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人生の満足度を上げるには「ポジティブを求める」のではなく「ポジティブを避けるのをやめる」のも大事だよーって話

 

気分が落ち込んだ時に「できるだけ気持ちを上向きにしたい!」と思うのは自然な話。なんだけど、実際には逆の行動を取ってしまうのが人間ってもんで、落ち込んでいるときほどネガティブな情報ばかり目について、誰かが励ましてくれても「適当に言ってるんじゃないの?」なんて疑ってしまうケースは珍しくないでしょう。

 

なぜそんなことが起こるのか?そして、どうすればこの傾向を変えられるのか?ってことで、ミネソタ大学の先生方がナイスな研究(R)をしてくれたので、内容をチェックしておきましょう。

 

「うつ気分のときにポジティブを避けてしまう現象」を調べるため、この研究では「価値選択課題」という実験を行っております。たとえば、以下のような未完成の文章を見せて、参加者に続きを選ばせるんですな。

 

「オフィスへ向かって歩いている。到着まであと5分。コーヒーを買おうか迷っていると……」

① 道に10ドル札が落ちていた(ポジティブ)

② つまずいて転んだ(ネガティブ)

③ コーヒーショップが見えた(ニュートラル)

 

こんな選択肢を見せられたら、普通に考えれば①を選ぶのが自然だと思いますが、この研究では、うつ傾向が強い人ほど②を選びやすかったというんですな。さらに「幸福恐怖尺度」を使った測定では、「幸せになることが怖い」と感じる人ほど、ポジティブな選択肢を避ける傾向も強かったんだそうな。要するに「うつ状態の人は、単にネガティブな情報を好むだけでなく、ポジティブなものを避ける傾向がある」ってことですね。

 

でもって、さらにこの研究の面白い点は、メンタルが落ち込んだ人は「単なるネガティブ思考ではなく、ポジティブなものそのものが“脅威”と認識される」って点です。たとえば、以下のようなシナリオでも、似たような現象が確認されてるんですよ。

 

「ギャリーは財布に30ドルを持ってショッピングモールに行った。Tシャツを12ドル、靴下を5ドル、帽子を8ドルで購入した。そしてレジで気づいたのは……」

① まだ5ドル余っていて、小物を買える(ポジティブ・正解)

② お金が足りず、何かを返品しなければならない(ネガティブ)

③ Tシャツが実は15ドルだった(ニュートラル)

 

この場合も、普通に計算すれば①が正解ですが、うつ傾向の強い人ほど②を選ぶ確率が高かったというんですな。つまり、メンタルがへこんだ人ってのは、明らかに正しい選択肢ですら「ネガティブに置き換えてしまう」わけっすね。

 

また、この傾向は「幸福恐怖」が強い人ほど顕著だったそうで、要するに彼らはポジティブな出来事が起こると「どうせ裏があるんじゃないか?」と考えてしまい、無意識のうちに「幸福を遠ざけるような選択」をしてしまうんですな。

 

こうなると、「どうすればこのポジティブ回避から抜け出せるのか?」ってとこが気になりますが、研究チームは、「ポジティブなことを考えよう!」という古典的なアプローチには警鐘を鳴らしております。というのも、「ポジティブを避ける人」に「もっとポジティブになろう!」とアドバイスしても逆効果になりやすいので、場合によっては「自分はやっぱりダメだ」って気持ちがブーストしちゃう可能性があるんですよ。

 

そこで推奨されるのが、「ポジティブを直接受け入れるのではなく、まず自分の“回避のパターン”に気づくこと」って対策であります。これがどういう介入なのかと言いますと、

 

  1. 「ポジティブ回避」をしていないか自分でチェック
    たとえば、友人が「今日の服、似合ってるね!」と褒めてくれたときに、「社交辞令で言ってるだけじゃない?」「皮肉かな?」「そんなに褒めるってことは、普段はダサいと思ってる?」みたいな気持ちが起こったら、「あ!いまポジティブ回避がはじまった!」と脳内で考えてみる。それだけでも、ある程度の対策になる。


  2. 「ネガティブ変換」を意識的にストップする
    何か良いことがあったときに、「どうせ裏がある」と疑ってしまうクセがあるなら、ネガティブ変換が起きた瞬間に「いやいや、まずはそのまま受け取ってみるか」と意識的に考えてみる。こちらもシンプルな介入だけど、変化を起こす効果は大きい。


  3. 「ニュートラルな視点」を持つ
    ポジティブが受け入れられないなら、無理にポジティブにしなくてもOK。「これはただの事実だ」とニュートラルな視点を持つだけでも、ポジティブ回避の影響をやわらげることができる。

 

って感じになります。ざっくりまとめると、今回の研究が示すのは、「幸福になるためには、幸せを探すだけでなく、幸せを避けないことも大事」って視点でして、「ポジティブを求める」のではなく「ポジティブを避けるのをやめる」のも大事だよーってあたりは、意外と気づかれにくい視点じゃないかと思うわけです。

 

次に落ち込んだときは、「今、自分はポジティブを避けていないか?」と振り返ってみると、それだけでも軽いセラピー効果を得られるかもしれないんで、ぜひお試しください。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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