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元Googleデータ科学者「家庭環境は子育てに影響しないし、もっと重要な要素は他にあるよねー」


  

直感を信じるな!(Don't Trust Your Gut)」って本をチビチビ読んでます。著者は元Googleのデータサイエンティストだったセス・ステファンズ・ダヴィドヴィツ先生です。

 

 

本書はタイトルどおり「直感なんて信じてもろくなことがないから、データを頼りに人生の指針を立てようぜ!」みたいな内容でして、このブログの読者さんには響きそうな内容っすね。アダム・グラント先生やダニエル・ピンク先生といったいつものメンツも絶賛してまして、おそらく邦訳されるんじゃないでしょうか。

 

 

で、本書にはいろいろとおもしろい観点があるんですが、個人的に「子育て」のパートが興味深かったんで、勉強になったポイントをまとめておきます。

 

  • 調査によると、赤ちゃんが生まれてから1年の間に、両親は1,750もの難しい決断を迫られる。ただし、もしあなたがいま子育て中で、「間違った選択をしたのではないか……」とか恐れているなら、そんなに心配する必要はない。そもそも、親が下す決断のほとんどは、一般に考えられているほど重要ではない。

 

 

  • 親の影響について考える際にもっとも大きな問題は、相関関係が因果関係を意味しないところにある。たとえば、親が本をたくさん読んでくれる子どもは成績が良い傾向があるが、親が子供に与えるのは本だけではなくDNAも与えている。

    親が本を読む習慣があるから子供も本に惹かれるのか? それとも、親と子が持つ遺伝的が本にひかれるのか? は誰にもわからない。

 

 

  • 遺伝子は強力な決定要因であり、生後4週間から別々に育てられた一卵性双生児でも、39歳になったあとの身長、体重、爪を噛む癖、飼い犬の名前、アルバイトの種類、好きな酒の種類などが一緒だった事例がある。

 

 

  • そこで、親が子供に与える影響の因果関係を証明するには、異なる子供を異なる親に無作為に割り当て、その結果を調査するしかないが、このような研究は実際に行われている。

 

 

  • 具体的には、他国からの養子を迎えたアメリカ人を調べた研究がある。これによれば、「子供が育った家庭の環境は、その子供がどうなるかということに、驚くほどほとんど影響を及ぼさない」と結論づけている。

    同じ家に養子に出された血のつながらない子供たちは、別々に育てられた血のつながらない子供たちに比べて、ほんの少し似たような結果になったにすぎない。一方で、子供の将来の収入に対する遺伝の影響は、家庭環境の影響の約2.5倍だった。

 

 

  • 他の研究者たちも、養子や双子を対象にさらなる研究を行い、同じような結果を得ている。経済学者のブライアン・キャプラン博士は、親が子どもの健康、平均寿命、教育、宗教性に与える影響は非常に小さいと報告した(ただし、特に10代の薬物・アルコール使用や性行動、子どもの親に対する感じ方には中程度の影響を与える)。

 

 

  • 子育ての全体的な効果がこれほど限定的だとすれば、個々の子育ての決定がもたらす効果も小さいと考えられる。

    例えば、母乳育児に関する最大規模のランダム化比較試験では、母乳育児を行っても、さまざまな結果に対して長期的に大きな影響を及ぼさないことがわかった。

    また、未就学児のテレビ視聴を調査した結果でも、テレビは子供のテストの点数に長期的な影響を及ぼさないと報告された。また別のランダム化試験は、チェスのような認知的なゲームを子どもに教えても、長期的には子どもを賢くすることはできないことが示唆された。

 

 

  • 一方で、「親の決断が非常に重要になるかも?」と思われる要素がある。それは、ズバリ「どの場所に住むか?」というポイントである。

 

 

  • 経済学者のラージ・チェティ博士らが行った研究では、子供とその親の納税記録を結びつけることで、子供時代にどこに住んでいたか、そして大人になってからどれだけの収入を得ることになったかを調査。子供のころに引っ越したことのある兄弟姉妹に注目して分析を行い、子供が成長した場所と教育や収入の変化を調べたところ、いくつかの大都市圏は子供たちに有利であることがわかった。

    これらの地域に育つ子供は、より良い教育を受けることができ、大人になってからの収入も多い傾向があった。なかでも優れていたのは、シアトル、ミネアポリス、ソルトレークシティ、ペンシルバニア州レディング、ウィスコンシン州マディソンで、ここに住む子供は将来の所得を約12%増加させることができた。

 

 

  • 養子縁組に関する研究と、上記の居住地域に関する研究を比較すると、子供が暮らす地域の重要性がわかる。具体的には、親の影響全体の約25%、場合によってはそれ以上が、その親が子どもを育てる場所によって左右されると推定できる。つまり、「どこで子育てをするか?」というたったひとつの決断が、他の何千もの決断よりもはるかに大きな影響力を持つことになる。

 

 

  • それほどまでに子育てする場所の影響が大きい理由として、チェティ博士らは「良いロールモデルの多さ」を挙げている。

    というのも、成功する子供が多い地域では、両親が二人いる世帯の割合、大卒の住民の割合、国勢調査票を提出する住民の割合が大きい。言い換えれば、このような地域には、頭がよく、業績を上げ、地域社会に参加し、安定した家庭生活を営んでいる大人が多いことになり、すなわち模範となるような大人の数が多いのだと考えられる。

 

 

  • ロールモデルの重要性を示す証拠は他にもあり、チェティ博士が共同執筆した別の研究によると、特定の分野で女性の特許権者が多い地域に引っ越した少女は、成長してから同じ分野で特許を取得する可能性がはるかに高いことがわかった。また別の研究では、黒人の父親がたくさんいる土地で育った黒人の男の子は、たとえ自分の父親がいない場合でも、ずっと裕福な人生を送りやすいことが分かっている。

 

 

というわけで、「親の子育ては意外なほど子供に影響しない」ってのは前にも書きましたが、ここでも似たような結論ですね(もちろん、毒親みたいなマイナスの子育てについてはまた別の話なのでご注意を)。周辺環境の重要性も以前から言われてたことなんですけど、ロールモデルに注目したあたりは「なるほどなー」とか思いましたねー。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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