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トレーニング効果に男女差はあるのか?性差を気にせず理想の体を手に入れる科学的アプローチ

 
 

「女性は脂肪を燃やしやすい!」とか「男性は筋肉がつきやすい!」とか、運動に関する男女の差に関するネット記事を読んだことがある人もいるかと思います。だからこそ、男女でトレーニングの内容を変えねばならないのだ!みたいな考え方ですな。

 

では、この考え方が正しいのかと言いますと、たしかに過去の研究でも「男女の違い」は報告されております。たとえば、

 

  • 女性は有酸素運動で脂質を優先的にエネルギーとして使いやすい
  • 男性は糖質代謝に頼る傾向がある

 

みたいな傾向ははっきりと示されているんですよ。この報告を見ると、やはり男女でトレーニングの方法を変えるべきかなーって気もするわけです。

 

が、近ごろチェックしたデータ(R)では、この考え方が正しいかどうかを判断するヒントを与えてくれてて良い感じでした。

 

これはドイツの研究チームが行ったマルチオミクス解析で、これがどんな分析法なのかをざっくり言うと、

 

  • DNAのメチル化状態(エピゲノム)
  • RNAの発現量(トランスクリプトーム)
  • 実際に作られるタンパク質(プロテオーム)

 

の3段階を全部調べることで、「筋肉がどう変わるのか」を多層的にチェックするという、ちょっとマニアックな手法なんですよ。これを男女25人(男性9人、女性16人)に当てはめて、有酸素運動後の筋肉の生検を行ったんだそうな。これにより、「トレーニングに性差はどう影響するのか?」を正しく調べられるわけです。

 

で、研究から何がわかったのかと言えば、ポイントは以下の通りです。

 

  1. トレーニング前の筋肉には、明確な性差がある:男性は速筋(瞬発系)に多いタンパク質や糖代謝系酵素が豊富。女性は遅筋(持久系)に多いタンパク質や脂質代謝系の因子が優位。DNAメチル化にも大きな差があり、84%の性差領域が女性側で過メチル化(=遺伝子が発現しにくい)。つまり、スタート地点では「男の筋肉」「女の筋肉」には分子レベルの違いがかなりあったと言える。


  2. 有酸素運動を1回やると、反応のしかたに違いが出た:1回の運動をした後、女性は解糖系やTCA回路関連の遺伝子がアップした。一方で、男性はミトコンドリアや酸化ストレス関連の遺伝子がアップした。なので、単発の運動でも、それぞれ反応の方向性が違うと考えられる。


  3.  ところが8週間の有酸素トレーニングで、ほぼ同じになった:8週間の有酸素運動を終えた後で調べると、男女ともに、酸化的リン酸化やATP合成に関わるタンパク質が185種類アップ。結果として、最初にあった性差の多くが消失した。

 

ここで重要なのは、「トレーニング前の状態」と「トレーニング後の状態」を分けて考えることでしょう。多くのフィットネス系コンテンツでは、

 

「女性は脂肪を燃焼しやすいから、こういう運動を」

「男性は速筋が多いから、こっちを優先」

 

みたいなアドバイスも多いんですが、今回の研究を見る限り、これは短絡的すぎる可能性が高いっすね。というのも、このような男女差は「非トレ状態」での話であり、8週間のトレーニングでごっそり変わっちゃうからです。

 

ということで、今回の研究から学べる実践的なポイントをまとめてみると、こんな感じになります。

 

  1.  性差を「最初からの固定値」と思わない:まず大前提として大事なのは、「性差はトレーニングで変わる」という認識を持つことでしょう。つまり、「自分は女(男)だから~」という前提で運動法を選ぶ必要はないってことですな。むしろ、目標やライフスタイルに合った方法を優先すべき。


  2. 「有酸素運動」は、性別に関係なく基本戦略に:今回の研究では、週3回・8週間の持久系トレーニング(バイク30分+トレッドミル30分)によって、筋肉のエネルギー代謝システムが男女ともに似た方向へ変化していて、特に「ミトコンドリア機能のアップ」「TCA回路、脂肪酸代謝の活性化」「速筋→遅筋へのシフト」が起きているのはナイス。これらは体力向上、体脂肪減少、疲労耐性アップなどに直結するんで、週2〜3回の有酸素運動(Zone2〜Zone3程度)は、性別に関係なく、日常の疲れにくさ改善や身体の土台づくりに有効でしょう。

    具体的には、30〜60分の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)を週2〜3回はやっときたいところ。心拍数の目安は、最大心拍数の60〜75%くらいをキープしとくと良いでしょう。


  3. 筋トレのプログラムは、「性別」より「ボリューム」で組む:この研究では、トレーニングを重ねるほど、性差は目立たなくなることが示されてるんで、男性でも持久力を鍛えれば持久系の筋肉に寄せられるし、女性でも筋肥大にフォーカスすれば速筋系が発達するってことになりましょう。なので、筋トレのプログラムを組むときは「性別」はさほど気にせず、ボリュームを基準にするほうがよさげ。

 

ってことで、 フィットネス業界には「女性向け◯◯メソッド」とか「男性ホルモン活性化トレーニング」みたいな打ち出し方をしてるところもありますが、今回のような研究を見ると「気にしなくてもいいんだろうなー」って感じですね。結局は、自分の目標に合ったトレーニングをコツコツ続けるのが最適解だろうってことで。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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