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A2ミルクは本当にお腹にやさしいのか?韓国チームの最新研究から見えてきた「現実」

 

最近大きなスーパーで少しずつ目にするようになったのが「A2ミルク」であります。たいていは、「お腹にやさしい」や「消化にやさしい」といったキャッチコピーで売られてまして、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人には気になる存在でしょう。

 

そもそもA2ミルクとは何かをチェックしておきましょう。まず前提として、牛乳に含まれるたんぱく質のうち、約30%は「β-カゼイン」という成分で構成されております。一般的に市販されている牛乳は、このβ-カゼインがA1型とA2型の混合になっていて、A1型が25〜75%、残りがA2型という割合が多いんですね。

 

一方で、A2ミルクってのは、β-カゼインが100%A2型になっているのがポイント。遺伝的にA2型だけをつくる牛から搾ったミルクを「A2ミルク」と呼んでいるわけですな。

 

で、なぜA2型が注目されるのかというと、A1型は消化される過程で「β-カソモルフィン-7(BCM-7)」というペプチドを生じることがあり、このBCM-7は動物実験で以下のような作用が報告されてきたからです。

 

  • 消化のスピードを遅らせる
  • 乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)の働きを邪魔する可能性がある

 

そのため「A1型が多い牛乳よりも、A2ミルクのほうが消化にやさしいはず!」という理屈が生まれ、A2ミルクはお腹に良いって発想になったんですな。

 

では、A2ミルクは本当にお腹に良いのかってことで、韓国からナイスなデータ(R)が出てきたんで、こちらをチェックしておきましょう。この研究は、「牛乳を飲むとお腹の調子が悪くなる!」って問題に悩んでいる35人の成人を対象にしたもの。デザインはランダム化クロスオーバー方式で、参加者は以下の順で試験を行ったんだそうな。

 

  1. A2ミルク(500ml/日)を2週間飲む
  2. 2週間のウォッシュアウト期間を空ける
  3. 普通の牛乳(A1/A2混合)を2週間飲む(順番は参加者ごとにランダム)

 

さらに、それぞれの期間でみんなの腸内細菌の多様性を測定し、お腹の調子がどう変わったかもチェックしたとのこと。なお、牛乳は研究チームから支給され、飲み忘れを防ぐよう管理されたらしい。

 

でもって、その結果がどうだったかと言いますと、

 

  • A2ミルクを飲んでも、腸内細菌の多様性は普通の牛乳と変わらず。
  • A2ミルクを飲んでも、消化器症状の改善も見られなかった。というか、お腹の膨満感はA2ミルクのほうが増えたという報告も多かった。

 

だったそうな。ここまで違いが見られなかったってのは、ちょっと意外ですなぁ。「腸内細菌の多様性が変わらない」というのは、乳糖の代謝や腸内の発酵活動に大きな影響を与えていない可能性が大きいってことですからね。つまり、少なくともこの条件(1日500mlのA2ミルクを2週間飲む)では、腸内環境が良くなるって証拠は得られなかったわけですな。

 

ただ、これだけだと判断はしづらいので、他の研究結果も整理してみましょう。A2ミルクの研究はここ10年ほどでポツポツ出てまして、ざっくりまとめるとこんな傾向が見られてます。

 

  • 小規模試験(10〜45人)の場合
    • 小規模な試験だと効果がまちまちで、A2ミルクによって腹痛が減ったという報告もあれば、ガスや下痢が増えたという報告もある。
    • 乳糖不耐症の人で軽度の改善が見られたケースもあるが、統計的に有意な差に届かないことが多い。

 

  • 大規模試験(数百人規模)の場合
    • A2ミルクによってお腹の具合が改善が確認されたって報告は少なくない。
    • たとえば、2017年の中国研究(600人)では、A2ミルクで膨満感や腹痛、ガスなど4/6の症状が改善している。
    • 2025年の幼児180人対象の試験でも、便通や膨満感などが改善したんだとか。

 

ということで、実験の規模によって結果が異なるという感じになっております。この差は、サンプルサイズによる統計的パワーの違いもあるんでしょうが、もうひとつは対象者の違いも大きいんでしょう。大規模な試験ってのは、基本的に「乳糖不耐症だ!」と自己申告した人だけを集めていて、実際にラクターゼ活性が低い人が多かった可能性がありますからね。

 

ってことで、現時点のデータから考えると、A2ミルクを試す価値がありそうなのは以下のケースだと言えましょう。

 

  • 乳糖不耐症の人(呼気検査などで確認された場合)
  • 幼児(牛乳や乳製品を日常的に摂っていて、消化器症状がある場合)

 

これらに対して、特に牛乳でお腹を壊さない人や、腸内環境改善だけを目的にA2ミルクへ乗り換える場合には、大きなメリットは期待できなさそうっすね。また、A2ミルクは「低乳糖」ではなく、乳糖の量は普通の牛乳とほぼ同じなので、乳糖不耐症が重度の人では症状が出る可能性は十分ありましょう。そこもご注意ください。

 

あと日本国内でもA2ミルクは手に入りますが、価格は通常の牛乳の1.5〜2倍程度。たとえば都内スーパーでは、普通の牛乳が1Lあたり200円前後なのに対し、A2ミルクは300〜400円台が相場なんで、コスパ面でもややハードルが高いっすね。

 

そんなわけで、あらためて話をまとめておくと、

 

  • 最新の韓国研究では、腸内細菌や消化器症状にほぼ差なし(膨満感は増加)
  • 大規模試験では改善が見られた例もあるが、対象は乳糖不耐症の人や幼児が中心
  • 健康な成人ではメリットは限定的だと思われる

 

みたいになります。私としては、「牛乳を飲むと確実にお腹が張るけど、完全に避けるのも寂しい」という人が、A2ミルクを2〜3週間試してみる価値はあるんじゃないかと思っております。ただし、「腸活のためにA2ミルク!」というのは、現時点のエビデンスではちょっと飛躍があるかもしれませんな。どうぞよしなに。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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