しときたいですね。「誰の目線で物語が語られるか?」を意識することで、登場人物の心理やストーリーの構造が見えやすくなりまして、「ホールデンは情緒不安定で嘘をつくなぁ」ってことがわかり、疑いながら読む姿勢がブーストするはずであります。

 

 

3.登場人物の“言葉”や“思考”の扱い

会話や思考が小説のなかでどのように描かれるかを意識してみよう!ってポイントです。具体的な質問としては、

 

  • 登場人物が「直接話法("〜"と彼は言った)」でセリフを語っているか、それとも「間接話法(彼は〜と言った)」で要約しているか?:これを意識すると、たとえば『高慢と偏見』なんかはエリザベスの心情が自由間接話法によって表現されてるので、読者が主人公の視点を通じて物語を“体感”できる設計になってるんだなーってのがわかる。

 

  • 行間や含みが多いセリフはないか? どんな本音や隠された真意を読者に想像させようとしているか?:ここを意識すると、「このセリフ、実は誰の視点で描かれているんだろう?」とか「明示されていない本音が隠れているのでは?」と考えるきっかけになって良い感じです。

 

みたいな感じっすね。あと、遠回しに伝えられる会話や方言の使い方は、キャラクター同士の距離感や微妙な上下関係を示すこともあるんで、そこもふくめて考えると楽しいでしょう。

 

 

4.言語表現

作者が選ぶ単語や表現のしかたをじっくり見よう!ってポイントです。たとえば、

 

  • ボキャブラリーの豊かさ(難しい言葉を多用するか、シンプルな言葉に絞っているか)
  • 独特なリズム(短い文を続けるか、長く流れるような文を使うか)
  • 比喩(「〜のような」)や象徴(特定のモチーフを使って登場人物の感情を暗示するなど)がどのように使われているか
  • くり返し登場するキーワードはないか、もしあるなら、その言葉には特別な意味が込められていないか

 

ってあたりは重要なチェックポイントっすね。ここらへんを意識すると、「なんでここでこの語を選んだんじゃろ?」とか「この比喩、どんなイメージを読者に与えたいんだろう?」って疑問が浮かぶはずで、そんな問いの繰り返しが面白さをブーストしていきますんで。

 

 

5.時間と物語構造

物語の「時間の使われ方」を意識しようぜ!ってポイントです。たとえば、

 

  • ストーリーが素直に過去から未来へ進むのか?
  • 途中で回想シーン(フラッシュバック)や物語の順序を入れ替える構成になっているか?
  • とにかく過去と未来がごっちゃごちゃになってるか?

 

みたいなとこっすね。こうした時間構造を意識しとくと、「どうしてこのタイミングで回想が入るのか?」や「時間軸をバラバラにすることで何がしたいのか?ストーリーの謎を深めたいのか?それとも人間の時間意識を混乱させたいのか?」みたいな問題に注意を向けられますんで。ちなみに、時間の飛躍や反復があるときは、作者が強調したいテーマや感情がそこに隠れていることも多いんで、ここらへんもぜひ注目してくだいませー。

 

 

6.パラテクスト

小説の本筋以外に付随する要素(パラテクスト)にも目を向けようぜ!ってポイントです。具体的には、章タイトルやサブタイトルの付け方、脚注や注釈、物語に挟まれる書簡、さらには「断章」や挿入される詩歌などがこれに該当します。このバージョンには、語り手が直に読者に話しかける「メタ的な語り」とか、急に「今まで読んでた文章は古い手紙だった」みたいな事実が明かされる手法などがありますね。

 

こうしたパラテクストを意識しとくと、「何気ない章タイトルが、実はその章全体のテーマを暗示しているかも?」とか「脚注のなか作者の独自解釈が仕込まれているかも?」みたいな発見につながって良い感じです。たとえば、物語の中で登場人物が手紙や日記を読むシーンなどがあると、それが“書く・読む”ってテーマを暗示してることも少なくないんで、ここらへんも合わせてご注意ください。

 

 

7.他の作品や文化への言及

作品内で他の文学作品、神話、歴史的な出来事、映画、音楽などへの言及が見られる場合は、その参照元にも目を向けてようぜ!ってポイントです。たとえば、登場人物の名前がギリシャ神話から取られているとか、特定の詩が引用される場面があるとか、実際の社会問題や政治的事件をベースにしてるとか、何らかの“外部”とのつながりに意識を向けるわけっすね。こうした相互参照で作品に奥行きを与えるやり方はホントよく使われるんで、要チェックであります。

