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筋トレのエキセントリック vs コンセントリック:筋肥大に本当に効くのはどっち?

   

 

ここ最近、SNS界隈を中心に「筋トレにおいてエキセントリック(伸張性収縮)は無駄」「筋肥大に効果がないどころか疲労だけたまる」みたいな話が出回っているのをご存じでしょうか。「効かせるならコンセントリック(短縮性収縮)こそが本命!エキセントリックはただの疲労要因で、筋肥大の刺激としては弱い!」みたいな話ですな。

 

ということで、今回はこの「エキセントリック不要論」をチェックした最新の研究(R)を見てみましょう。

 

 

「伸ばす動き=無意味」説、SNSで再燃中

まずは用語の内容からチェックしておくと、エキセントリックとコンセントリックは、筋トレのときの筋肉の使い方に関する用語でして、

 

  • コンセントリック(短縮性収縮)=筋肉が縮みながら力を出す動きで、たとえばダンベルカールでダンベルを持ち上げるとき(上腕二頭筋が縮む)。日常動作でいうと、「物を持ち上げる」「立ち上がる」ときなど。

 

  • エキセントリック(伸張性収縮)=筋肉が伸びながら力を出す動きで、たとえばダンベルカールでダンベルをゆっくり下ろすとき(上腕二頭筋が伸びる)。日常動作でいうと、「物をゆっくり下ろす」「階段を降りる」ときなど。

 

みたいになります。イメージとしては、「コンセントリック=持ち上げる(筋肉を縮める)」「エキセントリック=ゆっくり下ろす(筋肉を伸ばす)」みたいな感じです。

 

当然、どっちも力を出してるんだから筋肉には効きそうなものですが、筋トレ業界の一部インフルエンサーが「エキセントリックは筋肥大の刺激にならない。むしろ疲労ばかりたまって効率が悪い」みたいなことを言い出しまして、これがじわじわと広まっている感じです(主に海外がメインですが)。

 

 

研究の中身をざっくりと

と、いうわけで、この新しい研究では、健康だけど運動経験があまりない若者25人を対象に、以下のような実験をしております。

 

  • 両脚を使って「かかと上げ(カーフレイズ)」を実施
  • 片脚は“コンセントリックのみ”(上げるだけ)
  • もう片脚は“コンセントリック+エキセントリック”(上げて→ゆっくり下ろす)

 

つまり、「下ろす動き(エキセントリック)」を加えることで、筋肉の厚みや強さがどう変わるかを、同一人物の左右の脚で比較してみたわけです。期間は8週間で、負荷は自重のみですが、週2回・漸進的にセット数と回数が増えていくスケジュールで、そこそこしっかりとしたトレーニングになってますね。

 

 

 結果:「下ろす動き」が圧倒的に効いていた

で、気になる結果はどうだったかというと、「エキセントリックを取り入れた脚だけ、しっかり筋肥大と筋力アップが確認された!」という、俗説とは真逆の展開になっております。具体的な数値を挙げると、

 

  • 筋肥大の増加率
    • 腓腹筋内側:+9.0%
    • 腓腹筋外側:+14.4%
    • ヒラメ筋:+5.5%

 

  • 筋力の増加率(MVIC)
    • +32.9%(エキセントリックあり脚のみ)

 

みたいになります。つまり、「下ろす」ことをした脚は筋肉が太くなり力も強くなったのに対して、コンセントリックだけの脚は変化がなかったわけですね。この結果を見るだけでも、「エキセントリックは無意味」なんて説が、いかに実証データと乖離しているかが分かりますなぁ。

 

 

 エキセントリックの有効性は山ほどある

ただし、鋭い方であれば「でも、この研究って、単にボリュームが多い方が勝っただけなんじゃ?」と思うかもしれません。たしかに、今回の研究では、エキセントリックを行った脚のほうが「片脚で下ろす」分だけ負荷が高く、ボリュームも大きくなってるんですよね。そのため、「負荷の差が原因でしょ」という感じもしてくるわけです。

 

ただし、この主張を真っ向から否定するメタ分析もありまして、たとえば2025年に発表された最新のメタ分析(R)では、「コンセントリック単独 vs エキセントリック単独」の筋肥大効果を26のRCT(ランダム化比較試験)・749人分のデータから比較したうえで、

 

  • 全体として、エキセントリックにやや優位性あり

 

なんて結論を出してるんですよ。特に「上半身」「8週間以内の短期間」「筋厚での測定」などで明確な有意差があり、逆にコンセントリックが有意だった条件は一切なかったそうで、「伸ばす動きは筋肥大に効果が薄い」とする説には、総体的に見ても厳しいわけです。

 

ここまでの話を踏まえて、現場での実践に落とし込むとすれば、次のようなポイントを押さえておくと良さげです。

 

  • エキセントリック局面は、ちゃんと意識しよう。 → 重力まかせにせず、「コントロールしながら下ろす」意識を持つのが大事

 

  • テンポは速くても遅くてもOK。 → 極端にゆっくりでなければ、どっちでもOK(1レップ8秒以内が目安)

 

とりあえず、この2つをちゃんと意識しておけば、エキセントリックの筋肥大効果をちゃんと生かすことができるでしょう。「伸ばす」動きを軽視しすぎると、筋肥大の効率が落ちるだけでなく、ケガの予防にもマイナスになる可能性があるので、ここはぜひ注意しておきたいところです。とか言いながら、毎度私は普段の筋トレでは、コンセントリックもエキセントリックもどちらもそんなに気にしてないので、今後はもうちょい意識してみようかなぁと思いました。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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