数字社会に奪われた主導権を、数学で取り戻す方法とは?を書いた本を読んだ話
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『ロビンフッド数学(Robin Hood Math)』って本を読みました。著者のノア・ジャンシラクーサ先生はベントレー大学の数学者で、本書はあらゆる価値や評価が数字で表される現代を、どうやって生き抜くべきかをまとめた一冊になっております。
SNSのフォロワー数、健康診断の血液データ、クレジットカードの信用スコア、会社の「生産性ポイント」まで、現代は数字にまみれた世界になってるのは周知の事実。著者はここに警鐘を鳴らしてまして、
現代の私たちは、ほぼすべての場面で数字ゲームに巻き込まれている。そして、そのルールを知らなければ、ただの“駒”として扱われてしまう。
と申しておられます。もちろん、数字で物事を測るのは大事なことなんだけど、今は規模が桁違いになってるんで、こいつが私たちの幸福感に悪影響を与えてるんじゃないかと考えてるわけですね。いかにもありそうな話ですなぁ。
ってことで、いつも通り本書から勉強になったところのまとめです。
- 現代社会において、私たちはさまざまな場面で「数字」というフィルターを通して評価されている。
- 就職活動:応募者は、AIやソフトウェアでスコアリングされ、面接に進む前にふるい落とされる
- ローン申請:FICOスコアなど、過去の金融行動をまとめた数値で可否が決まる
- 医療現場:アルゴリズムが治療の優先順位を決め、保険会社はデータで費用負担を計算する
- 臓器移植:待機者はスコア順に並べられ、次に誰が臓器を受け取るかが決まる
- 災害時の救助:FEMA(米国連邦緊急事態管理庁)は「統計上の人命価値」を7.5百万ドルと数値化している
ここまで徹底して数値化されると、私たちは、自分の人生がスプレッドシート上のセルに収まっているかのような気分にさせられてしまう。
- では、こうした数字社会に抗うにはどうすればいいのか。ジャンシラクーサ先生は、「その数字の“作られ方”を知れば、主導権を取り戻せる。」との処方せんを提案している。たとえば、
- SNSのアルゴリズム:ほとんどのプラットフォームは、シンプルな数式で投稿の優先順位を決定する。この数式の仕組みを知れば、逆に自分の発信や閲覧環境をチューニングできる。
- 大学ランキングや信用スコア:指標の計算方法を知れば、最小の労力でスコアを改善する戦略が立てられる。
- リスク管理の数理:家の購入、医療の選択、投資判断など、「なんとなく」ではなく確率と期待値で意思決定できるようになる。
って感じ。要するに、数字に翻弄される立場から、数字を使いこなす立場へ移行するってことですな。
- 「いや、自分は数字が苦手なんで……」って人に対しては、ジャンシラクーサ先生は「数学が苦手なのは能力のせいではなく、“動機”の欠如が原因だ」と指摘する。私たちは、生まれてこのかた、歩く・話す・感情を表すといったスキルを自然に習得してきたが、これらは数学よりはるかに複雑なスキルだと言える。ここで重要なのは、「やらされる数学」と「役に立つ数学」の差だけで、たとえば投資のポートフォリオ最適化を学ぶと、老後資金の減り方が劇的に改善されるかもしれない。同じように、ワクチンのリスク計算を理解すれば、SNSの風評に惑わされず、冷静に判断できる。
- 数学というと「数字と公式」というイメージが強いが、本質はもっとシンプルであり、それは思考の精度を上げる技術なのだと言える。ざっくりまとめると、数学は以下の要素で成り立っている。
- 精密化:漠然とした感覚を、明確な数値モデルに落とし込む
- ノイズ除去:膨大なデータから本当に意味のあるシグナルを抽出する
- 意思決定:不確実な状況でも合理的な選択を下す
これらは受験勉強のためのスキルではなく、情報過多で混乱しやすい現代を生き抜くための“防具”として機能してくれる。
- 数学的リテラシーは、個人を助けるだけでなく、それは必ず社会全体の利益にもつながる。こちらもざっくりまとめると、
- 健康面:ワクチンのリスク理解が進めば、集団免疫が強化される
- 経済面:投資判断の精度が上がれば、経済全体が安定する
- 政治面:投票行動が論理的になれば、民主主義が健全化する
みたいになる。ジャンシラクーサ先生は、「数学はエリートだけのものではなく、公共財として市民全員の手に戻すべきだ」と主張している。
- では、私たちは何から始めればいいのか。数字社会で主導権を握り返すには、いきなり高度な数式や統計理論を学ぶ必要はなく、むしろ日常の小さな習慣を積み重ねるだけで「数字の奴隷」から「数字の支配者」へと立場が変わっていく。その方法は本書を参考にしてほしいものの、簡単なところでは、以下を意識するだけでも効果は得られる。
- 数字の“出どころ”を確認する習慣を持つ:現代のランキングやスコアの多くは、計算方法を知った瞬間に意味が変わるものばかり。たとえば、米国の有名大学ランキングでは「卒業率」や「教授の給料」など、間接的な指標が多く、教育の質そのものは測っていない。また、企業の生産性スコアは、特定の作業量だけをカウントしており、創造性やチーム貢献は無視されることもある。さらに、SNSのエンゲージメント指標も、単なる「いいね」ではなく、「滞在時間」「コメント」「シェア」など複数の要素が加重平均されていることが多い。
実践例としては、
ニュースや広告で数字を見たら、必ず「これは何をどう計算している数字なのか?」と一度調べる。
元データが公表されていない場合は、あえて鵜呑みにしない。
数字の算出方法を知ったら、周囲にシェアして「数字の背景を読む」癖を広げる。
ぐらいでもいい。こうすることで、「数字の威光」に惑わされにくくなる。 - 自分が使うサービスのアルゴリズムを理解する:私たちが日々目にしている情報は、必ず何らかのアルゴリズムによって並べ替えられている。これを知らずに情報を摂取するのは、ルールを知らずにゲームをしているようなものなので、たとえば以下のようなポイントを知っておくと良い。
FacebookやInstagramは、エンゲージメント(特にコメントやシェア)を重く評価する傾向がある。
TikTokは、視聴時間とリプレイ回数を強く重視する。
YouTubeは、クリック率と総再生時間のバランスで推奨動画を決定する。
Google検索は、被リンク数やページ滞在時間を評価に使う。
実践例としては、よく使うSNSや検索エンジンについて公式ヘルプや外部の分析記事を読んで「何を重視して順位を決めているのか」をメモしたり、自分の行動がアルゴリズムにどう影響するかを意識して使ったり、無駄な情報を減らしたい場合はそのジャンルをスルーし続けるなどの実践を行うと良い。 - 日常の小さな意思決定に数学的思考を試す:数学的思考と聞くと難しく感じるが、要は確率や期待値を意識して選択するということを意味する。たとえば、
・買い物では、「安いから買う」ではなく、「使う頻度 × 耐用年数」で実質コストを計算して判断する。例:1万円の靴を100回履く → 1回あたり100円。5千円の靴を20回で履き潰すなら、1回250円。
・健康管理では、「週に何回運動すればいいか?」を、疾病リスク低下のデータから逆算して決める。
・時間配分では、「集中力の高い時間帯 × 仕事の重要度」で、1日の作業順序を最適化する。
といった感じになる。このように、1日1つでいいから生活の中の選択を数字で比較してみるとよい。計算はざっくりでOK(むしろ過度な精密さは不要)で、慣れてきたら、金銭・時間・健康といった重要領域に広げていくとよい。