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ダークトライアドは“遺伝”ではなかった?──性格の「黒い三連星」は社会が育てるかもよー、という話



このブログでは、よく「ダークトライアド」って言葉が出てきます。これは「人間が持つヤバい特性」を示したもので、以下の3つを指す用語であります。

 

  • サイコパシー(共感性の欠如や衝動性)
  • ナルシシズム(過剰な自己愛)
  • マキャヴェリアニズム(他人を操作・利用する傾向)

 

どれも聞くだけで「うわぁ…」って感じのパーソナリティなんですが、この3つの特徴をまとめて「ダーク・ファクター」と呼ぶ研究もありまして、ここ最近はかなりホットなテーマになってるんですな。

 

で、ここで気になるのが、「こういう性格って、生まれつきなの? 育った環境なの?」という点であります。ヤバい性格ってのは生まれつき決まっていて、環境がどうだろうが変わらないのか?それとも、環境によってコロコロ変わるものなのか?って問題ですな。

 

ということで、この点にコペンハーゲン大学の研究チームがガッツリ答える大規模研究(R)を行ってくれましたんで、内容をチェックしておきましょう。

 

研究チームは、オンラインで「ダークファクタースケールテスト」を公開し、これに回答した183カ国+アメリカ全50州の約180万人分のデータを分析しております。このテストにどんな項目があったかと言いますと、

 

  • 「やられたら即報復するべきだ」
  • 「自分の快楽が最優先」
  • 「他人なんてどうでもいい」
  • 「一部の人間は苦しんでも構わない」

 

といった、けっこう直球な質問が並んでまして、これによってダークファクターをスコア化する感じになってます。

 

で、さらにこれを分析するうえで使われたのが、「Aversive Social Conditions(ASC)」という新しい指標です。これは、

 

  • 汚職の多さ→ 公私混同や不正がどのくらい当たり前になっているか。役所での袖の下、会社での癒着、社会全体に「ズルしても得する」風潮があるかどうか。
  • 経済格差→ 一部の富裕層が富を独占し、多くの人が苦しい生活をしている状態。所得格差や機会格差が大きい社会では、他人への共感や信頼が生まれにくくなると言われている。
  • 貧困レベル→ 社会保障が弱く、衣食住がままならない人が多い状況。そのせいで、未来への希望が持てず、“今だけ・自分だけ”に意識が向きやすくなる。
  • 暴力発生率(戦争・殺人など)→ 武力紛争、殺人、暴力事件などの発生率が高い社会。物理的な危険が身近にあると、自己防衛が優先され、他者への信頼や協調性が育ちにくくなる。

 

といった4つの社会要因をもとに、各国や州の「荒れ具合」を数値化したものになっております。こういう環境で育ったら、いかにも性格はゆがみそうな気がするわけです。

 

でもって、参加者の性格とASCを比べて何がわかったかと言いますと、最も大きな結論はこんな感じです。

 

  • ASCが高い国や地域ほど、時間差でDスコアも高くなる(つまり、荒れた環境で暮らす人は、サイコパシー、ナルシシズム、マキャベリアニズムが育ちやすい)

 

ということで、社会が不安定だと、みんな「人を信じてはいけないのだ!」って世界観を学習してしまい、ダークトライアド的性格が育つってことらしい。やっぱ環境の影響ってのはだいぶありそうですな。

 

さらに、この研究では、以下のような興味深い傾向も見られております。

 

  • 米国の中では、ASCが高いのはルイジアナ州、Dスコアが高いのはネバダ州
  • スカンジナビア諸国(例:スウェーデン・ノルウェー)はどちらのスコアも低い
  • 中国はDスコアが最も高い
  • 日本についてはデータは限定的だが、ASC・Dともに中程度

 

もちろん、「ASCが高い=すべての人がダーク化する」わけではないものの、環境が性格を形づくる力は無視できないってのは間違いないので、これはめっちゃ良い示唆ですね。

 

そう考えると、今回の研究ってのは、間接的に「性格の自己責任論」へ警鐘を鳴らしているとも言えまして、「あの人は性格が悪い…」と思っちゃうような人がいた時には、「生まれつき性格が悪いからどうしようもない!」と考えるよりは、

 

「その人が育った社会環境はどうだったのか?」

「疑り深さや攻撃性を育む構造が周囲にあったのでは?」

 

みたいに考えてみたほうが、より包括的な理解が進みそうっすね。逆に言えば、「悪い環境にいたら性格も悪くなる」ってのはある程度まで真実っぽいんで、自分がいまいる環境をモニタリングしながら暮らすのも必要になるでしょうな。

 

というわけで、今回の研究をまとめるとこんな感じになります。

 

  • ダークトライアド的な性格傾向は、環境(とくに社会の不平等)で育ちやすい。
  • 遺伝だけでなく、「後天的な適応戦略」としてダークファクターが成長する可能性がある
  • 社会全体の構造が、性格の形成に大きく影響している

 

みたいになります。まあ、身近にダークトライアドがいる場合は、三十六計逃げるに如かずだと思いますが、「ダークトライアドの責任は個人だけにあるとは言い切れないかもなぁ」という意識を持っておくのは大事でしょうな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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