今週の小ネタ:カフェインの効果は何日止めれば戻るのか?問題、社交不安に効くのは「マインドフルネス」か「認知行動療法」か、顔を冷やして息を止めると運動能力が上がる!?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
カフェインは何日止めれば効果が戻るのか?問題
「カフェインで運動のパフォーマンスが上がる」ってのは有名な話。私もトレーニングの前にカフェインを摂ることがあるんですけど、新しい研究(R)は、
- カフェインを毎日飲み続けると、その効果が薄れますよ
って結論になってて、カフェインの使い方をあらためて考えさせられたりしました。
この研究は、73人の男性を対象に行ったもので、普段はあまり運動しておらず、ほぼカフェインも摂取してない人を対象にしたらしい。研究のざっくりした流れはこんな感じです。
- 毎日、体重1kgあたり3mgのカフェインを飲んでもらう(例:体重70kgなら約210mg)か、またはプラセボ(偽薬)を飲んでもらう
- これを8週間続けて、最後に運動パフォーマンステスト(3kmラン+ウィンゲートテスト)を実施する
- 9週目は全員がプラセボだけを摂取し、終わりに再び運動パフォーマンステストを実施する
かなり丁寧な実験で「長期的なカフェイン摂取でパフォーマンス向上効果はどう変わるか?」をチェックしてまして、なかなか参考になるんじゃないでしょうか。
で、結果がどうだったかと言いますと、
- 8週間毎日カフェインを飲んだグループは、パフォーマンスの向上が弱くなった特に、ウィンゲートテスト(無酸素パワー測定)では差が顕著だった
- 9週目(プラセボ期間)の遅延テストでは、カフェインの効果が回復した
みたいになってます。つまり、カフェインのパフォーマンス改善効果」は、毎日使ってると鈍くなるけど、1週間ぐらい抜けば、また効果が戻るっぽいですな。
1週間のカフェイン抜きで効果が戻るってのは、個人的には「それぐらいの休止でいいんだ−」って感じでした。もうちょい長めにカフェインを抜かないとダメなのかなーと思ってたもんで。
ちなみに、過去に出たメタ分析では、「カフェイン耐性は多少できるけど、パフォーマンス効果はそれほど落ちない」みたいな結論も出てまして、今回の研究結果と食い違いが出てるのが気になるところではあります。
これについては、おそらく、
- もともとのカフェイン耐性の有無(今回の参加者はほぼノンカフェイン生活)
- カフェインの量(体重あたり3mgとかなり一般的なライン)
- 運動種目(無酸素系のパワー測定を重視)
あたりが影響している可能性があるんでしょうな。つまり「普段からカフェインを取っていない人」にとっては、耐性問題がより大きく出るのかもしれないって話です。
ってことで、毎日カフェインを摂取している人は、たまに1週間の「カフェインデトックス期間」を設けるような運用がベターかもしれません。やっぱりメリハリですな。
社交不安に効くのは「マインドフルネス」か「認知行動療法」か
人前で話すのが苦手だったり、初対面の場で異様に緊張したりといった問題にお悩みの方は多いでしょうが、そんな「社交不安」に関して、最近出た「マインドフルネス vs 認知行動療法(CBT)」の比較研究(R)がなかなか面白かったので、内容をチェックしておきましょう。
この研究は、社交不安の症状を持つ男女255名を対象にしたメタ分析でして、今回まとめられた実験は全部で3本。参加者の平均年齢は22〜41歳で、それぞれ以下のプログラムを受けたんだそうな。
- マインドフルネス系のプログラム
- 期間:8〜12週間
- 内容:毎週2時間のセッション
- 認知行動療法(CBT)のプログラム
- 期間:8〜14週間
- 内容:こちらも毎週2時間のセッション
その上で、みんなの改善レベルを比べて、「マインドフルネスとCBTは、どっちが社交不安への効果が大きいのか?」を比較したわけです。
その結論をざっくりまとめると、
