今週半ばの小ネタ:認知行動療法の長期効果、嫌なニュースを拡散したくなるストレス、カロリー制限と骨
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
認知行動療法で不安はいつまで改善し続ける?
このブログではよく「認知行動療法はいいよー」って話をしてます。メンタルの改善効果についてはとにかく良いデータが多いので、基本的な考え方を知るだけでも役に立つと思うんですよね。
で、新しいメタ分析(R)も認知行動療法の話で、まず結論から言っちゃうと、
- 認知行動療法は治療が終わっても1年は効果が続くよ!
みたいになります。研究チームいわく、
約10人に1人は、人生のどこかの時点で不安に関連した障害を抱える。このような障害を持つと、日常生活の喜びや生活の質が深刻に損なわれてしまう。認知行動療法(CBT)は、このような不安関連障害の治療法として使われているが、長期的な有効性はよくわかっていない。
ってことで、もともと「認知行動療法に効果があるのはわかるけど、長期的な効果とか再発率はどうなのよ?」って言われることも多かったんで、今回の結果はなかなかうれしいんじゃないでしょうか。
これは4,118人の参加者をふくむ69のRCTを分析した研究で、分析の結果をもうちょい詳しく並べておくとこんな感じです。
- CBTは治療が終わってから12ヵ月までの中等度の症状の軽減と相関する
- ここで効果が確認されたのは、不安障害、社会不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など
- 12ヵ月後の効果は、不安障害と社会不安障害は小から中程度だったが、PTSDは効果が大きいままだった
全体的にはわりと良い成績かなーって印象ですが、ただし1年後の追跡調査を実施した研究はわずか数件しかないのと、あくまで上のは平均的な効果でしかないので、人によっては「短期間で再発した!」ってケースも十分にある点はご注意ください。CBTの効果が出やすい人と出にくい人の違いがどこにあるかは、まだよくわからないんで。
嫌なニュースを拡散したくなるストレスと拡散したくならないストレス
ネガティブなニュースがポジティブなニュースより広がりやすいのはよく知られた話で、危険を煽るフェイクニュースが拡散されやすい一因になってたりします。
その理由としては「悪いニュースはストレスがたまるから発散のために拡散したくなるのだ!」みたいな考え方があったりするんですが、果たしてこのせつは正しいのか?ってのを調べたデータ(R)が出ておりました。
コンスタンツ大学が141人の参加者を募集した研究で、まずは全体を2つのグループに分けてます。
- 「就職面接のためのメモを書いてください。そのメモを他人が見ることはありません」と指示される
- 「就職面接のためのメモを書いてください。そして、そのメモの内容を、後で2人の面接官に説明してください」と指示される
当然、2番目のグループのほうが大きなストレスを感じることになったわけですね。
その後、両グループにはトリクロサン(危険性が指摘されている化学物質)に関する記事を6パターン読むように指示。それぞれの記事は、トリクロサンについてのポジティブ、ネガティブ、ニュートラルな意見のいずれかが書かれてたそうな。
でもって、さらにみんなのストレスレベルをホルモンや主観的なテストで測定したら、結果はこんな感じだったらしい。
- すべての参加者は「トリクロサンが怖くなった」と答えたが、ストレスが増加した参加者(=ストレスホルモンが増えた人)はネガティブな記事の影響を受けにくく、他の人にネガティブな情報を拡散しようとする確率が低かった
- ただし、主観的なストレスの多い参加者(「自分はストレスを感じている」と思っている人)は、他の人にネガティブな情報を拡散しようとする確率が高くなった
ってことで、「体の生理的なストレス反応はネガティブなニュースの影響を下げる」が、「心理的なストレス反応はネガティブなニュースの影響を上げる」という実にややこしい結論になってますね。
しかしよく考えてみれば、「生理的なストレス反応」ってのは、言い換えれば「体よ!落ち着くのだ!」と全身に指示が出てる状態とも言えるわけで、となれば目の前のネガティブな情報を軽視する方向に進むのもわかる気がします。逆に主観的なストレスは警戒心を高めるので、ネガティブな情報へ必要以上に意識が向くんでしょうな。
今回の知見をフェイクニュースの拡散対策に使うのは難しいとこですけど、とりあえず自分がネガティブな情報を共有したくなった時は、「これはストレスの影響では?」とか自問してみるのもいいんじゃないかと。
カロリー制限中にも運動で骨密度は維持できるか?
ダイエットのためにはカロリーを減らすのが必須!ってのは動かせない事実ながら、あんまり食事を減らしすぎれば骨がスカスカになりやすいのが問題のひとつ。栄養がないとどうしても骨密度が下がってしまいがちなんですよね。
ということで、最近のメタ分析(R)では、「カロリー制限に運動を組み合わせたら骨は維持できるの?」って問題をあつかってました。強い骨を作るには運動が欠かせないのは常識ながら、果たしてカロリー制限下でも意味はあるのか?って話です。
ここでは先行研究から13件が選ばれていて、参加者の年齢は平均57歳で閉経後の女性を中心とした852人で構成されております。各実験におけるカロリーの制限量は1日あたり250~1500kcalで、介入期間は12週間から18ヵ月間だったそうな。
で、結論をまとめると、
- 全身の骨密度は運動しようがしまいが有意差はない
- が、股関節と大腿骨頚部の骨密度には大きな改善が見られた(どちらもWMDが0.03 g/cm2の改善)
- 特に65歳以上の参加者が200日以上のトレーニングを行うと、劇的な改善が見られる
って感じになります。全体的にはそこまでのメリットもなさそうですが、高齢者になると股関節を折りやすいですから、大腿骨頚部が強化されるってのはいい話じゃないでしょうかねー。