【質問】あなたの読書が遅いのは脳内で文章を音声にするからだ!って説はどこまで正しいんですか?
こんなご質問をいただきました。
先日、速読に目の動きはほぼ関係ないという話を書かれていましたが、それでは頭のなかの音読はいかがでしょうか? 速読の本では、頭の中で文字を読み上げると読書のスピードが遅くなるという説をよく見かけます。
とのこと。確かに、「脳内で文章を音声にするから読書が遅くなるのだ!」って話はよく見かけまして、たとえば「LIMITLESS 超加速学習」なんかも、脳内音読をしないように戒めておられました。
脳内音読がなぜいけないのかと言うと、
- 文章を脳内で音に変えながら読む
- 文章を読む速度が会話のスピードと同じぐらいになってしまう
- 読書が遅くなる!
みたいな流れです。確かに、多くの人の平均的な読書速度(1分間に200~250語)は、話す速度(速く話すときで1分間に200~240語)と同じぐらいでして、脳内音読が読書スピードを制限している可能性はありそうにも思うわけです。
では、この問題について私がどう思っているかと言いますと、こんな感じです。
- 脳内音読は読書スピードに関係するけど、だからといって脳内音読をやめれば速読できるって話じゃないよなぁ……
脳内音読によって読書スピードは変わるものの、それが本をスピーディに読みつつ、内容も理解することにはつながらないだろうと思ってるわけですね。
このような結論になった理由について説明するために、まずは「脳内音読はよくない!」という説を支持するような研究を見てみましょう(R)。これは、読むのが速い人と読むのが遅い人の脳をfMRIで調べた研究で、その結果は、
- 読むのが速い人は、音声に関連する脳領域の活性が低かった
という感じだったんだそうな。つまり、脳内における文章の音声化が少ない人ほど、読むスピードが速いんだよーってことです。
というと、「やはり脳内音読は読書のジャマなのだ!」って気になりますが、そう簡単にはいかないのが世の常。具体的には、認知心理学者のスティーブン・K・リード先生は、著書(R)の中でこんなことを言っておられます。
脳内音読は読む速度を制限するが、読んだ内容を記憶するのに役立つ。
確かに、読書の速度は脳内音読のペースに左右されるものの、同時に文書の音声化は、内容を深く理解するためには欠かせない要素なんだってことですね。
なぜ脳内音読で本の理解が深まるのかと言うと、
- まず文章を視覚で理解する
- 目の情報をさらに話し言葉として理解する
- 情報の処理が二段階になるため、内容の理解が進む!
みたいになります。もともと人間ってのは、目で見た情報からではなく、他人との会話のなかで情報を学ぶように進化してきたので、音声化したほうが理解が進みやすいんですよ。
つまり、脳内音読というのは、私たちの脳が読んだ内容を理解し、記憶するための自然なプロセスのひとつ。ひとつの情報について視覚だけを使うよりも、いろんな感覚を駆使したほうが記憶に残るのは、直感的にも理解しやすいんじゃないでしょうか。
また、もうひとつ別の観点としては、そもそも私たちが脳内音読をやめることが可能かどうかについて、まだ科学の世界でも統一した意見が得られていないってところでしょう。脳内音読は人間にとって自然なプロセスなので、果たして脳内を無音にしたまま読書ができるかどうかはよくわからないんですね。
一部には「自分は読書のときに脳内音読をしていないけどなぁ」と思う人もいるでしょうが、こういうケースでは、だいたい頭の中の音声を無視するのがうまいだけだったりします。研究者のなかには、「もし脳内音読がなければ、人間は文字を読むことさえできないかもしれない」という説を唱える研究者もいるぐらいなんで(R)。
事実、上に挙げた脳研究でも、「脳内音読が少ない人ほど、文章を飛ばして読むのがうまい」って傾向は確認されてたりします。つまり、脳内音読の低下で読書スピードが上がった代わりに、テキストの理解度は落ちている可能性があるってことですね。やはり読むスピードと理解度を同時に上げるなんてうまい話はないんでしょう。
ということで、以上の話をまとめると、こんな感じになります。
- 脳内音読のスピードは、読書のスピードと関係がある
- ただし、脳内音読はテキストの理解度を深める働きがある
- というか、そもそも脳内音読を止めることができるのかはわからない
こうして見ると、結局のところ、読書のスピードと理解度にトレードオフがあるのは変わらないので、脳内音読を気にしないほうがいいんじゃないでしょうか。