悲しいときは無理やりにでも笑おう!が実験で否定される
「ペンを横にくわえると楽しい気分になる!」っていう有名な心理実験があります(1)。
これは1988年に行われた実験で、参加者にペンをくわえてもらい、無理やり口を横に広げたままコメディ映画を見てもらったんですね。すると、口をすぼめて映画を見たときより楽しい気分になったというんですな。
この結果は「表情フィードバック仮説」と呼ばれまして、要するに「悲しいから泣くんじゃない!泣くから悲しくなるんだ!」みたいな話です。心理学の世界では超メジャーな実験で、感情心理学の初級テキストにも紹介されてるぐらい。ポジティブ心理学の本なんかでも、「楽しい気分になりたかったら笑顔を作ろう!」みたいなTIPsのネタ元によく使われてますね。
が、近ごろ行われた追試(2)で「同じ効果が確認されなかった!」って結果が出ちゃったからサァ大変。個人的にも驚いております。
これは世界中にある17の研究室で行われた大規模な実験で、1,894人を対象に、1988年の実験とまったく同じことをしてもらったらしい。昔の実験よりもかなり人数が多いんで、こっちのほうが信頼性は高そうな感じ。
で、その結果は、
- 9つの研究室で行われた実験では、ほんのちょっとだけ気分が良くなる変化しか出なかった
- 残りの8つの研究室では、同じ効果がなにも確認されなかった
みたいな感じ。効果が出た研究室がほぼ半分しかなかったうえに、効果が出た場合でも非常に変化が少なかったんだ、と。
もちろん、これは「表情フィードバック仮説が間違いだった!」って話じゃありません。この説を支持するデータはいろいろありまして、たとえば「ボトックス注射で眉間のシワを消した人は、怒りの感情を感じにくくなった」なんて話(3)もあったりとか。
その点で、表情が感情に影響をあたえてるのは間違いないんだけど、今回の新しいデータを見る限りは、悲しいときに強引に笑顔を作っても気分が改善するほどの効果は出なさそう。ボトックスで筋肉を麻痺させるぐらいじゃないと、表情フィードバックには影響が出にくいのかも。
こないだも、最近の追試ではパワーポーズの効果が認められなかったなんて話がありますが、なかなかフィードバック系の研究にはツラい結果が続いてますねぇ。