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「脚を守る最強の武器は“バネ力”だった」─ランニングのリスクを下げるための最新知見

 
 

ランニングは「バネのスポーツ」などと申します。我々の筋肉と腱は“伸び縮みするゴムバンド”のような役割を果たしてまして、一歩ごとに伸びては縮んでエネルギーをリサイクルしてるんですよね。一説には、このリサイクルにより、走るエネルギーの半分近くをまかなってるとも言われまして、つまりVO₂max(最大酸素摂取量)なんかと同じぐらい、「筋肉のバネ度」が走力を決めてるわけです。

 

で、ここで問題になるのが、長い距離を走っていると、そのバネがどんどん消耗してしまう点。近ごろナイキの研究所が発表したデータ(R)によれば、マラソン前後でランナーの大腿四頭筋のバネ度がどれだけ変わるかを測定したところ、レース後には平均で23%も硬くなっていたとのこと。これはつまり、筋繊維が細かくダメージを受けて「バネ度」が落ちてったサインっすね。しかもこの変化は、体が回復するのにどれだけ時間がかかるかとも直結していて、弾性がガチガチになった人ほど、72時間後も走れる状態に戻ってなかったそうな。これは結構なダメージですな。

 

では、「どうやってバネを守るか?」ってところが気になりますが、当たり前ながら、この研究では厚底のカーボンシューズを推奨しております。研究チームが80人のマラソンランナーを追跡したところ、

 

  • 普通のシューズ組:弾性が31%ダウン
  • 厚底シューズ組:弾性が17%ダウン

 

って結果が出たそうで、やはり厚底シューズには意味があるらしい。つまり厚底は「速く走れる」だけでなく、「走った後にバネを温存できる」可能性もあるわけっすね。

 

ただし、私のようなパレオ者には、「厚底買えば解決なんだろうけど、筋肉の弾性を鍛える方向で考えたいよなぁ」と思うわけです。そこで役立つのが日本で行われた実験(R)で、これによると8週間のドロップジャンプを行うことで、ふくらはぎの弾性が21%改善したらしいんですな。そう考えてみると、

 

  • 下り坂ラン(エキセントリック収縮でバネが鍛えられそう)
  • ヘビートレーニング(スクワットやデッドリフトでバネを鍛える)
  • プライオメトリクス(ドロップジャンプなどでバネを刺激する)

 

ってあたりは重要なトレーニングになって来るかもしれません。なにせ「弾性の消耗」ってのは、ランニングで足を壊す大きな要因のひとつなので、ジャンプトレや下り坂ランで日ごろから「バネ耐性」を強化しておくのは、ケガの防止にめっちゃ役立つはずであります。

 

個人的には、バネ度を高めるためには「プライオメトリクス系」のトレーニングが良いと思ってまして、普段からジャンプ系の運動を取り入れておくと良いのではないでしょうか。そもそもプライオメトリクスってのは、一言でいうと「伸び縮み運動を爆発的に使う練習」のことでして、筋肉を素早く伸ばして、その反動で強く縮める動作が多いのが特徴。なので、筋肉に「バネとしての役割」を学習させるのにちょうどいいんですよ。

 

たとえば、以下のようなメニューが代表的な感じになります。

 

 

① ドロップジャンプ

 

  1. 30〜40cmの台に立つ
  2. 台から「ストン」と落ちる(ジャンプしない)
  3. 着地と同時に素早く真上に跳ぶ
  4. これを8〜10回×2〜3セット行う

 

バネの「伸張反射」を鍛える、めっちゃ基礎となるトレーニングで、膝を深く曲げすぎないようにすべし(沈み込むとバネじゃなく筋力に頼る)。

 

 

② バウンディング(Bounding)

 

  1. 大きなスキップのように前へ跳ぶ
  2. 20〜30mを3〜5本

 

走りに直結する“前方向のバネ”を強化するトレーニング。膝を高く上げ、前方にグイッと伸びるイメージで行う。エリートランナーのトレーニングにも採用されており、ストライド効率や地面反発の利用率が改善しやすい。

 

 

③ シングルレッグホップ

 

  1. 片足でその場ジャンプ10回
  2. 左右それぞれ2〜3セット
  3. 慣れたら前方に進みながら行う

 

 

ランニングは基本「片足運動」なので、この左右バランスが崩れると弾性が一気に低下する。そのため、片脚をキープする耐久性を高めるトレーニングを行っておくとよい。

 

 

④ カーフホップ

 

  1. かかとを床につけず、つま先で軽く連続ジャンプ
  2. 20〜30秒×2〜3セット

 

アキレス腱・ふくらはぎをバネ仕様にするトレーニング。ランニングで最もダメージを受けやすいのはふくらはぎなので、ここを鍛えると「ラスト5kmで脚が攣る」問題を防ぎやすくなる。小さく・リズミカルな動きを続けるように心がける。

 

 

ということで、他にもプライオメトリクスの方法はいろいろありますけども、とりあえずバネ度を高めるって意味では、ここらへんをやっておけば良いのではないでしょうか(ガチのランナーだと物足りないかもですが。)。トレーニングの例を週単位でまとめておくと、

 

  • 有酸素運動の後に、以下を追加で行う。必ずランニングやドリルで体を温めてからお試しください。疲労が強いのでやりすぎには注意で、週2回までにしとくのが良いでしょう。最初は回数を減らして「質」を重視するのが基本になります。
    • ドロップジャンプ 8〜10回×2セット
    • シングルレッグホップ 左右10回×2セット
    • バウンディング 20m×3セット
    • カーフホップ 30秒×2セット

 

これをすべてやれば20〜30分ぐらいになりまして、やや面倒な作業にはなりますけども、それだけケガのリスクは下がるはずですんで。まあ、こう言っておきながら、私はドロップジャンプぐらいしか普段はやってないんですが、それでも何もしなかった30代のころよりは、脚のバネ感は増したような気がしております。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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