今週の小ネタ:筋トレ「ごちゃ混ぜサプリ」意味ある?カフェインなら睡眠不足でも走れる?腸にいいグラノーラで睡眠が良くなる?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
筋トレ後の「ごちゃ混ぜサプリ」、本当に効果あるのか問題
「筋トレ後には何のサプリを飲めばいいの?」って疑問がある人は多いでしょう。プロテインだけじゃダメ? クレアチンやHMBを追加すべき? ビタミンDは? みたいな問題っすね。
そこで新しい研究(R)では、「いろいろ混ぜた筋トレ後サプリは効くの?」って素朴な疑問を調べてて面白かったです。
この実験は、20人のそこそこ運動してる中高年(平均54歳)を対象にした、6週間のランダム化比較試験です。内容をざっくりまとめると、
- みんなに週3回の筋トレをしてもらう。
- 参加者のうち半分に、以下のサプリを飲んでもらう。
- プロテイン:26g
- 糖質:23g
- クレアチン:5g
- HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸):1.8g
- ビタミンD3:1,000IU
- 一方で、残り半分には、同じカロリーの糖質ドリンクを飲む。
みたいになってまして、とにかくいろんな成分を混ぜたサプリを飲んだら、どんな効果があるのかをチェックしたわけです。
で、6週間後にどうなったかをいろいろな指標で測ってみたら、結果はこんな感じになりました。
- 腹囲の減少:サプリを飲んだグループは−2.5cmで、プラセボグループは−0.4cmで、なかなかの差が出ている。
- ジャンプ力(カウンタームーブメントジャンプ)の向上:サプリを飲んだグループは+2.9cmで、プラセボグループは+1.1cmで、筋出力の向上が伺える感じ。
その一方で、体重、体脂肪率、除脂肪体重、ウエストヒップ比などについては、両方のグループ間で有意差はなかったそうな。つまり、「サプリのおかげで明らかに体が変わった!」ってレベルじゃなかったんですね。
この結果をどう見るかってのは割と難しいんだけど、個人的には以下のようなポイントが気になりました。
- 「腹囲が減った」=脂肪が減った、ではないかも:腹囲ってのは、皮下脂肪+内臓脂肪+腸内の内容物の合計なので、短期間で減ったからといって、脂肪ががっつり減ったとは限らないのが難しいところ。腸内環境や水分量の影響もあり得るわけで、そこは慎重に見たい。
- ジャンプ力の向上は、神経系の適応か?:ジャンプ力が向上したのは、筋肉の増加よりも、むしろ神経筋の適応(力を出すスキルの向上)の可能性もありそう。ただし、HMBやクレアチンはこの手の短期的パフォーマンスに効きやすいんで、そちらの恩恵かも。
- 被験者数が少ない&期間も短め:たった20人×6週間の試験なので、「他の指標でも差が出たかもしれない」という可能性は全然ある。より長期&大規模な研究がほしいところではある。
ということで、もにゃもにゃした話になりましたが、この研究から言えるのは、ざっくりこんなところでしょうか。
- 筋トレ後のリカバリーを強化したいなら、複合サプリはそれなりに効果がある
- とくにジャンプ力(≒瞬発系の筋力)や腹囲の変化を重視する人には悪くない選択肢かも
- ただし、脂肪燃焼や筋肥大を本気で狙うには、もっと長期での取り組みが必要
でもって、ここに含まれていた栄養素の中で「これは効く可能性が高そうだな」と思ったのは以下の3つであります。
- クレアチン:筋出力の即効性では安定の実力
- HMB:筋損傷の抑制やリカバリー促進に働く可能性があるかもしれないが、効果を示していない文献も多いので、判断は保留
- ビタミンD:中高年の筋力維持に地味に効くという報告あり
つまり、「単体では微妙なものを全部ミックスしたら、そこそこ効いた」という話なので、「いろいろ入れときゃ、ちょっとは良くなるのかなぁ……」って気がしております。個人的には、私のような中高年の方で、「最近ちょっと筋力が落ちてきたなー」なんて方には、こういう複合型サプリをうまく使うのもアリかと。
睡眠不足でも走れる?カフェインがスポーツパフォーマンスを救うかもしれない件
「寝不足だけど今日は運動しなきゃ」なんて日がありますな。私も原稿の締め切りが重なったときなんかに「今日は寝不足だけど、とりあえずジムだけは行こう……」なんてことがあったりします。そんなときに思うのが、
「寝不足って、どれくらい運動パフォーマンスに影響するのか?」
「カフェインを摂ればリカバリーできるのか?」
って疑問であります。これは、実際にアスリートや運動好きな方にとっては、けっこう重要な問題だったりするんですよね。
ということでここでは、「睡眠×カフェイン×運動パフォーマンス」の関係を調べた最新の研究(R)を見てみましょう。これは、大学のサッカー選手10人(全員男性)を対象にしたクロスオーバー試験で、つまり同じ被験者に3つの条件をすべて体験してもらい、そのパフォーマンスを比べたわけです。ここで設定された条件がどんなものだったかと言いますと、
- 普通に寝た状態(十分な睡眠)
- 5時間しか寝てない+プラセボ(偽薬)
- 5時間しか寝てない+カフェイン(体重1kgあたり3mg)をテストの60分前に摂取する
でもって、そのあとに、
- スプリントテスト(短距離ダッシュの反復)
- 30-15 インターミッテント・フィットネステスト(インターバル形式の持久力テスト)
をこなしてもらい、それぞれの運動能力をチェックしたんだそうな。
その結果がどうだったかと言いますと、
- スプリント能力
- 普通に寝た → 当然、なんの問題もない
- 寝不足+プラセボ → パフォーマンス低下
- 寝不足+カフェイン → 普通の睡眠と同じくらいに回復した!
