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「新しいことを学ぶ」のにはメリットがありまくるぞ!という話:「運の方程式」の覚え書き

 


ちょっと前に「アベプラ」で「運の方程式」についてお話させてもらいました。この本では「どうやって運を高めるか?」みたいな話を書いてまして、そのためにプリンストン高等研究所などの調査を調べまくったんですよ。

 

で、その頃のメモを見ていたら、「新しいことに挑み続けると何が良いのか?」ってポイントに関する覚え書きが出てきまして、今でも参考になりそうな感じだったので、軽く手直しして掲載しておきます。「運の方程式」では「いろいろと新しいことをやるのが大事だよー」ってのが大きなテーマのひとつなんで、関連するものを探しまくったんですよ。

 

ただし、本の流れに合わないってことで取り上げなかった知見がいくつかありますんで、そこらへんをざざっと紹介しておきます。

 

 
  • 「新しいことをする」と脳の健康が保たれる。新しいスキルを習得すると、そのたびに脳が刺激を受け、心理学者が「認知的予備力」と呼ぶものが加わる。これは、学習によって神経接続が強化され、それが脳へのダメージを補う方向に働く効果のこと。認知予備能が高いと、早期の認知症や加齢に伴う記憶喪失のリスクが下がる。また、認知予備能が高い人は、精神的な処理能力が高く、記憶力も低しにくい(R)。

 

 

  • 多様なスキルや趣味を持つと、あらゆる種類の問題を解決する能力も上がる。まったく知らないことを学ぶと記憶システムは強固なものに変わり、学習能力を向上させる。これは、新しいことを学んだ後で、新たな神経回路が作られ、その一部が、新しいタスクを実行したり、新しい知識を "保持 "するために再利用されるからである。

 

 

  • 私たちの脳は、1つの神経回路を2つ以上のタスクに使えるようにできている。脳は定期的に古い回路を再利用しており、「新しいことをする」とを練習すると、同じニューロンを使って行われる他のタスクのスキルも向上する。たとえば、テトリスのように物体を回転させるためのスキルには、私たちが共感力を発揮する際に使われる神経回路が再利用されている(共感を発揮するには、物事を別の視点から見る必要があるから)。

 

 

  • 新しいことを学ぶと、シンプルに幸福感が高まる。人間は「現在の状況を理解してしまった」と感じるときに退屈感を抱き、これが幸福量の低下につながる(R)。しかし、新しい学習により、現在を新しく理解することができ、これが好奇心を育み、それが退屈に対抗し、全体的な幸福に影響を与える。

 

 

  • 新しいことをすると、「学習の転移」効果も得られる。これは、あるスキルを練習することで、別のスキルのパフォーマンスが向上することである。スキルにはミクロなものとマクロなものがあり、ミクロなスキルは「楽器の演奏」のようなもので、マクロなスキルは「人前でのプレゼン」のようなものである。

    私たちの脳は、ある学習で身につけたスキルを、別のスキルに転用させるように働いている。そのため、楽器の演奏のようなミクロのスキルを練習すれば、指の動きが自由になり、タイピングのスピードも速くなる。マクロなレベルでは、化学の知識を学ぶことで、その脳内マップを料理に転用できる。

 

 

  • スキルが移転するためには、それぞれのスキルを使う場面が類似している必要がある(R)。メタ分析(R)によると、プログラミングを学ぶと、メタ認知、推論、創造的洞察、数学的思考などの基本的な能力が養われるため、多くの分野への移転が可能となる。

    ただし、遠い転移(チェスで論理性が高まって、本格ミステリーを書くのがうまくなるとか)が起きるかどうかについては、研究による証拠があまりない。とはいえ、コンピュータ工学の経験は優れたストーリーを書くのに役立つ可能性があるとされる。

 

 

  • スキルの転移は、創造的に問題を解決するためにも役立つ。私たちが創造性を発揮するためには、1つの分野で学んだ能力を他の分野に転用できるスキルが大きく関わる。そのため、何か新しいことを学べば学ぶほど、他の分野で創造性を発揮できる確率は高まる。例えば、レゴブロックで遊んだ経験が空間の把握力を養い、これが絵画を描くときに転用されるような状態である。

 

 

  • このようなスキルの転移を最大限に活用するには、文脈の中でスキルを学ぶのが大事。たとえば、教科書だけで統計を学ぶだけでなく、ビジネスでデータを分析するなかで統計を使う。辞書を丸暗記するのではなく、作文や会話を通してボキャブラリーを増やす。文脈は、学習の転移が起こるための下地となる。

 

 

  • ただし、特定のそのスキルが将来どのように転移するかはわからないので、さまざまなスキルや知識に興味を持つ必要がある。これは面倒に思えるかもしれないが、新しい特技を身につければ、新しい人と出会い、新しい会話を交わし、より強力なソーシャル・キャピタルへが手に入る可能性が高まる。

 

 

  • さらに「新しいことをする」と、私たちの個性やアイデンティティを直接的に発展させる働きもある。私たちの人格は、新しい経験や新しい学習によって形成され、これが自分の安定した傾向や性質になっていく。人間のアイデンティティは、以下のような構成がある。

    1.関係性に依存しないアイデンティティ:自分の性格、人口統計学的特性、職業的地位など。どのような新しいことを学んだときも、すべての情報は、あなたの人格を形成する素材になる。

    2.関係性に依存するアイデンティティ:パートナー、友人、家族、職場チームなどの人間関係の一員としての役割。社会的な文脈の中で新たなことを学ぶと、その中で自分の立ち位置が変わり、これもあなたの人格を形成する素材になる。

    3.メタ個人的なアイデンティティ:自分の目標、ビジョン、人生の意味などについての考え方。新しいことを学ぶ中で予期せぬ出来事を知り、それで自分の価値観が変わることによって発生する。

    常に新しいことを学び続けると、上記3つのアイデンティティが明確になりやすく、そのおかげでアイデンティティをゆるがすような人生のトラブルから身を守ることができる。ちなみに、これら3つのアイデンティティはどれかが欠けると、その他のアイデンティティが暴走しやすい特性を持っているため、3つをバランス良く満たすのが大事。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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