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2021年11月に読んでおもしろかった6冊の本と、その他もろもろ

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2021年11月版です。あいかわらず新刊をやってて多忙でして、今月に読めたのは26冊ほどで、映画は1本も見られませんでした。トホホ。そんな状況でも良かった6冊をまとめてみます。

 

 

Humankind 希望の歴史


ヨーロッパで最も著名な若手思想家のひとりである著者が、「人間の本質は悪ではない! 実際は親切で協力的なのだ!」と提唱する一冊。

 

というと、汚職、暴力、テロのニュースがあふれる現代では信じづらい理想論みたいに思えますが、実際のところ、近年の科学では「人間って意外なほど友好的だよねー」って知見が増えてきまして、そもそも人類はフレンドリーな方向に進化した生き物だ!って考えがメインになってたりするんですよね。

 

にも関わらず、「この世は食うか食われるかだ!」みたいな思考をベースに社会を設計しちゃうと、それが人間の最悪の部分を引き出すことになり、「人間の暴力性が自己成就予言になっちゃうよー」ってのを指摘したあたりが勉強になりました。まぁ「ほとんどの人は親切で優しい!」って観点から制度設計するのは、いろいろ反論もありそうですが……。

 

 

 

INNOVATION STACK―だれにも真似できないビジネスを創る

 

Squareを生み出したジム・マッケルビーさんが、いかにイノベーションを生み出して、アマゾンのような巨人の猛攻撃を耐え抜いたかを、複数の事例研究をベースに語る本。その主張はシンプルで、

 

ある問題を解決するときの問題は、それが新しい問題を創り出し、新しいソリューションが必要になって、そのソリューションがさらに新しい問題を創り出すということだ。この問題とソリューションの連鎖が続くうちに、やがて次のどちらかが起こる。問題の解決に失敗して死ぬか、あるいはすべての問題を解決して、手元に絡み合いながらも独立したイノベーションの集まりが残る。

 

って感じになります。問題と解決のくり返しが細かい発明の重なりを創り出し、これが最終的には誰にもマネできない本当のイノベーション(=イノベーションスタック)になるんだよーって話です。

 

これは個人的にもわかる話で、本を一冊作るときとかは、いつも「この章を書いたら前の章で問題が!それを解決したら、次に書く予定だった話との整合性が!」みたいな事態の連続なんですよね……。そのたびに自分の無能さに打ちひしがれるんですが、本書では「そもそもものづくりはそういうもんだ!」って視点が徹底されてて、非常にはげまされた次第です。

 

 

 

非認知能力: 概念・測定と教育の可能性

 

誠実性、レジリエンス、マインドフルネスといった、このブログではおなじみの非認知能力についてまとめた本。それぞれの項目について基礎研究の現状を述べた上で、「それじゃあこの能力を伸ばすにはどうすればいいの?」ってとこをまとめてくれる構成で、めちゃくちゃ頭が整理されました。

 

専門書なので書きっぷりは固めだし、「これをやっときゃOK!」みたいな書き方ではないので、お手軽なフィックス本を求めると肩すかしを食らうでしょうが、たんねんに読めば人生改善のヒントが散りばめられた良書としてお使いいただけるでしょう。私はレファレンス本として保存しときます。

 

 

 

バレット博士の脳科学教室 7½章

 

名著「情動はこうしてつくられる」のリサ・フェルドマン・バレット先生が、「人間の脳はどうどのように構造化されているのか?」「人間の脳はなんのためにできあがったのか?」ってのを端的にまとめてくれた一冊。

 

先生の考え方をひとことで言うと「脳の最も重要な仕事は、体のシステムを調整することだ!」って感じです。私たちが考えること、感じること、想像することはすべて人体のシステム調整のために行われており、この機能がうつ病やアルツハイマー病などにもつながっているんだよーって話でして、これはワクワクさせられますねぇ。

 

内容は「情動はこうしてつくられる」とかなり重なるんですけど、なんせこちらは大著すぎて読むのが大変なんで、バレット先生の考え方に入門するなら「脳科学教室 7½章」のほうがよいでしょう。

 

 

 

日の名残り

 

言わずとしれたカズオ・イシグロ先生の代表作。「イギリスの執事が昔を回想する話かぁ……。地味そう……」とか思って読んでなかったんですが、いざ手にしてみたらアラびっくり。「まじめすぎて面白い」系のギャグが連発される楽しい小説で、「細かすぎて伝わらない英国執事選手権」みたいな話でした。

 

ただ、そんな感じで楽しく読んでると、最後にはガツンと寂寥感がわきあがってくるのがすごいっすね。「あの時の、あのちょっとした選択が、いまのあれこれにつながったんだなぁ……」みたいな感慨は誰もが抱くものだと思うんですが、そこらへんをひっくるめた人生のよるべなさが感じられてよいですなぁ。

 

 

 

鬱くしき人々のうた 実録・閉鎖病棟

超絶名作「人間仮免中」の卯月妙子さんが、1990年代に入った閉鎖病棟で味わった体験をまとめた一冊。いままでの本は統合失調症に苦しむ著者が味わう壮絶な体験がメインでしたが、今作は閉鎖病棟で出会った患者さんたちの独特な思考や行動を記録したリアルなエピソード集になっていて、毎度ながら「人間すげえ!」感に満ちておりました(ハードな描写もあるんで注意は必要ですが)。

 

その結果、読み終わったあとは最高の人間讃歌に触れた感情がわくのもいつもどおりで、「こんだけハードな人生を送りながらも、作品を書いていただいてありがとうございます!」って気持ちになりました。

 

 

 

その他もろもろ
  • 平成史―昨日の世界のすべて:「平成は子供の時代だ!」をテーマにした平成の総ざらいで、46歳のおっさんとしては「あるある」の連続が非常に楽しめました。政治、思想、カルチャーの流れに特化した内容になってるんで、それ以外に興味がある方はひっかからないかもですが。

  • 時短の科学:サービス業の生産性を高めるためにはどうすればいいの?ってのを体系化した本。「いかに限られた人員をサービス業で最適化するか?」に特化してるんですが、個人で働いてる私にもいろいろ参考になりました。

  • ぼぎわんが来る:謎の怪物「ぼぎわん」に狙われた一家の悲劇を描く民俗学系ホラー。私はもうちょい衒学的なほうが好みなんですけど、羅生門スタイルで描かれた本編の吸引力がすばらしく、化け物の恐怖よりも構成のうまさで一気読みさせられました。

 


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