今週の小ネタ:ホエイプロテインで心臓も元気に?「老い」の始まりはどこから?ビタミンDはメンタルヘルスの救世主?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
ホエイプロテインで心臓も元気に?
「ホエイプロテイン」といえば「筋肉増強!」みたいなイメージが強いんだけど、最近は病気からのリカバリーや免疫システムの改善などにも効くよーって考え方も出ていたりします。タンパク質は人体のビルディングブロックなので、そりゃあいろんなメリットがあってもおかしくはないですもんね。
でもって、直近のメタ分析(R)では、「ホエイプロテインは血圧やコレステロールの改善に効くか?」ってところをガッツリ調べてくれていて、非常にタメになりました。
この研究は、いままでに発表されたホエイプロテインに関する「ランダム化比較試験(RCT)」を徹底的にまとめたもので、主なポイントは以下のようになります。
- 対象:18歳以上を対象に、ホエイプロテインと炭水化物やプラセボを比較した研究
- 条件:介入期間は4週間以上、さらに盲検化されているもののみを厳選
- 調査対象:血圧、血清脂質(LDLコレステロールや中性脂肪など)、インスリン抵抗性(HOMA-IR)
最終的には21件のRCTを抽出してデータを統合したところ、ホエイプロテインにはいろんな効果が確認されてまして、
- 血圧の改善:全体的には、ホエイプロテインが血圧を有意に下げる効果は確認されなかったが、50歳未満のグループでは、最高血圧が平均で2.89 mmHg低下することが分かった。この結果は、特に若い世代がホエイプロテインの血圧改善効果を受けやすいことを示していると思われる。
- コレステロールへの影響:コレステロールに関する解析では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が平均で2.07 mg/dL下がり、総コレステロールは平均で6.35 mg/dL低下するメリットが認められた。一方で、HDLコレステロール(善玉コレステロール)と中性脂肪(TG)については有意な変化が見られなかった。ただし、介入期間が12週以上の研究では、中性脂肪が有意に低下する一方、HDLコレステロールがわずかに低下するという結果も報告されている。
- インスリン抵抗性:糖尿病予防の指標になるインスリン抵抗性(HOMA-IR)については、全体として有意な影響は認められなかった。ただし、サブグループ解析でさらなる条件を加味すれば、新たな発見がある……かもしれない。
みたいになっております。効果の高低はありつつも、全体としてはホエイプロテインが心血管の代謝に良い影響を与えるようでして、これはなかなかナイスな結果ですなぁ。
では、なんでホエイプロテインで血管やコレステロールが改善するのかと申しますと、ざっくり以下のようになります。
- 血管拡張作用:ホエイプロテインには、アルギニンやシトルリンといったアミノ酸が含まれていて、こいつが血管を拡張する一酸化窒素(NO)の生成を促進する。その結果として、血圧が下がる効果を得られる。
- 脂質代謝の改善:ホエイプロテインに含まれる特定のペプチドがコレステロールの吸収を抑制するため、肝臓でのコレステロール代謝を促進している……のかもしれない。
- 抗酸化作用:ホエイプロテインにはグルタチオンという抗酸化物質の生成をサポートする作用があり、こいつが炎症を抑えてくれている可能性がある。
こうして見ると、やはりホエイプロテインって良いもんですなぁ……。
ということで、健康診断で中性脂肪が多めだった方などにもホエイプロテインはおすすめ。だいたい介入期間が12週以上の長期的な摂取で中性脂肪の低下が確認されているため、脂質代謝を改善したい方はこれぐらい飲んでみてくださいませ。
「老い」の始まりはどこから?
