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「芸術は人生を変えるメリットだらけだ!」って本を読んだ話#1「メンタル改善、トラウマ回復、勉強の効率アップ」


 

芸術をめぐる脳:芸術はいかに私たちを変えるか (Your Brain on Art: How the Arts Transform Us)」って本を読みました。著者のひとりはグーグルでハードウェア・デザインをやっていた方で、もうひとりはジョンズ・ホプキンス大学の脳科学者さんとのこと。

 

タイトルどおり、本書は「アートは人生にとって良いことだらけだ!」って主張を展開したもので、芸術は単なるエンタメや気晴らしではなく、私たちの健康と幸福を向上させる強力なツールなのだってポイントを、データをもとに論証してくれてナイスでした。アート系の研究を読むとテンションが上がる私にとっては、とても楽しい読書になりましたねー。

 

ってことで、いつもどおり本書で勉強になったポイントをまとめてみましょうー。

 

 

アートはメンタルの改善に役立つ

  • アートは、自己効力感、問題への対処能力、感情コントロール能力を高め、私たちのメンタルを改善してくれる働きがある。これは、アート鑑賞やアート作成によりストレスホルモンの反応が低下し、そのおかげで免疫機能が強化され、生理機能を向上するのが原因である。

 

 

  • 2020年に行われた研究によると、週に1回以上、なんらかのアート活動に参加したり、年に1、2回以上、アート系のイベントに参加する人は、そうでない人に比べて、精神的苦痛が少なく、精神機能が向上し、人生の満足度が有意に高かった。これは、参加者が金持ちかどうかとは関係なく、同じような違いが確認された。

 

 

  • ドレクセル大学のギリヤ・カイマル博士の研究では、わずか45分のアート制作により、ストレスホルモンのコルチゾールが減少することがわかった。この効果は、参加者のアートの技術レベルや経験に関係なかった。これは、アート制作は生理的に心を落ち着かせ、瞑想の一種として機能するのが理由だと考えられる。

 

 

  • なかでもメンタルの改善に役立つのは「音声」である可能性がある。いまの研究では、特定の音の周波数は、私たちの体内に一酸化窒素の産生を増加させ、これが血管を拡張して血流をアップさせることがわかっている。

    また、一酸化窒素は細胞の活力を高め、体内のリラクゼーション効果をもたらす可能性もある。いくつかの小規模な研究では、音叉やハミングなどの音の周波数が、細胞内で一酸化窒素を放出させることが示されている。

 

 

  • かようにアートはメンタル改善に役立つが、そのメリットを引き出すために、芸術のスキルはまったく必要ない。朝にコーヒーを飲みながらスマホを見る代わりに、イラスト、楽器、手芸、ガーデニングなどを行って、好きなことを表現すればいい。

 

 

 

アートはトラウマからの回復に役立つ

  • トラウマ的な出来事からの回復、PTSDへの対処、有害なストレスへの対処のいずれにおいても、アートは癒しの効果をもたらす。

    たとえば、精神科医のジェームス・ゴードン博士は、トラウマを解決するためにイラストが役立つことを示した。彼が使うのは「3枚の絵」と呼ばれるテクニックで、まず1枚目の絵に「自分自身」のイメージを描く。続く2枚目は「最大の問題を抱えた自分」を描き、最後の3枚目には「問題が完全に解決した自分」を描いていく。

    このセラピーを行うことにより、脳の感情的で直感的な部分にアクセスがしやすくなり、過去の難しい記憶の解決が簡単になっていく。このワークの効果を調べた査読論文によると、PTSDと診断された人の数を80%以上減少させた。

 

 

  • テキサス大学の社会心理学者ジェームス・ペネベイカー博士は、「文章を書く」ことが、孤独を感じる人々の心を癒やし、自分のニーズへの理解を深め、トラウマ的な記憶を処理するのに役立つことを示している。彼の研究によると、自分の内面を表現した文章を書くことで、血圧を下げ、ストレスホルモンのレベルを下げ、痛みを軽減し、免疫機能を向上させ、うつ病を緩和することができる。

 

 

  • ペネベイカー博士が推奨するのはクリエイティブ・ノンフィクション(自分の過去の思い出を書いた回想録や個人的なエッセイなどのジャンルの総称)を定期的に書くこと。この練習を通して、私たちは自分自身について学ぶことができ、自分がどう感じ、どう考えるかをより深く知ることができる。それによって、背負っている重荷が軽く感じられるようになる。

 

 

アートは勉強の効率アップにも役立つ

  • アート、特に音楽の演奏を学ぶことは、学校での学習効果を高められる可能性がある。南カリフォルニア大学の神経科学者アッサル・ハビビ博士は、5年間にわたって若い音楽家の脳を研究し、6歳から楽譜の読み方とオーケストラ楽器の演奏を学ぶ子どもたち20人の変化をモニターしたところ、音楽を学んだ若者の多くは、知的なタスクを行うときに実行機能と意思決定に関わる脳ネットワークがより大きく活性していることがわかった。

    おそらく、音楽の演奏は、脳の複数の領域(運動、聴覚、視覚)を刺激するだけでなく、それらの間の神経のつながりを強化し、記憶、空間的推論、読み書き能力を高めるのだと思われる。

 

 

  • 2010年に行われた別の研究では、プロの音楽家の脳を調べたところ、音楽の専門知識が多い人ほど、海馬(情報の記憶と検索に関わる脳の領域)が柔軟になっていることがわかった。音楽を学んで演奏するのはめっちゃ頭を使うので、音楽をやっていない人と比較して海馬が鍛えられ、より神経接続と灰白質の量が増えるのだと考えられる。

 

 

  • 音楽による脳の変化は、学習や記憶が必要なあらゆる活動において有利に働く。つまり、音楽の演奏は、私たちの脳を測定可能な方法で改善し、人生の様々な分野で恩恵をもたらすと言える。

 

 

ってことで、いろいろ書いてたら長くなったので、残りの項目は次回に続きます。ではまたー。

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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