鉄分で体が老けるってどこまでホント?理論編
https://yuchrszk.blogspot.com/2017/06/iron1.html?m=0
鉄分は摂りすぎのほうがヤバい
「鉄分で老けるって聞きますけど本当ですか?」ってご質問をいただきましてので、ちょっと考えてみたいと思います。ご存じのとおり、鉄分は人体に酸素を運ぶ働きをしている大事なミネラル。こいつが足りないと貧血になったり、頭が悪くなったり、疲れやすくなったり、免疫システムが壊れたりと、いろんなダメージが出ることがわかっております。
が、いっぽうで「鉄不足より摂りすぎのほうがヤバい」って話も昔からあります。たとえば、血液の鉄分が増えちゃう病気(ヘモクロマトーシス)の患者さんは、格段に癌や心疾患にかかる確率が高かったりするんですね(1)。
鉄分が多い人ほど体は老けている
こういった問題が起きるのは、過剰な鉄分が体内でタンパク質とっくついて「フェリチン」って物質になるから。フェリチンは酸化しやすい性質を持っていて、量が増えるほどに細胞へダメージをあたえていくんじゃないかと考えられてるんですな。この事実はいくつかの観察研究で確認されてまして、
- 糖尿病または高血圧の人ほどフェリチンの量が多い。相関係数は0.73(=かなり関係性が強い)(1998年,2)
- 血中のフェリチンが多い人(300オーバー)の人は、糖尿病の発症リスクが5倍になる(1999年,3)
- 内臓脂肪と皮下脂肪の増加もフェリチンと密接な関係がある(2005年,4)
みたいな感じ。ハッキリした因果の方向はわからないものの、鉄分が多い人ほど体が老けてるよーって関係性はバッチリと出てますねー。
男が早死になのも鉄分のせい?
ほかにも特筆すべきポイントとしては、「男が女より早死になのは鉄分のせいじゃない?」って説もあったりします(5)。女性は定期的に血液を排出するので、男より体内の鉄分が少ない傾向があるんですな。そのせいで、男は年を取るごとに体内の鉄分が溜まっていき、やがて心臓病を引き起こすんじゃないのか、と。この説を確かめるのは難しいものの、2002年の実験(6)では「患者の血を取って体内の鉄分を減らしたら心疾患のリスクが減った!」なんて結果も出てたりしますからねぇ。あながちデタラメでもなさそうではあります。
鉄過剰はすべての病気の根っこにあるかも説
このあたりをふまえたうえで、マンチェスター大学のダグラス・ケル博士は、2010年のレビュー論文で次のように言っております(7)。さまざまな毒素や感染因子は、細胞や組織の死や機能の停止をもたらし、結果として病気、老化 、死亡の原因となる。それでは、さまざまな原因のなかで、細胞の死と破壊をもたらす根っこのメカニズムとはなんだろう?(中略)
すべての経路は複雑にからみあっているが、このレビュー論文では、多くの病気の原因が「鉄分の機能不全」に集約される事実に焦点を当てたい。
「慢性炎症」や「ミトコンドリアの不調」など老化の原因はいろいろですが、その大元には、鉄分の代謝不全ってメカニズムがあるんじゃないかって説です。
ちなみに、糖尿病の治療薬として定番のメトホルミンにも、実は鉄分の吸収をブロックする働きがあったりもします(8)。メトホルミンといえば体内のエネルギーセンサーに活を入れる働きが有名ですけど、鉄のコントロールにも役立ってるかもしんないわけですな。
ってことで、今回はこのへんで。次回は「じゃあ鉄の過剰にはどうすればいいの?」ってあたりを探ってみたいと思います。どうぞよしなに。