【質問】結局マスクは新型コロナの対策に役立たたないって本当ですか?
こんなご質問をいただきました。
ツイッターで、マスクは新型コロナに意味がないことが判明した、という話を見ました。精度が高い分析で、マスクはコロナウイルスを防ぐ効果がないと明らかになったというのですが、本当かどうかよくわかりませんでした。パレオさんはどうお考えですか?
ということで、ご質問の話は、2023年2月にコクランが出した新しいレビュー(R)のことかと思われます。この文献を引き合いにしたお医者さんが、「これでマスクは無意味だと確定!」とツイートしているのを、わたしも見かけたことがあります。
ご存じの方も多いでしょうが、コクランってのは、厳密な科学的根拠にもとづく医療を目的とする非営利団体で、ここが手がけたメタ分析は世界中の臨床に影響を与えるケースが多め。エビデンスに基づく医療のゴールドスタンダードとも言われてまして、コクランが出した結論は、信頼度が高いとされております。
でもって、この新しいレビューは、感染症に対するマスクの効果を調べたもので、ネットでは「マスクの無意味さが結論づけられた!」として出回ってるわけです。これが事実であれば、日本でも巻き起こったマスク騒動はなんだったのかって話になりますな。
それでは、このレビューが何を言ってるのかを、もうちょい具体的に見ていきましょう。本研究は過去に行われた78のマスク研究をチェックしたもので、その大半は新型コロナの発生以前に実施され、インフルエンザやその他のウイルス性疾患の予防効果を調べたものです。
そのうえで、研究チームが出した結論ってのが、
- マスクで集団感染が減るという事実を支持するエビデンスはない!
って感じです。この結論をもとに、ネットでは「マスクは無意味!」って話が盛り上がることになったわけですね。確かに、この結論を見ると、「マスクって着けても無駄なのかしら……」って気分になるのも理解できるところです。
が、実際のところ、このレビューを見て「マスク無意味!マスクはやめるべきだ!」と結論づけるのは明確に間違いなのでご注意ください。というのも、この研究には複数の限界がありまして、
- 大半の研究は、マスクを着けた人の感染が減るかどうかを調べただけで、マスクを着けた病人が他の人に感染させる確率を下げるかどうかは調べていない。そもそも、マスクでは他者からの感染を防ぎづらいのは昔からさんざん言われていたことなので、別にいまさら驚くべき結論でもない。
- マスクの効果を調べたRCTの多くは、サンプルサイズが小さすぎるため、統計的に意味のある結果が出てない可能性も大きい。
- 多くの研究において、参加者がマスクをまともに着用していなかったことが明らかにされている。当然ながら、マスクは一貫して正しく着用された場合にしか機能しないため、実験以外の場面でマスクを外していたら、そこで感染が起きる可能性はめっちゃある。
ってのが代表的なところです。難しいですねぇ。
いずれの要因もマスクの効果測定を難しくさせてるんですが、おそらく一番やっかいなのは「参加者がマスクをまともに着用していない」問題でしょう。そもそも、参加者がちゃんとマスクを着用できているかを常時チェックするのは無理だし、大半の研究では1日のうちのごく一部しかマスクを着用させていないので、明確な効果を測定するのはめっちゃムズいんですよ。
ちなみに、ここらへんの話は研究チームも明記してまして、私なりにざっくりまとめると、
- マスクの研究って判断が超難しいから結論を出すのは無理! もっとちゃんとした実験して!
ぐらいの結論になってます。つまり、ここで言ってるのは、あくまで明確な答えが出せないってだけでして、マスクの効果が否定されたわけじゃないんですよ。
でもって、さらに余談ですが、今回の研究を行ったチームは、2020年にも似たような結論のレビュー(R)を発表してるんですけど、その際にはコクランが独自に別の論説(R)を出していて、
- これをマスクや人工呼吸器が効かないという決定的な証拠として解釈しないでね! 政策を担当してる人は勘違いしないで!
とわざわざクギを刺してたりします。コクランのチーム自身が、昔から「マスク研究は結論の誤読に気をつけてね!」と警告してたわけっすね。
ってことで、いろいろ書いてきましたが、今回のレビューをもって「マスクの無意味さが結論づけられた!」って話にはまったくならないのでお気をつけください。私としては、春先は花粉対策になるし、夏場は紫外線の予防になるし、秋冬はシンプルに防寒になるので、今後もできるだけ着用したいなーとか思ってたりしますが。