運動をすれば20代の若者よりも体内は若返るのか?って問題を調べたメタ分析の話
炎症が老化を促進する!みたいな話は何度も書いていて、「最高の体調」でも大きなテーマのひとつにしております。「慢性的な低レベル炎症」ってのは、ゆっくり確実に体をむしばんでいき、心疾患やガン、慢性痛、早期死亡などの原因になっちゃうんですよ。
近年はこの現象に名前もつけられまして、「インフラメイジング(inflammaging)」などと呼ばれております。「炎症(inflammation)」と「老化(aging)」を組み合わせた造語ですね。
この名前からもわかるとおり、慢性的な炎症は年齢とともに自然に増えていく傾向がありまして、その原因としては、
- 老化細胞が増える説(=壊れた細胞がゴミのように残り、免疫系を刺激し続ける)
- 腸内細菌の変化説(=悪玉菌が増え、腸から炎症性物質が漏れ出す)
などなど、いくつか仮説が提示されております。どの仮説が正しいのかは謎ですが(おそらくどれも正しいと思われる)、いずれにせよ「年を取る=炎症がちょっとずつ高まる」ってのは、ほぼ間違いない話なわけです。
では、このインフラメイジングを食い止めるにはどうしたらいいのか?ってことで、このブログでおすすめしているのがご存じ「運動」であります。運動ってのは一時的に体内の炎症レベルを上げるんですけど、それによって体内の修復システムが起動し、インターロイキン-10のような炎症を抑える物質をどんどん産生してくれることがわかってきたんですよ。つまり、運動をすると一時的に炎症は悪化するものの、おかげで長期的には体を強くしてくれるわけっすね。
で、ここからが本題ですが、近ごろレアル・マドリード大学院などの研究チームが、「運動を何十年も続けたら、インフラメイジングを防げるのか?」ってテーマでメタ分析を行ってくれてました(R)。これは17件の研究データ(対象者649人)をまとめて分析したもので、対象となったのは、
- 35歳以上で長年トレーニングを続けてきた「マスターズアスリート」
- 同年代の運動習慣がない一般人
- 運動をしていない20代の若者
って感じです。この3グループを比べて、運動量と炎症レベルの関係について、精度が高めな知見を引き出してくれたわけです。
ここで何がわかったかと言うと、まずは「マスターズアスリートのほうが、慢性炎症マーカーが明らかに低かった」ってのが大事なポイントです。特に注目すべきは、
- C反応性タンパク(CRP):炎症マーカーの代表。アスリートはこれが少ない。
- インターロイキン-10:抗炎症性サイトカイン。アスリートはこれが多い。
って2点で、年を取っても運動を続けていれば、体内の炎症レベルを大幅に抑えられることが、あらためてわかったんですな。つまり、持久系の運動は、インフラメイジングに対してかなり有効な「ワクチン」みたいな役割を果たしてくれる可能性が高いわけです。これはアラフィフの私にはありがたい結論ですなぁ。
が、だからといってさすがに「20代の若者」に勝てるはずもなく、運動をしてない若者は運動をしまくってる中年よりも炎症レベルが低かったらしい。残念ながら、どんなにトレーニングしても「20代の肉体」には戻れないってことで、やっぱ若さには勝てないんですなぁ……。
ついでに、さらにデータを細かく見てみると、運動の種類によって効果に違いがあることもわかりまして、これも大事なポイントでしょう。
- 持久系運動(ランニング、サイクリングなど)→ 基礎的な炎症レベルを下げる効果がしっかり確認された
- 筋トレ→ 効果は不明(まだ研究数が少ないのでなんとも言えない)
ということで、今の時点では、炎症を抑えるためにはやはり有酸素運動のほうが有利っぽい感じがするわけです。特に、持久系の運動をよくする人はインターロイキン-6(IL-6)が適切にコントロールされてたそうで、これは個人的におもしろい結果でした。この分子は、運動直後には急上昇して炎症を抑える方向に働いてくれるんだけど、普段のレベルが高すぎると逆に炎症を促進してしまうという厄介なやつなんですよ。なので、このIL-6のレベルが適度にコントロールできるってのは、めっちゃ大事なんですな。
残念ながら、この文献だけだと「炎症を抑えるための最適な有酸素運動のやり方」はわからないんだけど、過去の研究も参照してみれば、だいたい以下のような運動メニューがよろしいのではないでしょうか。
- 週3回・30分の中強度ジョギング:まず超ベーシックなところから。中強度ってのは「ややきつい」と感じるペースで、鼻歌がギリギリ歌えないぐらいのペースで走るのが目安です。心拍数でいうと「最大心拍数の60〜70%」あたりで、このくらいの負荷が一番、抗炎症効果を引き出しやすいと言われております。ちなみに、30分も時間が取れない日は、15分だけでも十分効果ありなので、無理に頑張りすぎないのがコツ。
- 毎日10分・テンポウォーキング:「いきなりジョギングはハードル高いわ……」という方はこちらをどうぞ。テンポウォーキングってのは、「普通の速さよりちょっと速めに歩く」ことで、「ちょっとだけ息が上がる」ペースを目指してくださいませ。これだけでも、CRPの低下や抗炎症性サイトカインの増加は狙えますんで。
もちろん運動の上級者であれば、これよりも負荷が高いエクササイズに取り組んでみるのもアリです。が、きっちりしたトレーニングじゃなくても、「毎日ちょっとだけ体を動かす」だけで、じゅうぶんにインフラメイジング対策になりますんで、できるところからやってみてはいかがかと。