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筋トレ×ダイエットに「高たんぱく」は本当に必要?って問題をガッツリ調べた研究の話

   

 

筋トレしながらダイエットするなら、たんぱく質は多めに!」みたいなアドバイスを、フィットネス系の本やSNSで目にしたことがある人は多いはず。過去の研究では「高たんぱく食が筋肉の減少を防いでくれる」という話が定番になってまして、私もその前提で食事の設計をしております。

 

が、ここでちょっと気になる研究(R)が登場しまして、「たんぱく質の摂取量を変えても、体組成に差は出なかったよ」って結果を出してたんで、ちょっとビビりました。

 

研究のデザインをざっくりまとめると、この研究では、21名の男女(おそらく20代前後)を対象に、6週間にわたってカロリー制限と筋トレを組み合わせた生活を送ってもらったんだそうな。その際に、被験者を以下の3つのグループに分けております。

 

  1. 低たんぱくグループ:体重1kgあたり1日1.2gのたんぱく質
  2. 中たんぱくグループ:体重1kgあたり1日1.6gのたんぱく質
  3. 高たんぱくグループ:体重1kgあたり1日2.2gのたんぱく質

 

さらに、いずれのグループにも、1日あたり約25%のカロリー制限と、週3回の全身筋トレをやってもらいまして、その上で以下の筋力テストを指示し、みんなのエクササイズのパフォーマンスをチェックしたんだそうな。

 

  • 懸垂(最大回数)
  • チェストプレス(5RM)
  • 片脚レッグプレス(5RM)
  • レッグカール(5RM)

 

で、気になる体組成の変化がどうだったというと、「どのグループでもほぼ同じ!」って結果だったというから、ちょっと驚きであります。もう少し詳しく言うと、

 

  • すべてのグループで筋力は増加したが、大きな差はなかった
  • 脚の筋力(レッグプレス)に限っては、高たんぱくグループがやや上回った
  • 体重は平均でわずか0.7kgしか減っていないが、しかも脂肪は減って筋肉は増えていた

 

みたいな感じです。もしかしたら、この数字を見て「ん?」と思われた方もいるかもですが、それはなかなか鋭いっっすね。そう、実はこの研究、本来想定していたよりもカロリー制限がゆるかったようでして、研究者たちは25%のエネルギー赤字を目指していたのに、実際は平均で12%しか赤字になっていなかったらしいんですよ。うーん、こいつはややこしいぜ。

 

では、上記の問題に踏み込む前に、ちょっと理論をおさらいしておきましょう。一般的に、カロリー制限を行うと筋肉の合成(MPS)が落ちることがわかってまして、減量をすればするほど筋肉量が減るリスクは高まるものなんですよね。だからこそ、たんぱく質を増やして筋肉の合成を刺激しようってのが、高たんぱくダイエットの基本的な考え方なわけです。実際に、40%のカロリー制限を課した研究(R)では、「体重1kgあたり1日1.2gのたんぱく質」と「体重1kgあたり1日2.4gのたんぱく質」を比べてみたら、摂取量が少ないグループには筋肉の減少が顕著に見られた一方、摂取量が多いグループでは筋肉の維持あるいは増加が確認されたりしてまして、これはなかなかロブストな結論だと思うわけです。

 

が、その一方で、今回の研究のようにエネルギーの赤字が12%程度だと、筋肉の減少リスクがあまり大きくないはずなんですよね。そのため、実験でたんぱく質の量を増やしても、体組成の改善効果に差が出にくかったんだろうと考えられるわけです。

 

「じゃあ、たんぱく質なんて増やす意味がないんじゃない?」とか思っちゃうかもですが、その考え方はまだ早計であります。たしかに、カロリー制限がゆるい場合は差が出にくいんだけど、激しくカロリーを削った場合には、やっぱり高たんぱく食で明確な違いが出るはずですんで。

 

実際のところ、2025年に出たレビュー論文(R)では、27の先行研究をチェックしたうえで、「たんぱく質の摂取量が多くなるほど除脂肪体重の維持に効果がある!」と結論してますからね。具体的な数字を挙げておくと、1日のたんぱく質の摂取量が0.8g/kgから3.2g/kgに上がるにつれて、わずかではあるが確実にプラスの効果が出ていたんだそうな(ただしこのレビューで扱われた研究はデータの質がまちまちなので、あくまで「今後の研究が必要」ってスタンスですが)。

 

ということで、今回の研究から得られる教訓をまとめておくと、以下のようになります。

 

  •  軽いカロリー制限(マイナス10〜15%程度)+筋トレなら、たんぱく質は1.2g/kgでも十分かも:カロリー制限の量が少ないと、筋肉への負担が軽いため、そこまで高いたんぱく質がなくても筋量を維持できる可能性が高い。

 

  •  逆に、20%以上のカロリー制限をするなら、体重1kgあたり1.9〜2.2gぐらいのたんぱく質は摂っておきたい:特に筋肉の維持を重視したい人、筋肉量がすでに多い人、ボディコンテストを目指しているような人は高たんぱくがベターでしょう。

 

  • たんぱく質の「投資効果」はちょっとずつ減る:たんぱく質の摂取量を1日に2.2g/kgから3.2g/kgに増やしても、得られるメリットはたぶん微々たるものだと思われるんで、ここらへんは胃腸の負担やコストとのバランスを見ながら判断しましょう。

 

要は、「今、自分がどれぐらいのカロリー赤字を作っているのか」を把握したうえで、それに応じてたんぱく質の量を調整するのが正解、という話ですね。まあ、私のように50代を目前にしているような人は、体内でたんぱく質が使われる量がどんどん減っていくはずなので、個人的には減量中だろうがなんだろうがとにかく高たんぱくな食事を心がけるようにしてますが。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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