- マインドフルネスとCBTの効果に大きな違いは見られなかった
みたいになります。要するに、どっちを選んでも社交不安にはそこそこ効きそうってことですな。
まあこの研究は、メタ分析にしてはサンプルが少ないし、すべて成人対象のデータなので、結論にはいろいろ制約があるんですが、私としては「マインドフルネスが意外と健闘してるなー」って印象でした。認知行動療法のほうが効果が出やすいイメージだったんで。
この研究を見る限りは、マインドフルネスが好きな人はそれを続ければいいし、CBTに抵抗がないならそれもアリぐらいの結論になりそうでして、要は「自分に合ったやり方を選べばいい」ってことですな。私の場合は「CBT的な認知再構成」と「マインドフルネス瞑想」を混ぜて使ってまして、これがわりとうまくいっております。
たとえば、
- 不安を感じたら「これはただの一時的な思考だ」とマインドフルに受け流す
- そこからさらに「今、◯◯ができているじゃないか」とCBTっぽく自己評価を修正する
みたいな感じですね。どちらもガチガチに取り組もうとするとしんどいので、ちょい雑に自分なりに取り入れるぐらいのスタンスで良いのではないかと(もちろん症状が重い人は専門家にかかるべきですが)。どうぞよしなにー。
顔を冷やして息を止めると運動能力が上がる!?
「顔を冷たい水につけながら息を止めると、運動パフォーマンスが上がる!」というヘンな研究(R)が出ておりました。
まず研究のデザインを確認しておくと、
- 参加者は17名(長距離ランナー9名、クロスフィット選手8名)
- 参加者の平均VO2max(最大酸素摂取量)は58 mL/kg/min。つまり、みんなちゃんとトレーニングしてる。
- テスト内容は、トレッドミルで2分ごとにスピードアップしながら限界まで走る「タイム・トゥ・エグゾースト(TTE)テスト」を行う。
- テストの際に、「普通にテストするグループ」と「運動前に顔を冷たい水(10℃)につけて息を止める作業を5回繰り返してからテストするグループ」に分ける。
みたいになってます。「冷水息止めグループ」が、ここでどんな作業をしたかと言いますと、
- 完全に息を吐く
- 強制肺活量(FVC)の85%を吸い込む
- その状態で顔を冷水につける
- セット間には2分休憩を挟み、これを5回繰り返してから本番に挑む。
って感じでして、思ったよりもハードな印象ですね。
で、気になる結果を見てみましょう。
- タイム・トゥ・エグゾースト(TTE)の成績は、冷水息止めグループでわずかに0.76%増加していた(570秒 → 566秒)
ということで、「え、たったそれだけ?」って感じではありますが、いちおう成績は改善したらしい。
まあ0.76%だと単なる誤差のような気もするので、「冷水息止め」に明確な効果があるとは言いづらいんですけど、このような実験が行われた背景には、いちおう根拠があったりします。
ポイントはダイビング反応という生理現象で、これは顔が冷たい水に触れると、自律神経系がスイッチして心拍数が下がったり、血管が収縮して血液が脳や心臓に回りやすくなったりする現象を指しております。この反応により酸素消費を最小限にして、重要な臓器を守ろうとするわけですね。
これに加えて、何回も息を止める作業を繰り返すと、脾臓が収縮して赤血球が一気に放出され、血液中の酸素運搬能力がアップするって現象も起きるんですよ。そのおかげで、運動効率が良くなったり、疲労感が緩やかになったりといったメリットを得られるかもしれないんですな。
そんなわけで、意外と理論の裏づけがある話ではあるんですが、今回の結果を見ていると、どうにも効果が小さすぎるので、実際に試してみたくなるレベルじゃないですな。「競技パフォーマンスを1%でも上げたい!」みたいな人にとっては、試してみる価値はあるかもしれませんが。
私自身は、そこまでして運動パフォーマンスを上げたいタイプではないので、「体ってそうやって酸素を節約するんだな〜」という知識を得ただけで満足しました。