自己啓発界で大人気の選択理論は本当に役に立つの?
ここ数年、自己啓発の界隈で人気なのが「選択理論」。ウィリアム・グラッサー博士が1960年代に考案した心理学の技法で、勝間和代さんが推奨して日本でも有名になった感じ。
選択理論の名前は聞いたことがあったものの、主流の心理学書ではまったく話が出ないもんで、正直うさん臭い印象を持ってたわけですが、念のために基本書を読んでみることにしました。
で、まず驚いたのが、グラッサー博士って精神病の存在を全否定してるとこ。「すべての問題は、その人が選んだものだ」ってのが選択理論の基本的な考え方なので、当然ながら鬱病も統合失調も自分で選んだ結果だって話になっちゃう。このあたりは結構なトンデモぶりで、自己啓発の世界でしか選択理論の名前を聞かないのも納得というか。
もちろん、それでも実際に治療の効果があれば問題はないんですが、Wikipediaでリアリティセラピー(選択理論をもとにした治療法)の項目を読むと、実証研究がどれも「リアリティセラピー・ジャーナル」っていう身内の学会誌に出たものばかりで、どうにも信頼性に欠ける感じ。それ以外でちゃんと選択理論の有効性を証明した研究もなさげだし。
もっとも、書いてあること自体はそんなに悪くなくて、
- 他人は変えることができず、こちらからは情報を与えることしかできない。
- 自分にできるのは、他者に対する反応を変えることだけ。
- 自分を変えることは可能なので、ムダに悲観的になってはいけない。
- 外部をコントロールしようとすると自分が不幸になる。
あたりは「お説ごもっともでございます」としか言いようがないところ。
ただし、こういった考え方は、2,000年以上も前に仏教やストア派の哲学者が主張したことで、この発想を推し進めると、お釈迦さんやセネカが言うように、希望も欲望も捨てて静穏に生きることを目指す方向に行くしかないわけですが、そこまでの突き詰めがないのも個人的には不満なところ。
そんなわけで、選択理論についてざっくりまとめると、
- オリジナルの部分はトンデモか科学的に実証されていない。
- 正しい主張の部分は大昔から言われてきたこと。
- 仏教やストア派哲学と違って実践的な側面も甘い。
といった印象であります。「そうか!他人のことに悩まければいいんだ!」と一時的にテンションを上げる効果はありそうですが、それならば、ちゃんとした実証研究があるポジティブ心理学系の本を読んだほうがいいんじゃないの?と思う次第です。