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お金を上手く使って幸せになるには「予算文化」を超えていこうぜ!という本を読んだ話


予算は不要だ!(You Don't Need a Budget)』って本を読みました。著者のダナ・ミランダさんは金融教育者だそうで、マネー・マネジメントを研究している在野の研究者さんなんだそうな。サブタイトルは「借金の心配をやめ、恥ずかしがらずにお金を使い、楽にお金を管理する方法」って感じでして、お金に関する心理学を扱っております。

 

といっても、本書は「お金を管理する方法を学ぼう!」って内容ではなくて、「幸福度を上げるためのお金の使い方とは?」ってのがテーマになってます。「幸せをお金で買う5つの授業」とか「マネーセンス」に近い内容ですね。

 

ただし、本書はポジティブ心理学の定番である「経験にお金を使おう!」みたいな話題は扱わず、現代では「予算を立てよ!」「節約せよ!」って考え方が、私たちとお金と幸福の関係を破壊する第一の要因になってるから、まずはそこから正そうぜって話をメインにしているのがフレッシュ。私にも思いあたるところが多くて、いろいろ勉強になりました。

 

では、本書から勉強になったポイントを見てみましょうー。

 

  • お金に関するアドバイスはすべて 「予算を立てよう 」から始まる。しかし、実はこれまで予算編成の効果に関する研究はほとんど行われておらず、予算を立てれば本当に経済状況が改善されるかどうかは明確になっていない。しかし、数少ない研究を参照する限り、予算編成に関する真実は、パーソナル・ファイナンス業界が教えてきたことと矛盾している。

 

  • ミネソタ大学による2018年の研究では、予算を立てても持続性がほとんどなく、最終的な支出を減らす効果がなかったと報告されている。ある実験によると、予算を厳密に管理した人は、支出から得られる楽しみが少なくなり、この現象は金銭的に余裕がない人ほど強かった。その結果、予算を立てた人ほど金銭管理のモチベーションが下がり、その後の予算管理に失敗するケースも多かった。研究チームは、「予算を管理することは、コストとベネフィットの結びつきを強めることによって支払いの苦痛を増大させるのかもしれない」と推測している。

 

  • また、別の実験では、予算を立てた被験者の多くが、逆に浪費が増えてしまったことを報告している。この現象については、「私たちは『予算を管理している』という事実を、浪費する言い訳に使ってしまうんだろう」と推測されている。

 

  • 2019年にカナダ金融消費者庁が出した別の報告書も、予算編成のメリットを否定している。同庁は「予算を立てて家計を管理しましょう!」と推奨するプログラムを実施し、18カ月後に追跡調査を行った。すると、プログラムに参加した参加者の3分の1しか、予算を立てる習慣を身につけることができなかった上に、予算を立てることで経済的ストレスが減ったと答えた人は、わずか8%だった。

 

  • 金融に関するアドバイスは、3つの方針にまとめられる。
    • 支出を減らす、貯蓄を増やす、違うものを買うなど、お金の使い方を制限する。
    • 浪費、借金の積み重ね、投資や貯蓄の不足など、金銭的な怠惰を“恥”として戒める。
    • 租税回避、財産の蓄積、社会的セーフティネットの反対などにより、富をため込む。

 

  • これらのアプローチは「予算文化」と呼ぶべきもので、その背景には、ダイエット文化のように、制限、恥、貪欲に基づく一連の価値観が横たわっている。こうした信念は、お金に関するほとんどの会話に浸透しており、「太っている人間は怠け者だ」「とにかく食べたいものを我慢するべきだ」とアドバイスするダイエット文化と同じように、私たちに無意識のうちにストレスを与え続けている。

 

  • その結果、家計の管理がうまくいかないと、予算文化に飲み込まれた人は「私は何か正しいことをしていないのだ!」というメンタリティーに陥る。この心理を利用して、パーソナルファイナンス業界は、「誰でも簡単なステップでお金の問題が解決できますよ」「正しい知識で経済的な自立が可能になりますよ」といったファンタジーの世界を作り出し、その理想を追い求め続けるように私たちを煽り立てる。

