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今週の小ネタ:音楽で記憶力がアップ?ボーッとしてたら頭が良くなる?クレアチンは睡眠に効く?


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

 

音楽で記憶力がアップ?

音楽が記憶力を改善するかも!」みたいな、おもしろい研究(R)が出ておりました。研究チームが行った実験をざっくりまとめると、

 

  1. アルゼンチン在住の高齢者186人を対象(そのうち93人は軽度のアルツハイマー患者)
  2. 最初のセッションで36枚の画像を見せる
  3. 画像のあとに、3分間の音を聞かせる。音源は、「ハイドンの交響曲(エモーションをかきたてる系)」「パッヘルベルのカノン(リラックス系)」「ホワイトノイズ(比較用)」
  4. その直後に記憶テスト(自由想起と再認)を行う
  5. 1週間後に再びテストして、記憶の定着具合を見る

 

みたいになります。このデザインにより、「新しい情報を学んだ直後に音楽を聴くと、記憶の定着が良くなるのか?」ってのを調べられるわけですね。

 

で、分析の結果がどうだったかと言いますと、

 

  • 健常な高齢者:ハイドンの音楽を聴いた人は、ポジティブな画像とニュートラルな画像をより多く思い出せた(要するに、学習直後に感情的な刺激を入れると、記憶が定着しやすくなるのかも)
  • 軽度アルツハイマーの参加者:ハイドンの音楽を聴いた人は、「偽記憶」が減った(つまり、見たことない画像を「見たことある」と間違える率が下がった)
  • パッヘルベルの音楽を聴いた人は、ネガティブな画像の記憶が、1週間後には薄まっていた

 

みたいな感じだったらしい。ってことなので、この話をまとめてみると、

 

  • エモーショナルで元気な音楽 → 記憶を強化する

  • リラックス系の穏やかな音楽 → ネガティブな記憶を薄める

 

という、なかなか面白い結果が出たわけですな。

 

音楽が記憶に効く理由についてはいろいろ仮説があるんですけども、まず前提として、アルツハイマー病ってのは「記憶をつくる脳の回路が壊れていく」病気であります。具体的には、海馬とか嗅内皮質ってとこから劣化していって、「この前なに食べたか?」みたいなエピソード記憶がどんどん曖昧になるわけですな。

 

しかし、ここで近ごろ注目されているのが、「感情の記憶はわりと最後まで残る」ってポイントです。感情を処理する脳の部位(扁桃体)は、比較的アルツハイマーの影響を受けにくい傾向があるんですよ。しかも、扁桃体ってのは、学習直後に感情的な刺激を受けると、ノルアドレナリンやドーパミンを出して記憶をガチっと固定化する働きもしてたりするんですよ。で、この感情的なスイッチを入れてくれるもののひとつが音楽ってわけです。

 

 

もちろん、こいつは「音楽で全部の記憶が劇的に改善する!」みたいに単純な話ではなく、研究者も「効果の大きさはそれほど大きくない」と述べておられますんで、あくまで補助的な手段と考えたほうが良いでしょうな。とはいえ、この結果が興味深いのは間違いないので、試しにやってみることとしては、

 

  1. 覚えたい内容をインプット(本でも映像でもOK)
  2. すぐに音楽を3分聴く(ハイドンとか激しめのクラシック)

 

みたいにやってみると、記憶のタグ付けが強化されるかもしれませんな。

 

 

 

ボーッとしてたら頭が良くなる?

「集中できずにボーッとする時間は学習のチャンスタイムかも?」って話(R)が出ておりました。これはエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究で、ざっくり言えば、

 

集中してるときはパフォーマンスが良い。でも、集中が切れて“マインドワンダリング(=心があちこちにさまよう状態)”になると、隠れたパターンを覚える力が高まる。

 

みたいな結論になっております。なんでこういう話が出てきたかといいますと、そもそも人間の脳には、大きく分けて以下の2つの情報処理モードがあるからです。

 

  1. 集中モード:意識を研ぎ澄まし、問題を解決したり、操作を実行したりするための脳の使い方。
  2. 自動モード:意識的な努力なしに、環境の統計的なパターンを学習するモード。無意識のうちに「何かに気づく」ような直感は、こっちの仕組みで育つと言われる。

 

この仕組みをもとに、研究チームは、「集中モードが働いていると、自動モードの働きをジャマするんじゃないか?」と考えたんですよ。つまり、頭をフル回転させていると、逆に直感的な学びが阻害されるのではないか、と。

 

そこで、この実験では、40名弱の参加者を集めまして、「矢印が出た場所に素早くボタンを押す」という単純な作業をやってもらいました。ただし、実はこの矢印の出るパターンにはある隠れた規則が埋め込まれているんだけど、参加者はそのことを知らされていないんですな。でもって、各ブロックの後には、

 

  • 今どれくらい集中してましたか?
  • 心がさまよってましたか?
  • それは自発的なものでしたか?それとも意図的でしたか?

 

といった感じで、みんなの思考の状態を自己申告してもらったうえで、脳波(EEG)も測定したんだそうな。なかなか面白い実験っすね。

 

でもって、その結果は非常に興味深いものでして、

 

  • 集中してるときの方が、ボタンを押す正確さは高かった

  • でも、矢印の“隠れたパターン”への反応は、集中が切れてるときの方が鋭くなった


ってことで、まさに「集中と直感はトレードオフ」って仮説を支持する内容になったらしい。要するに「自発的に」ボーッとしていた状態には、隠されたパターンを見抜く能力を高める効果があるのではないか、と。ぼんやりとした状態でも、脳はバックグラウンドで作業しているため、学習の初期における「習得フェーズ」では、あえてボーッとしてみるのもアリかもしれないってことですなぁ。

 

 

 

 

近年はクレアチンの研究がいよいよ増えてますが、新しいデータ(R)は「クレアチンと睡眠」の関係を調べてくれていて面白かったです。この研究は、若くて体を動かすのが好きな男性14名を対象にしたクロスオーバー試験でして、だいたい以下のような感じで進められております。

 

  • 対象者:平均的にアクティブな若年男性14名
  • サプリ:クレアチンモノハイドレートを1日20g(5g×4回)またはプラセボを1週間摂取してもらう
  • 評価項目
    • スプリントテスト(繰り返しの全力疾走)
    • デジットキャンセレーションテスト(注意力や処理スピードを見る認知テスト)
    • 睡眠(リストバンド型のデバイスで毎日チェック)

 

こんな感じで、クレアチンの効果をチェックしてみたところ、結果はこんな感じになりました。

 

  • クレアチンを摂取した期間は、みんなスプリントのパフォーマンスが向上し、認知テストのスコアもアップした。

  • ただし、クレアチンを飲んでも睡眠の改善に明確な効果は見られなかった。

 

ってことで、クレアチンのおかげで運動力と認知機能は上がったものの、睡眠には変化がなかったわけですな。まあクレアチンは筋肉のエネルギー源(ATP)の再合成を助ける働きで有名なので、筋肉や脳のパフォーマンスが上がるってのはわかりやすいところではあります。一方で睡眠に明確な作用がなかったのが残念ですけども、研究をよく見ると、参加者はもともと睡眠の質が良好だった人ばかりみたいなんで、「もうすでに問題がない人にクレアチンを足しても、変化が出にくかった」可能性も高そうではありますな。

 

ということで、今回の知見をまとめると、やはりクレアチンは瞬発系パフォーマンスの向上(繰り返しスプリントなど)と認知機能の改善(集中力、注意力)には役立ちそうなんで、興味がある方はお試しいただくのもよいでしょう。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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