「応援の科学」──たった一言でパフォーマンスが4%上がる理由
「応援はどれだけ運動のパフォーマンスを上げるのか?」ってのを調べたレビュー論文(R)が面白かったので、内容をメモっておきます。
声援でパフォーマンスが4.1%上がる?
これはスイスのスポーツ科学者サーシャ・ケーテルフート先生らが行ったレビュー論文で、「有酸素運動のパフォーマンスを上げてくれる外部の要因ってなに?」みたいなポイントを掘り下げてくれてます。どんな手法をチェックしたのかと言いますと、
- 応援:観客や仲間からの声かけによって、痛みや疲労から注意をそらす方法。
音楽:リズムやテンポが動作のペースメーカーになり、気分の高揚や疲労感の軽減をもたらす方法。
セルフトーク:自分に向かって「いける!」「あと少し!」などと声をかけることで、集中力と意志力を保つ定番のテクニック。
競争:他者との比較や勝敗意識によって、限界を超えて力を引き出す。
みたいになります。いずれも運動中のテンションを上げるためによく使われる手法ですが、実際に運動のパフォーマンスを上げてくれるものはなにかってことですな。
で、まずはレビューの結論をざっくりまとめちゃうと、
- どれも効果はある。ただし、人によって効き方がバラバラだから注意してね!
といった感じです。どんな方法を使っても意味のある効果は得られるものの、その効果は個人差が大きすぎて「これがベスト!」とは言いづらいらしい。
ただし、そんな状況でも「最も安定した効果を示した手法」なら特定することができてまして、それが「応援」だったんだそうな。オランダの研究者バス・ファンフーレン先生などが行った実験では、被験者がVO₂maxテスト(限界まで走るテスト)を受ける際に応援された時には、スコアが平均4.1%上昇したってことで、これは42.195kmのマラソンなら約1.7km分の差にあたるイメージですね。まあ、ランナーじゃないとありがたみを感じにくいかもですが、個人的にはなかなかの数値だよなー、とか思いました。
なぜ応援でパフォーマンスが上がるのか?
応援で運動のパフォーマンスが上がる仕組みはシンプルで、簡単に言うと「人間の脳は同時に処理できる情報が限られているから」って感じになります。運動の時に誰かが声をかけてくれると、脳は情報処理力の一部を「他人の言葉」に移しまして、それによって疲労や痛みに向く注意のレベルが下がるんですな。おかげで苦痛の知覚も下がって体が少し楽に感じられるようになり、運動のパフォーマンスが上がるわけです。
ありがたいことに、ファンフーレン先生は「どんな応援が有効なのか?」ってまで提案してくれていて、これがまた参考になります。具体的には、
開始直後:60秒に一回ほど声をかける
中盤(疲労が出てきたら):20秒に一回ぐらい
終盤(限界ゾーン):拍手を交えつつ連続で応援する
音量:50→70デシベルに段階的アップ
言葉:「ナイス!」「その調子!」「いける!」など、事前調査で“有効”とされたフレーズ
みたいになります。めっちゃ細かくておもしろいっすね。この通りにマラソンの沿道で応援したらウザがられそうですが、応援が科学的に“設計できる”行為だってのは興味深いところですな。
さらに面白いのが、英国のスポーツ心理学者たち(ソフィー・ギブス=ニコルズ先生とか)が提唱する「IMPACT」という応援のフレームワークでして、彼女らは実際にランナーを取材し、「どんな応援が嬉しかったか」「逆にイラッとしたか」を分析して、その結果を以下の6要素にまとめておられます。
- I:Instructional(指示的):「次の給水まで500m!」「フォーム意識して!」みたいに、 “使える情報”を与えて応援するパターン。集中が戻りやすい。
- M:Motivational(励まし):「いい走りだ!」「ここまで頑張ってる!」みたいにシンプルにほめるパターン。自己効力感を上げるのに向いてる。
- P:Personalized(個人的):名前を呼んだり、目を合わせたりするパターン。応援される側に「見られている」感覚がうまれ、これが社会的責任を刺激する(良い意味で)。
- A:Authentic(本音で):嘘の励ましは逆効果なので、「まだいける!」より「ここまで本当によく頑張ってる!」の方が刺さる。
- C:Confidence-Building(自信を強化):「もう十分にやれてる」「絶対に完走できる」と伝えるパターン。こちらも自己効力感に働きかけて、パフォーマンスを上げてくれる。
- T:Tailored to the Distance(距離に合わせる):「あと少し!」ではなく「残り1.8km!」と具体的に言うのが大事。正確さが安心感につながるんで。
いずれも納得の指針ですけども、個人的にこれら6つは自分で自分を応援したいときにも使えるんじゃないかと思っております。運動しているあいだに「辛い!」と思ったら、IMPACTモデルを思い出しながら、「この辛さが心肺機能アップにつながるぞ!」みたいに、自分に語りかけてみるといいんじゃないかと。それだけで4%強くなれるんだったらもうけもんですからねぇ。


