【質問】虫歯を削らずに治せる魔法の治療?「ドックベストセメント」ってどうなんですか?
こんなご質問をいただきました。
ドックベストについてどう思われますか?削らずに虫歯が治療できると言われて、歯医者からおすすめされました。
ということで、ドックベストセメントの効果はどんなものなのか?ってことですね。
ドックベストセメントってのは、「虫歯を削らずに治す魔法のセメント」などと言われている治療法。こいつを虫歯の上から詰めると、そのまま殺菌を続けてくれるので、虫歯を削らずにすみ、本来ならば取り除かなきゃいけない神経を保存できるというんですな。神経を残せるならそれに越したことはないんで、これが事実ならばまことに画期的な手法であります。
が、ドックベストセメントについてお前はどう思っているのかと言われれば、「うーん、どうでしょう。少なくとも自分は選ばないなー」ってのが結論になります。ドックベストセメントの主張は確かに魅力的なんですけど、いまんとこ自分でやろうと思うだけの素材がまったくないもんで。
というのも、いろいろと世界のデータベースを調べてみても、ドックベストセメントに関して信頼できるレベルの論文や研究がないし、日本国内を見ても、よさげな予後のデータや研究例がないんですよね。悪く言えば、まっとうな学術論文や専門書では相手にされていない治療法なんですよね。
では、現時点で、どのようなデータがあるのかと言いますと、いまのところ以下のようになります。
- ドックベストセメントの効果について調べた論文は、現時点で2008年に発表された1件しかない(R)。といっても、これは実際の人間を対象にした試験ではなく、ヒトの抜いた歯56本で作った標本を使用してます。
この標本を4つのパターンにわけて、ドックベストセメントをつけたもの、クロルヘキシジンって消毒薬をつけたもの、ドックベストセメントをつけたけあと24時間後に取りのぞいたもの、何もつけないものって感じにし、5日後の細菌の状態をチェックしたんだそうな。すると、歯にくっついている虫歯菌の数はほとんど同じだったんだけど、ドックベストセメントを使わなかった歯の方が状態が良かったんだそうな。
まぁ、ドックベストセメントで殺菌できるのは当たり前なので、このような結果が出るのは当然といえば当然。これだけで本当に虫歯治療に良いのかと言われれば、「なんにも言えない!」としか。
- その他、アメリカ食品医薬品局(FDA)がドックベストセメントを認可したデータ(R)はあるが、「歯に被せたり、詰め物、矯正装置をつける接着剤として使ってねー。初期の虫歯の詰め物として使うのもいいよー」ぐらいのことが書いてあるだけで、虫歯を治したり、ましてや神経を取らずにすむよーみたいなことはなんも書いてない。
- 歯医者さんが使う定番の資料「う蝕治療ガイドライン」(R)にも、ドックベストセメントについてはなんにも触れられていない。
ということで、世界的に見てもほとんど触れられている例がないし、国内のガイドラインでもノータッチだしで、いまのところドックベストセメントは、日本だけで有名な民間療法って感じじゃないでしょうか。というか、ドックベストセメントってめっちゃ昔から有名なセメントですけど、なんでこれが日本だけで広まったのか謎ですが。
以上の話をふまえたうえで、私がもし虫歯になってもドックベストセメントは選ばないっすね。もちろん、ドックベストセメントをやりたい人を止めようとも思いませんが、保険はきかないし、いったんこの治療法を使うと、そこからの治療は保険外になってしまうので、その点はご注意ください。