- 持久系テスト(30-15テスト)
- 寝不足+プラセボ → 明らかにパフォーマンスが悪化した!
- 普通に寝た&カフェイン摂取 → 同じぐらい良好な成績だった
ってことで、寝不足の悪影響はカフェインでかなり打ち消せる!という結果になったんですね。とくに「走り続ける力(持久力)」の回復効果が大きかったのが印象的ですなぁ。
ということで、個人的に面白かったポイントは3つありまして、
- カフェインは「寝不足パフォーマンスの保険」になる:どうしても睡眠が足りない日でも、最低限の運動能力を保つには、カフェインがかなり役立つという実証が得られたのは大きい。とくにプロや競技志向の人には有用な知見。
- 「飲むタイミング」が超重要:カフェインは、摂ってから血中濃度がピークになるまでだいたい60分かかるとされてる。今回もそのタイミングでの摂取が効果的だったので、朝トレ派の人なんかは、「起きてすぐ飲む」ぐらいの意識が必要かも。
- ただし万能ではない:スプリント系の成績では「普通に寝た状態」に完全には及んでいないので、スピードや瞬発力の回復には限界があるっぽい。カフェインはあくまで“応急処置”って認識だと良い感じ。
といったところですね。つまり、この研究から得られる実用的なアドバイスとしては、「どうしても寝不足な日には、トレーニング60分前にカフェイン(体重1kgあたり3mg)を飲む」って感じになりますね。体重60kgの人なら180mgが目安っすな(コーヒー約200mlで100mg)。とくに有酸素運動の日には効果が大きいので、ランニング、バイク、HIITなどをやるときはよさげですな。
「腸にいいグラノーラで睡眠が良くなる?」という話
「腸と脳のつながり」が注目されまくってる昨今、今度は新たに「プレバイオティクス入りのグラノーラが睡眠に効くか?」ってテーマの研究(R)が面白かったんで、内容をメモっておきましょう。
これは睡眠に問題を抱える27人の大人を対象にした8週間の非対照試験(つまり比較対象がない)で、参加者には以下のような内容のグラノーラを毎日食べてもらったんだそうな。
- 牛乳200mlと一緒に、グラノーラ50gを摂取
- グラノーラには以下の6種類のプレバイオティクスが1.4gずつ含まれていた
- イヌリン
- レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)
- フラクトオリゴ糖
- ガラクトオリゴ糖
- カカオマス
- 大麦
ということで、私も日常的に摂取している食物繊維ばかりですね(大麦はそこまででもないですが)。で、これを食べ続けたあとに、睡眠とメンタルの変化をチェックしたわけです。
その結果がどうだったのかと言いますと、
- 主観的なストレスや気分のスコアが一部で改善した
- 客観的な睡眠指標にはまったく変化なし
- 睡眠に関する質問票のうち、3つのうち2つは効果なし
ってことで、「かなり微妙!」ってな内容っすね。まあ、この研究はいろいろ問題があって、対照群がないからプラセボ効果かどうか判断できないし、研究者がグラノーラや脳波測定デバイスの企業に関係してるし、いちばん信頼性の高い脳波による測定で結果が出ていないしで、「うーん、これはどうなんじゃろ」って感じなんですよね。
とはいえ、「まったく意味がない!」と切り捨てるのも早計かもって感じでして、主観的なストレスが減ったという点だけはポジティブなんじゃないでしょうか。上記のような食物繊維は炎症の低下とも関連があるんで、それだけでも間接的には睡眠の質を高める可能性があるだろうとは思うわけです。
なので、今回の研究を見ても「プレバイオティクス入りのグラノーラで睡眠が劇的に良くなる!」とまでは言えないんだけど、睡眠に悩んでいる人なら試してみるしかないかなーとは思いますね。