 

  • では、予算を決めずに浪費を防ぐにはどうすれば良いのか? そのためには、まずお金に対する思い込みを解除する必要がある。予算文化は「お金を使うこと」に罪悪感を覚えさせ、それに屈する自分はダメな人間だと考えるよう私たちの脳をプログラミングする。しかし、お金を使う行為は喜びを育むためには欠かせないので、出費を恥じる気持ちを捨てないと節約文化を克服するのは難しい。制限に「成功」すれば一時的に気分が良くなるかもしれないが、それは支出への恥を逃れたことによる効果が大きい。

 

  • また、予算文化は「借金」への罪悪感を生み出す効果も大きい。しかし、借金を抱えたからといって悪い人間や無責任な人間になるわけではないし、借金を背負っても人生が破壊されるわけでもない。この問題については、クレジットカードやローンのような借金商品の仕組みをしっかりと理解することで予防が可能である。システムの知識を持つことで、自分の目標をサポートするような方法で借金と付き合う方法を決めることができるようになる。残念なことに、私たちの文化では、お金を手放すことを考えると、恐怖や欠乏の感情が高まることがある。予算文化のメッセージは、予算の習慣や個人主義的な考え方を通じて、そうした感情を増幅させ、より強固にする。予算文化は寛容さを愚かに感じさせる。

 

  • さらに、お金に関するアドバイスは、「いかに稼ぐか?」と「いかに節約するか?」というポイントに集中しがちである。言い換えれば、予算文化はお金を最終的なゴールとして扱う。しかし、これでは「お金を使って人生を楽しむ」という点がおざなりになる。欠乏の考え方は、豊かさではなく、欠乏や競争を見るようにさせるからである。お金に対する私たちの文化的な価値観は「必要なものは決して手に入らない」「十分なものはない」と信じるように私たちを訓練するのである。

 

  • 予算文化は、「予算が与えてくれるコントロール感を手放すのが怖い!」と感じさせる働きも持っている。これは、予算文化が「お金に対する自分のスタンスを信じるな!」と教えてきたせいで起きる現象である。しかし、ここでは「予算を立てる」という前提を勇気を持って否定し、自分の生活を壊さずに、お金を使う自分を信じることを学ぶ必要がある。お金を使う自分を信頼することを、筆者は「意識的支出」と呼んでいる。

 

  • もちろん、ただ予算文化を否定するのは良くない。最も大きな問題は、予算文化のせいで「私は本当にお金をどのように使いたいか?」を知る能力が狂ってしまうことである。自分を信頼せずにいたずらに予算を拒否したところで、浪費と制限のサイクルに逆戻りしかねない。そのようなサイクルを避けるためには、意識的な支出の実践を学ぶことが重要となる。

 

  • 「意識的な支出」とは、外からのルールで自分のすべきことを決めるのではなく、自分の生来の知恵に頼ってお金について考えることである。ここで試してみたい戦略には、以下のようなものがある。
    • 支出日記を使って自分がどのようにお金を使っているのかを可視化した上で、「これが自分の生活に何をプラスしたのか?」を加えて記録していく。
    • 「自分にとって理想の一日とは?」を想像し、「そんな理想を支えるためのお金の使い方とは?」を考えてみる。
    • 自分の本当のニーズを理解するために、ヨガや体操などをして、自分の体がどのような反応をしているのかを理解するクセをつける。
    • 瞑想などを実践してマインドフルネスを鍛えて、「私は本当にお金をどのように使いたいか?」に対する感覚を敏感にする。

 

  • 結局のところ、お金は私たちを取り巻く世界を形作る道具でしかない。お金との関係を結び直すためには、予算文化が私たちに植え付けた欠乏マインドセットを手放す必要がある。そのためには、直接贈与、チャリティ、税金など、誰かにお金をあげる機会を探し、その際に起きる自分の心の動きを観察するのも有効である。
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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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