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なぜヤバいやつほど最初は印象が良いのか?問題

   


なぜヤバいやつほど最初は印象が良いのか?」ってのを調べた研究(R)が面白かったのでメモ。

 

これは中国・南京師範大学のチームが行った試験なんですが、「サイコパスやナルシシストが魅力的に映るのはなぜ?」ってテーマに取り組んだものです。いわゆる「ダークトライアド」と呼ばれるヤバい性格特性を持つ人たちが、なぜか他人から「信頼できそう」と思われてしまうメカニズムを調べたわけですね。

 

簡単におさらいしておくと、ダークトライアドってのは「社会的に好ましくない」性格傾向のことで、以下の3つを意味しております。

 

  1. ナルシシズム(自己愛):「自分は特別だ」「注目されるべきだ」と信じてやまない。魅力的だが、共感性に欠ける。

  2. マキャベリズム(策略性):他人を操ることに長け、目的のためなら手段を選ばない。冷静かつ計算高い。

  3. サイコパシー(反社会性):恐怖や罪悪感を感じにくく、衝動的。短期的なリターンには強いが、長期的関係を壊す。

 

これらの特性を持つ人は、他人を利用することに抵抗が少なく、悪い噂を流す、嘘をつく、感情を操作する、といったヤバい行動を自然に行う傾向がありまして、できるだけ避けたほうが良い人たちだったりします。が、過去の研究によると、こういった人たちは最初から怪しく見えるわけではなく、むしろ「第一印象がいい」ことがわかってまして、なんとも困ったものなんですよ。

 

そこで、そもそも「なぜダークトライアドは第一印象が良いのか?」ってのを掘り下げたのが、この研究になります。

 

 

「悪い人ほど信頼される」──最新研究の衝撃

研究チームは、ここで4つの実験を行ってまして、計700人以上の男女(平均年齢19歳)を対象に、以下のような複数の試験をしております。

 

  1. 参加者に何人かの顔写真を見せ、「この人はどれくらい信頼できそうだと思うか?」を評価してもらう。

  2. その後、架空の投資ゲームでお金を預けるかどうかを判断してもらう。

  3. 上記の結果を、写真の被写体のパーソナリティと比較する。

 

こんなふうに、「ぱっと見の印象と実際のパーソナリティ」をチェックしたところ、結果は「ダークトライアド傾向が高い人の顔は、ダークトライアドでない人よりも『信頼できそうだ』と評価されやすい!」って感じだったんだそうな。要するに、私たちは「本当はヤバい人間を信頼しやすい」傾向があるってことでして、これは嫌になっちゃいますなぁ。

 

でもって、さらにこの研究では、ダークトライアドな人の顔ほど「魅力的」「好感が持てる」とも判断される傾向があったそうで、これが他者からの「投資(=信頼)」につながっていたとのこと。性格がヤバい人ほど魅力的に見えるってんだから、これも困ったもんですなぁ。

 

ここで重要なのは、研究者たちが他の要因をコントロールしても、なお「ダークトライアドの顔が魅力的に見える」って結果が残ったところです。たとえば、各人の支配性や外向性、単純な顔の美しさみたいな要素とは関係なく、心理的な闇が顔の特徴にまで滲み出ており、それが“魅力的に見えている”かもしれないってことです。いやー、解せない……。

 

では、なぜダークトライアドの顔は魅力的に見えるのかってことですが、ここにはいくつかの要因があって、

 

 

  • 自己演出力が高い:ナルシシストやマキャベリストは「どう見られているか」に異常に敏感で、髪型や眉、服装、姿勢、表情まで徹底的に整える。結果として“信頼できそうな外見”を自ら作り上げる。

  • 非言語的な自信のシグナル:サイコパス的傾向がある人ほど、緊張や恐怖を感じにくく、目線やボディランゲージが安定している。人はそれを「落ち着き」「強さ」と誤認しやすい。

  • 感情表現のコントロール:マキャベリストは表情を戦略的に使うことが多く、必要なときに笑顔を見せ、必要なときに真顔になる。これが“誠実さ”や“知的さ”の印象を強める。

  • シンメトリーと手入れの良さ:ナルシシストは外見への投資が多く、肌や体型のメンテナンスを怠らないため、結果的に「顔の対称性」が高くなる傾向がある。これが生物学的な魅力と直結する。

  • 社会的スキルの高さ:彼らは他者の感情や反応を読むのがうまく、“どうすれば好かれるか”を経験的に学んでいる。その洗練された「印象操作力」自体が、外見的魅力として現れる。

 

といった要因が大きいらしい。つまり、ダークトライアドってのは、意識的・無意識的に“魅力的に見える演出”をしているってわけですな。

 

これに加えて、人間は「魅力的な人は正しいのだ」と信じやすいバイアスがあるので(いわゆるハロー効果)、結果として私たちはダークトライアドの人を「能力が高い」「誠実だ」「優しい」と自動的に思い込んじゃうらしい。怖いですねぇ。

 

 

 

“闇の魅力”が通用するのは「短期的関係」

ただし、この研究には救いも提示されてまして、こうした「闇の魅力」は短期的な関係では効果的でも、長期的にはバレることが多いことが指摘されておりました。研究チームいわく、

 

ダークトライアドたちは、短期的な協力場面では信頼を得やすいが、長期的関係では信頼を失う傾向がある。

 

とのことで、ダークトライアドの成功ってのは長く続かないんだよーって話ですね。確かに、いくら最初は自信満々な態度でダマせても、長期的に関係を続けていたら共感の欠如や他者軽視は絶対にバレちゃうから、これは当たり前でしょうね。

 

ダークトライアドの短期的な魅力に打ち勝つのは難しいですが、ざっくり対策を考えると以下のようになるでしょうな。

 

  1. 第一印象を「保留」する癖をつける人は出会ってわずか100ミリ秒以内に「信頼できるか」を判断してしまうというデータがある。この瞬間的な判断をいったん“棚上げ”するだけでも、錯覚に流されにくくなるはず。初対面で「この人は魅力的だ!」と感じたら、一晩寝かせて評価するのがおすすめ。

  2. 「ユーモア」と「称賛」に敏感になる:ダークトライアドは相手のガードを下げるのがうまく、笑わせたり、絶妙なタイミングで褒めたりすることで、こちらの警戒心を溶かしてくる能力が高め。なので、「一緒にいると楽しい人ほど要注意」「褒め方がうまい人はこちらを操作しているのかも?」みたいなポイントを念頭に置いとくといいかも。


  3. “恩義”を感じた瞬間に距離を取る:心理操作の基本は「借りを作らせること」で、ちょっとした親切をされて「この人、いい人だな」と思った瞬間、私たちは相手に譲歩しやすくなる。なので、相手が恩義をかけてきたときこそ、「これは計算かもしれない」と一呼吸置くのもいいかも。

 

まあいずれも強引に他人を疑わなきゃいけないので、ちょっとしんどい作業ではあるんですけど、やたら魅力的に見える人がいたら軽く警戒しとくのはアリかもですね。最低でも「魅力=善ではない!」ってとこを頭に入れておくだけでも、いらぬトラブルを回避できるんじゃないかと。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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