 

ここを意識すると、「なぜこの作者はこの作品(あるいは神話)に言及したんだろう?」とか「この歴史的背景がキャラクターの行動や価値観に影響しているのでは?」って疑問が生まれてきて、より読み進めるのが楽しくなるし、元ネタを知ることで面白さが倍増することもよくありますね。逆に元ネタがわからなくても、あとから調べてみると「世の中は知識のネットワークだ!」って実感が生まれて、また楽しさがブーストしますんで。

 

 

 

8.読者という存在

小説の中で「読者」(私たち)がどんなふうに扱われているかも大事なとこっすね。たとえば、カミュの『異邦人』なんかは、「登場人物はなぜこんな行動をとるのか?」と読者が考えさせられるように仕組まれてまして、そこに“カミュが想定した読者像”が潜んでたりします。

 

また、作品によっては、語り手が直に「読者のあなたは」とか呼びかけてくる手法で読み手をフィクションに巻き込もうとするケースがあったり、「あなただけに向けて書きました!」と感じさせるような構成や文体になっている場合もありますんで、「この作者はどんな相手に向けて作品を書いているのか?」あるいは「物語の語り手は読者をどのように誘導しているのか?」ってところを考えてみるのも楽しい読み方のひとつっすね。

 

 

 

9.空間・場所・オブジェ

物語の舞台となる空間や風景、背景が大きな意味を持つことは多め。たとえば『嵐が丘』なら、荒野の光景と登場人物の激しい感情をマッチさせてるし、都会を舞台にした作品では雑多な人間模様や息苦しさがキャラクターの内面とリンクしていることは、めっちゃありますからね。また、特定のアイテムやオブジェクトが何度も使われている場合、たとえば家や庭、車などの描写が何度も繰り返されるなら、それはほぼ確でテーマとリンクしてますし(ただの作者のフェティッシュであることもありますが)。

 

ここらへんに目を向けると、「なぜ作者はこの場所を選んだのか?」「この風景は登場人物の心情をどう表しているのか?」といった疑問が生まれて、空間や場所が単なる設定じゃなくてひとつの“語り手”のように見えてきまして、これまた読後の余韻が深まったりします。

 

 

 

10.感情面の働き

小説を読むときには、自分の感情の変化にも気を配ろうぜー!みたいなポイントです。小説を読むあいだに私たちが味わってる感情は、作者が意図的に生み出している場合が多いので、そこらへんを意識すると、また「このシーンで自分はなぜこういう気持ちになったんだろう?」「作者のどんな手法がこの感情を引き出したんだろう?」って内省が生まれて、作品をただ“読む”だけでなく“感じ取る”読み方に切り替わるんですよ。

 

同じように、「周囲が感じたエモーションと比較する」ってやり方もアリで、もしも自分の感じたことと周囲の読者の感想が違うなら、そのギャップを考察してみるのも楽しくて良い感じです。「作者は意図してコメディにしたのに自分はあまり笑えなかった」なんてズレを発見でき、それが逆に自己分析につながったりもしますんで。

 

 

 

11.繰り返しや対比

同じキーワードやフレーズが何度も出てきたり、あるキャラクターと正反対の性格を持つキャラクターが出たきたりした時は、「絶対にここで小説のテーマやメッセージを際立たせようとしてるじゃん!」と思って読み進めてみるのが吉。たとえば、「赤い花」が何度も出てくる時はキャラクターの情熱や危機を象徴している場合があったり、陽気で開放的な主人公と陰気で内向的な親友を対比させて、人間の成長を浮き彫りにするようなケースはめっちゃ多いですからね。

 

ここに注目すると、ストーリー全体が「似たような場面やキーワードを違う角度で繰り返しているのかも?」と気づけるようになったりして、これがまた楽しさをブーストしてくれるはず。そうした繰り返しを追っていくことでテーマが徐々に明確になったり、クライマックスへの伏線を発見することもよくありますしね。

 

 

ってことで、11個ほど並べてみました。ただし、上記のポイントは私が普段なんとなくやってることをリストアップしただけでして、決して「これが正解!」ってわけじゃないのでご注意ください。

 

また、ここらへんを一気に意識するのは難しいし、私も作品によって注目するとこは変えてますんで、まずは「視点」や「言語表現」から意識して、興味のある要素を深掘りしていくと、より楽しく読めるんじゃないでしょうか。どうぞよしなにー。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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