私ももうすぐ50歳なので、ふと「自分も歳を取ったなあ」と思う瞬間が増えてきたわけです。そんな折に、私たちが「老い」を感じるタイミングは、主観と社会の変化でコロコロ変わるよーって研究(R)が出ていて面白かったです。
これはドイツで行われた調査で、40歳から85歳までの14,056人に「何歳から“老い”が始まると思うか?」という質問を25年間にわたって追跡調査したんだそうな。その結果、いくつか興味深い傾向が見えてきまして、
- 年齢が上がるほど“老い”の基準が遠のく:調査によると、年齢が高い人ほど「老い」を感じる年齢が上がる傾向があった。たとえば、64歳の参加者が「老い」の始まりを70歳と感じたとしたら、10年後には、その基準はさらに1.9年後ろ倒しされていた。さらに74歳になると、その後の10年間で「老い」の基準が3.4年も後退しており、年を取るほど「まだ自分は若い」と感じるようになるのだと考えられる。この感覚は自分でも心当たりがあるなぁ……。
- 生まれた時代が影響を与える:生年によって「老い」の基準が異なった。1935年以降に生まれた人は、それ以前に生まれた人よりも「老い」の始まりを約0.6%遅く感じる傾向があり、たとえば1911年生まれの人は「老い」を71歳と感じていたが、1956年生まれの人は74歳からと考えていた。この傾向は日本でも当てはまりそうですな。
- 女性は男性よりも「若く」感じる:性別による違いも確認されており、女性は男性よりも平均3.2%遅く「老い」が始まると感じていた。これは女性がより柔軟に年齢を受け入れているからかもしれない。
といったあたりは、個人的な体感にも当てはまるところでした。歳を取るほど“老い”の基準が遠くなるってのは、まさにそうですな。
でもって、さらには「老い」を感じるタイミングには、心理的・社会的な要因が大きく関わっていることも明らかにされております。
- 孤独感が“老い”をブーストする:調査では、孤独を感じる人ほど「老い」の始まりを早く感じる傾向があった。その差は1.3%で、孤独な生活を送っていると、心理的に「自分は年を取った」という感覚が強まるっぽい。
- 健康状態が“老い”をブーストする:自己評価で健康状態が「悪い」と答えた人は、「老い」の基準が0.8%早まった。
ってことで、現代は多くの人が「老い」の基準を押し下げていて、これは良いことでしょうな。いずれにせよ、「老い」って概念が社会的・心理的な要因に左右されるのは確実なので、生物学的な「老い」だけでなく、感覚的な「老い」もポジティブな方向にコントロールしてやるのがよさそうっすね。
ビタミンDはメンタルヘルスの救世主?
このブログの最頻出サプリである「ビタミンD」について、また新しいデータ(R)が出ておりました。基本的に、ビタミンDは骨を強くするだけでなく、免疫系を健康に保つ役割があると言われてるんですが、この研究によれば、ビタミンDがメンタルの改善に効くかもしれないというんですな。
この研究は、うつ病を抱える46人の患者と健康な男女を対象にしていて、研究の流れを簡単に説明すると以下のような感じになります。
- ビタミンDレベルの測定:すべての参加者が血液検査を受け、ビタミンDのレベルを確認。また、アンケートでうつ症状や不安症状の程度を評価する。
って感じで、ビタミンDがメンタルにどこまで効くのかを調べたところ、以下のような変化が見られたんだそうな。
- 症状の改善:どちらの患者グループも、抗うつ薬の効果でうつ症状や不安症状が改善した。しかし、ビタミンDのサプリを飲んでいたグループは、血中ビタミンD濃度が高い人ほど症状の改善幅が大きかった。つまり、単にビタミンDを飲むだけでなく、その吸収や体内濃度も重要な要因っぽい。
- 脳の保護効果:脳のfMRIデータを見ると、プラセボサプリを飲んだグループは、前頭頭頂ネットワークや内側視覚ネットワークの白質結合(脳内の「配線」にあたる部分)が減少していた。一方、ビタミンDを摂取していたグループには、こうした減少が見られなかった。つまり、ビタミンDが脳のネットワーク構造を保護している可能性がある。
やはりビタミンDってのは、脳にある程度のメリットがあるみたいですね。ビタミンDは神経栄養因子を調整する働きがあるので、ここらへんのメリットには納得できるところではありますが。
まぁ今回の研究にはいくつかの限界もありまして、サンプルサイズは小さいし、初期のビタミンDレベルが不明だしで、脳や免疫に最適な濃度にはまだ議論の余地が残るところでしょう。ビタミンDのサプリメントは安全性が高いので、一度サプリメントを試してみるのはありだと思いますけども。
おすすめの摂取量としては、1日1000〜3000IUぐらいが目安。特に冬場にはビタミンDが落ち込みがちなので、サプリを使ってみると良いのではないでしょうか。