今週の小ネタ:不安が強い人の原因と対策とは?しゃべり方で脳の健康がわかる?「グルテンが腸を壊す」は思い込み?

ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
不安が強い人の原因と対策とは?
将来のことを考えて不安になることは誰にでもあるはず。「このまま何者にもなれなかったらどうしよう」とか「数年後も孤独だったらイヤだな」みたいな感じですな。
で、新たにヨーク・セントジョン大学が発表した研究(R)は、この問題を解決する方法を探っていておもしろかったです。この研究は、大学生68名を対象に行われたもので、以下のような流れで進められてます。
- 全般性不安(GAD)と自尊心を測定するアンケートに回答してもらう
- 被験者が考える「想像すると嫌な未来」を文章で書き、そのイメージがどれだけリアルに感じられるかを評価してもらう
- 1と2の関係を分析する
ということで、不安になりやすい人たちが、脳内でどんなイメージを浮かべているのかをチェックしたわけですね。
でもって、この研究で何がわかったかと言いますと、
- 不安が強い人ほど、自尊心が低い(そりゃそうでしょうな)
- 不安が強い人ほど、「怖い未来の自分」のイメージが鮮明(これもわかりやすいですな)
- 自尊心が低い人ほど、「怖い未来の自分」のイメージが鮮明(これもわかりやすいですな)
って感じだったそうで、要するに「嫌な未来のイメージがリアル → そのせいで自尊心が低下 → そのせいで不安が増加!」ってメカニズムが成り立つんじゃないかと考えられるわけです。不安な人ってのは、ネガティブな未来を必要以上にリアルに思い描いちゃうんじゃないか、と。
で、面白いのは、この研究が従来の考えに逆の方向性を提案している点であります。これまでは「不安があるから脳が勝手に怖い未来を想像する」とされていたんだけど、今回の結果を見ると、
- 「怖い未来像が鮮明」→「自尊心が下がる」→「不安が高まる」
という順番のほうが正しい可能性もあるわけですね。
なんとも難しい問題ですけども、研究チームはちゃんと対処法もテストしてくれてまして、ここでは「ベスト・ポッシブル・セルフ」というエクササイズが提案されております。こちらは過去に『理想の自分を描いてメンタル回復だ!という「BPSエクササイズ」の効果を示したメタ分析の話』に書きましたんで、くわしくはこのエントリをご参照ください。いちおう「ベスト・ポッシブル・セルフ」の簡単なやり方をお伝えしておきますと、
- 理想の未来を、できるだけ具体的に書き出す
- 「人生が最高にうまくいった未来」をイメージ
- 時間は5〜10分ほどでOK
みたいになります。実験では、このワークを「怖い未来」を書いたあとに実施したところ、不安レベルが有意に低下したそうでして、特に不安レベルが高めだったグループでも効果があったそうなんで、強い不安に悩まされがちな人はお試しいただくといいんじゃないかと。
しゃべり方で脳の健康がわかる?
「普段の話し方で脳の健康状態がわかるぞ!」って研究(R)が出ておりました。人の話し方と認知機能には大きな関係性があるんだぞって話ですな。
これはトロント大学を中心とした研究チームによるもので、私たちが日常的に使っている「えー」「あー」といったフィラーの数や、沈黙の長さ、言葉のスムーズさみたいな要素が、すべて脳の実行機能と呼ばれる認知能力と密接に関連しているのでは?って仮説を立てたんですよ。実行機能ってのは、
- 注意の切り替え
- 作業記憶
- 抑制コントロール
- マルチタスクの管理能力
などをつかさどってまして、いわば「脳の司令塔」みたいな役割を果たしております。たとえば、「同時に複数のことを考える」「会話の流れを読み取る」「話の脈絡を保つ」といった、日常生活でも必須の働きに関わってるんですな。
研究は2つのパートに分かれていて、まずは高齢者(65〜75歳)67名を対象に、以下の手順で実験を行ってます。
- 複雑な絵を見て、それについて60秒間話す音声を2回録音
- 実行機能を測るテスト(ワーキングメモリや注意の切り替えなど)を受ける
- 音声から700以上の言語的特徴を抽出し、8つのカテゴリに分類する
このなかで特に注目されたのが「言葉探し困難」のカテゴリでして、上記の実験を分析したところ、
- 話すスピード
- 「えー」「あのー」の頻度
