手首のツボを押して乗り物酔いを防ぐバンドって買う意味があるの?
酔い止めバンドのご質問をいただきました。
手首を押して乗り物酔いを止めるガジェットはどう思われますか。バスやタクシーでも酔ってしまうので、効果があるなら使ってみたいです。
とのことで、ご質問の商品ってのはこんな感じですね。
伸縮性のあるバンドの内側にプラスチックのドームが縫い付けられていて、こいつで手首を押すことで乗り物酔いを防ぐ(ことができるかもしれない)と言われてるんですな。
で、そもそもの前提として、なんでこういう商品が売られているのかと言いますと、
- 鍼灸の世界でそう言われてるから
であります。具体的には「P6(内関穴)指圧」と呼ばれてまして、鍼灸の世界では手首に吐き気をオンオフするスポットがあると考えられているわけですね。
ということで、この問題を考えるには、ツボ押しや鍼治療が吐き気に効くかどうかを調べた調査を漁ってみればいいわけですが、これがなかなか一筋縄ではいかないところもあるんですよ。というのも、
- 10の先行研究を調べた2008年の調査(R)では、「指圧は吐き気や嘔吐に効果がない」と結論している
- コクランが2006年に行った総説(R)では、指圧は吐き気には効果があるが嘔吐には効果がないと結論付けられている
- 2012年に発表されたコクランのレビュー(R)では、指圧は麻酔下の帝王切開中に感じる吐き気には効果があるようだが、出産後に現れる吐き気や嘔吐自体には効果がないと報告している
- 2021年には、上記レビューの最新版(R)が発表され、「吐き気についてはエビデンスが不確かだが、嘔吐を減らす可能性はある」と結論が変更された
ってことで、全体的に研究の質が悪いうえに、結論がころころ変わっちゃうところもありまして、判断が非常に難しいんですよ。
こういった矛盾が出てしまうのにはいくつかの理由がありまして、
- それぞれの実験デザインがバラバラで、ある研究ではP6を2分半刺激し、別の研究では24時間刺激している
- なかには指圧を使った研究もあれば、針やレーザー、針の電気刺激を使った研究もある
- 多くの研究は、術後の吐き気と嘔吐に焦点を当てているが、妊娠に関連した吐き気や化学療法から来る吐き気に注目しているものもある
って感じでして、これらの研究をすべてまとめようとしても、いわゆるリンゴとオレンジを比較することになってしまうんですよね。
また、そもそもの問題として、
- 鍼灸を信じない人は鍼灸や指圧の臨床試験に参加しにくい!
ってのもあったります。つまり鍼灸系の試験ってのはプラセボが効きやすいところがありまして、これもデータがブレる原因になるんですよ。
そんなわけで、いろいろと書いてきましたけど、私の個人的な印象としましては、
- おそらくプラセボの威力がかなりあると思うけど、一部にある程度の有効性を示す報告はあるよなー
- もし効果がなかったとしても、かなり安価で安全なので、別に試してみてもいいんじゃないかなー
ぐらいの感じです。私の場合は、この吐き気止めバンドを試しても効果を実感できなかったんですけど、完全に根も葉もない商品ってわけでもないんで、試したい方はどうぞってところですね。