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【質問】肉だけしか食べない食事法って、本当に体にいいんですか?

 
 

こんなご質問をいただきました。

 

肉食ダイエットをどう思いますか?人間は草も食べる雑食動物なんだから、さすがにダメだろうと思いますが、詳しい研究などあるのでしょうか?

 

ということで、「肉食ダイエット」はどんなもんか、と。これは、名前のとおり「植物性食品を完全排除し、動物性食品だけで生活する」という超極端な食事法のことで、たとえば肉、魚、卵、バター、チーズなどはOKだけど、野菜、果物、穀物、豆類、ナッツ類はすべてNGというルールです。要するに「肉しか食べない」が基本方針なわけですね。

 

極端な人のなかには、「野菜は毒だ!人間は肉だけ食ってればいい!」などと主張する人もいたりして、「すごいもんですなぁ」とか思うわけです。さすがに日本だとそこまでの過激派は少ないものの、海外の健康クラスタを見ていると「1年肉だけで生きた!」みたいな動画もあったりして、凄いことになってるんですよね。

 

では、この食事法には研究の裏づけがあるのかってことで、ポイントを簡単にチェックしてみましょう。

 

まず注目したいのが2021年に行われた大規模な観察研究(R)でして、肉食ダイエットを6ヶ月以上続けている2,000人以上を集めて、みんなにアンケート調査を実施したんだそうな。

 

この研究では、参加者の特徴もかなりはっきりしていて、

 

  • 平均年齢は 44歳
  • 平均BMIは 24.4(標準体重)
  • 肉の摂取量は 1日平均1.1kg!
  •  63%がサプリメントを併用(残りの37%は完全に食事のみ)
  • 野菜や果物、穀物は基本ゼロ
  • 継続期間は 中央値14ヶ月(6ヶ月〜20ヶ月)

 

という、かなり本格的な「肉しか食べてない人たち」のデータがそろっております。1日1.1kgの肉ってすごいですね。

 

その結果どんなことがわかったのかと言いますと、

 

  • 体調の改善を実感した人も割といる!→ 疲労感、消化不良、炎症症状の改善などが報告されている。これは、植物性食品を一切排除するため、アレルギーや過敏症のトリガーを回避できたのかもしれない。あと、血糖値とインスリンの安定にも役立ってるのかもしれない。

  • しかし、LDL(悪玉)コレステロールは上昇!

  • とはいえ、HDL(善玉)コレステロールも上昇!→ これは心血管保護の側面があるのでポジティブな変化

  • さらに、中性脂肪も低下したぞ!→ 血糖値やインスリン抵抗性の改善にもつながる可能性あり

 

って感じだったらしい。悪玉コレステロールの上昇以外は、一見よさげな結果が並んでいるんですが、実はめっちゃ気になるデータも出てまして、それが、

 

  • CACスコアが爆上がりした!

 

みたいな報告も出てるところですね。CACってのは「冠動脈カルシウムスコア」のことで、簡単に言えば動脈硬化の進行度を数値化したものです。この研究では、スコアが183→322に増加してまして、これは「中程度の動脈硬化 → かなりヤバいレベル」への進行を意味してます。しかも、これはたった14ヶ月の変化なので、動脈が詰まり始めるスピードとしては、かなり速いと言えるんじゃないでしょうか。

 

もうひとつ、2024年に発表された別の研究(R)も見てみましょう。こちらは肉食ダイエッター向けの食事プランを4種類作り、それぞれの栄養価を分析したものになってます。具体的には、

 

  1. 男性×乳製品あり(チーズやバターを含む)

  2. 男性×乳製品なし(肉と卵中心)

  3. 女性×乳製品あり

  4. 女性×乳製品なし

 

って4パターンになってまして、どのプランも基本は「赤身肉・内臓肉・卵・脂身」が中心で、エネルギーの70〜75%を脂肪から、25〜30%をタンパク質から摂取するよう設計されております。炭水化物はもちろんゼロ〜極少量(5%未満)であります。

 

そこでどんな結果が出たのかと言いますと、肉食ダイエットには、以下の栄養素が足りないことがわかったんだそうな。

 

  • ビタミンC(当然)

  • カルシウム

  • マグネシウム

  • カリウム

  • 葉酸

  • 鉄(特に女性)

  • 食物繊維(ほぼゼロ)

 

要するに、「ステーキだけ食べてます!」みたいな食生活を続けていると、これらが欠乏する可能性が高いわけですね。もちろん、レバーや魚、卵などを多様にとれば多少はカバーできますが、SNSで広まっている“肉だけ生活”は、栄養的にかなり危ういのが現実でしょうな。

 

なので、個人的には肉食ダイエットはまったくお勧めしないんですが、「いや、それでも俺は肉だけを食うぞ!」という希望がある方は、せめて以下のポイントを満たすようにしたいところです。

 

  • 魚(特に脂肪の多い魚)をもっと取り入れる

  • 内臓(レバー、心臓、腎臓など)を積極的に食べる

  • 乳製品を含めて栄養バランスを取る

  • ヨウ素入りの塩を使う

 

つまり、「植物は食べたくないけど健康も大事」という人は、とにかく多様性を持たせることがカギになるって感じです。

 

ということで、繰り返しになりますが、肉食ダイエットには確かに体調改善を感じる人もいるみたいなんだけど、長期的な心血管リスクや栄養欠損の可能性がかなりあると思いますんで、やっぱオススメはしづらいですよねぇ……。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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