- 無音のポーズの長さ
といった要素が、実行機能のスコアと明確に関連していたんだそうな。簡単に言えば、会話中に「詰まる」ことが多い人ほど、実行機能のパフォーマンスが下がっていたってことです。まあそりゃそうだろうなぁって結論ですけども。
で、さらに研究チームは「もっと若い人でも同じことが言えるの?」という疑問を立てて、年齢18〜90歳までの174人を対象に、ほぼ同じ手順で第二弾の実験を実施してます。さらに、ここでは、音声の分析にAI的なデータドリブンの手法を導入して、過去の700件超のデータをもとに、10個のスピーチドメイン(話し方の特徴)を抽出したんだそうな。良い研究ですねぇ。
その結果としては、やはり以下のような傾向が見られてます。
- 「タイミング」関連のスピーチドメイン(ポーズの頻度と長さ)が、実行機能と強く関連
- 年齢に関係なく、ポーズが多い・長い人ほど、認知タスクのパフォーマンスが低い傾向があった
- 「話のつながりのよさ」との関連も見られたが、こちらの相関はやや弱め
ということで、老いも若きも「話し方」と「認知機能」が関わっているって傾向が見られたわけですね。研究チームいわく、
スピーチのタイミングは、単なる話し方のクセではなく、脳の健康を反映する敏感な指標だ。
とのことで、私たちが日々交わしている何気ない会話の中に、脳の処理スピードや柔軟性の兆候が表れているって視点が強調されておりました。つまり、毎日ちょっと話すだけで、脳のコンディションをモニタリングできるかもしれないわけで、こりゃあ要注意っすね。もし「最近うまく言葉が出ないなー」とか「会話のテンポが悪くなってきたかも?」と思う方は、ちょっと気にしてみると良いかもしれません。
「グルテンが腸を壊す」は思い込み?
「グルテンは腸に悪いという思い込みが過敏性腸症候群(IBS)を悪化させるぞ!」って研究(R)が出ておりました。グルテンフリーなんて言葉もあるように、健康界隈では「グルテンは腸に良くないよ!」みたいな主張がありますが、これって実は思い込みの部分も大きいのでは?みたいな話っすね。私も「健康的な人にはグルテンフリーは無意味」と思ってる人間なので、ここは気になっちゃうとこです。
まず実験のざっくりした概要を見てみると、
- 対象:IBS患者28人(ほとんどが長年グルテンフリー生活を送っていた)
- 方法:7日間ずつ、3つの異なるシリアルバーを食べ比べてもらうクロスオーバー試験
- グルテンなし・小麦なしの「完全なコントロールバー」
- 小麦とグルテン入りのバー
- 精製グルテンだけを加えたバー
- 全員、基本の食事はグルテンフリーを継続し、各フェーズのあとに2週間のウォッシュアウト期間を作る
- 各バーを食べたあとのIBS症状をアンケートで評価
みたいになります。で、その結果ですが、
- 実際に小麦やグルテンを食べても、IBS症状はほとんど変わらなかった!
- しかし、「これはグルテンが入ってた気がする」と思い込んだときには、症状が悪化した
ということで、グルテンフリー派にはちょっとビックリな結果が出ております。
なんとも不思議な話のようですけども、ちゃんとした科学的な土台があったりします。というのも、最近の研究では、IBSは単なる「腸の不調」ではなく、腸と脳のコミュニケーション異常(いわゆる腸脳軸の問題)によって起きると考えられてるんですよ。その証拠に、
- プラセボ(偽薬)を飲んで症状が改善したIBS患者:約27%
- プラセボで副作用を感じたIBS患者:30%以上
といったデータもありまして、「効くと信じれば良くなり、悪いと信じれば悪化する」という現象が、IBSでは非常に起きやすいみたいなんですよ。脳の影響ってすごいですね。
でもって、この結果から導かれる問題は、「本当にグルテンが原因じゃないのに、無理にグルテンを避けるとどうなるか?」ってとこでしょう。ここは判断が難しいところではありますが、グルテンフリー食を続けると、おそらく、
- 食物繊維の摂取量が減る
- ビタミンB群や鉄、マグネシウムの不足
- ストレスが増える
みたいな問題が起きるんじゃないかなーって感じじゃないでしょうか。なので、IBSっぽい不調があるからといって、いきなりグルテンを完全に抜くのはちょっと早計かもしれませんので、かかりつけのお医者さんにそこもふくめて相談してみるといいかもですね。

