今週の小ネタ:マインドフルネスで若返り、オンライン瞑想でストレス激減、プロバイオティクスで“喜び”がもどる?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
マインドフルネスが細胞レベルで若返りに役立つかもよー
「マインドフルネスについては、まだちゃんとした研究が少ないなー」ってのが現状なんですが(なにせ実験が難しいんで)、新しいメタ分析(R)は「瞑想やマインドフルネスで血液や細胞の老化スピードが遅くなるかもだ!」って結論を出してて面白かったです。
これは61件のランダム化比較試験(RCT)を統合したメタ分析で、参加者は8,401人。健康な人と慢性疾患を持つ人がどちらも含まれていて、介入の期間は平均8週間だったそうな。61件のRCTをまとめたってのは、なかなか強いですね。
研究で使われたプログラムはこんな感じです。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)
MBCT(マインドフルネス認知療法)
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)
慈悲の瞑想(Loving-kindness meditation)
マインドフル・ウォーキングや太極拳
どれもこのブログではおなじみの観点ばかりで、非常によろしいのではないでしょうか。
では、分析の結果を見てみましょう。8週間後、マインドフルネスのトレーニングを受けたグループには、次のような変化が見られました。
バイオマーカー | 結果 |
---|---|
CRP(C反応性タンパク) | 減少 |
IL-6(インターロイキン6) | 減少 |
TNF-α(腫瘍壊死因子) | 減少 |
テロメア長・テロメラーゼ活性 | 増加 |
この結果をざっくり見てみると、マインドフルネスの練習をした人は慢性炎症が静まり、細胞の寿命を延ばす方向に動いたってことです。ご存じのとおり、しかもこの効果は、年齢、BMI(体格)、実施期間の長さなどにほとんど左右されなかったみたいなので、言い換えれば、誰でも効果が出やすい介入だと言えそうっすね。
もちろん、研究の限界もありまして、テロメアのデータを扱った研究はまだ少なく、効果のバラつきも大きいので、そこは注意したいところ。「絶対に若返る!」とまではとても言えませんので。ただし、61件のRCTを統合しても炎症マーカーが下がったというのはなかなかの結果なので、個人的にもあらためてマインドフルネス系はちゃんとやろう!とか思いましたねー。
オンライン瞑想でストレス激減
続いてもマインドフルネスのお話です。こちらの研究(R)は「オンラインで受けるマインドフルネス講座でもストレスが減るぞ!」というもので、なかなかよろしいもんですな。
これは大学生30名を対象にしたランダム化比較試験で、参加者を2つのグループに分けてます。
マインドフルネス介入グループ:オンラインで8週間のMBSR(マインドフルネス・ストレス低減法)を実施
コントロールグループ:何もしない
MBSRは「マインドフルネス・ストレス低減法」の略で、「今この瞬間」に注意を向けて、ストレス反応を穏やかにする練習をメインにしたトレーニングのこと。瞑想・呼吸法・軽いヨガなどを組み合わせて、「体の感覚」「思考」「感情」に気づく力(=マインドフルネス)を高めていくのが、プログラムの主な内容になります。昔からストレス・不安・うつ症状の軽減に一定の効果が認められてきたんですが、この試験では、オンラインの介入でもメリットを得られるのかをチェックしたわけっすね。
で、その結果がどうだったかというと、
ストレス、不安、抑うつスコアが有意に改善
唾液中のα-アミラーゼ値が低下(ストレス反応の鎮静化)
α-アミラーゼとコルチゾールの比率も改善
って感じだったそうな。つまり、心理面と生理面の両方でストレスが緩和したってことでして、これまたなかなか良い結果じゃないでしょうか。
この研究で注目すべきは「唾液」でストレス反応を測っている点でして、
α-アミラーゼ:交感神経の興奮を反映(ストレスで上昇)
コルチゾール:副腎皮質ホルモンで、慢性的ストレスを反映
って2つをチェックしているのが新味ですね。これのバランスが崩れると、「ちょっとした刺激でドキドキする」「寝ても疲れが取れない」みたいな問題が起きがちなんですよ。
その点で、今回の結果ではα-アミラーゼが減って、コルチゾールは変わらなかったので、慢性的なストレスはまだ残っているけど、瞬発的なネガティブ反応は落ち着いた……みたいな解釈になるんでしょうな。心のゆとりが戻った状態と言いますか。まあ唾液中ホルモンは測定の信頼性が低いんで、「瞑想すればホルモンが必ず下がる!」とまでは言えないんだけど、体の“反応回路”が穏やかになった可能性は高いんじゃないでしょうか。スマホやPCだけでもこういった効果が得られるなら、まことにありがたいことっすね。
プロバイオティクスで“喜び”がもどる?
「アネドニア(快楽喪失)」って問題をご存じでしょうか。
休みの日なのに、何をしても気分が上がらない
好きだった趣味に興味が持てない
美味しいものを食べても、どこか無感動
みたいな状態なことで、うつ病の症状のひとつとして知られているんだけど、実は現代人の多くが軽度のアネドニアにあるとも言われているんですな。いわば「心のスイッチが切れたような状態」みたいなイメージです。
これはなかなか難しい問題なんだけど、新しい研究(R)では「プロバイオティクス(善玉菌サプリ)でアネドニアが改善した!」って結果が出てて面白かったです。
これは55人のうつ病患者を対象に30日間のRCT(ランダム化比較試験)で、参加者に抗うつ薬を飲んでもらいつつ、以下のどちらかを追加で摂取させたんだそうな。
Pediococcus acidilactici CCFM6432ってサプリ(1日10億CFU)
プラセボ(偽薬)
すると、抗うつ薬だけでも全体的なうつ症状や不安スコアは改善したんだけど、プロバイオティクスを併用したグループはアネドニアの改善度が大きく、さらに報酬を予測したときの脳の電気活動が強まったというんですな。つまり、プロバイオティクスによって、「何か楽しいことが起きそう」と感じたときの脳の反応が復活したわけです。
なんでこういう現象が起きるのかと言いますと、今回の実験で使われたPediococcus acidilactici CCFM6432って菌株は、報酬系を活性化してドーパミンの働きを高める作用が過去の動物実験で報告されてきたからです。なので、抗うつ薬で「セロトニン系」をサポートしながら、プロバイオティクスで「ドーパミン系=やる気・快楽の回路」を再起動したことで、症状がやわらいだのではないかと考えられるんですね。
まあまだ初歩研究なので「この菌を飲めば誰でも楽しくなる!」とは言えないんだけど、研究デザインはしっかりしてますんで、今後の可能性を示してくれたナイスな実験じゃないでしょうか。