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「無(最高の状態)」で解説した「無我」に至った人は、どんな体験をしているのか?みたいな話

 
 

無(最高の状態)」では、「どうせ自己なんてないんだから、そんなもんにとらわれずに生きたほうが楽だよ!」みたいな話をしております。くわしくは本編をお読みいただければと思いますが、「自己」の意識が人間の苦しみに関わっているケースは多いんですよね。

 

 

そこで本書では、「自己が消えた後の人間はただの場になる」みたいな説明もしてたりします。自己がない状態の自分ってのは、いろんな思考や感情が湧き上がる場所でしかなくなり、その結果として、ネガティブな感情に動かされなくなるんだよーって話っすね。

 

 

でもって、新たに出た研究(R)は、「自己にとらわれないで”場”になった人はどんな経験をしているのか?」みたいな問題を扱っていて非常に有用でした。「無(最高の状態)」では自己がなくなった人の特徴を行動面から説明したんですけど(終章のとこ)、ここではあくまで「無我にいたった人の主観」を問題にしてるわけですね。

 

 

これはヨハネス・グーテンベルク大学の調査で、研究を手がけたトーマス・メッツィンガー博士は「エゴ・トンネル――心の科学と「わたし」という謎」などの著作で有名な方で、ずっと「わたし」の問題を突き詰めてるおもしろい先生っすね。

 

 

どんな研究だったかをざっくり説明すると、こんな感じです。

 

  1. 「瞑想をしたらどんな意識を体験するの?」を調べるために、100以上の質問からなるオンラインアンケートを作成

  2. このアンケートを、瞑想の上級者約3,600人に回答してもらう
  3. 全員がどんな意識状態を体験しているのかをピックアップする

 

ってことで、自己が消えた後で、みんながどんな体験をしているかを調べたわけっすね。研究チームいわく、

 

今回の研究の目的は、瞑想についてくわしく知ることではない。興味があるのは人間の意識だ。純粋な意識は、意識的な経験の最も単純な形態であるというのが、私たちの作業仮説だった。この仮説に基づいて、人間の意識体験を説明する最小モデルを開発するのが目的だ。

 

とのこと。なんのこっちゃ?って感じですけど、そもそも瞑想を長く続けている人たちのあいだでは、「純粋な意識」みたいな状態が報告されるケースが多かったんですよ。瞑想をやってる方ならおわかりいただけると思いますが、なんか妙に頭がクリアになって、時間の流れが変わったみたいに感じることがあるじゃないですか。ああいう感覚のことです。

 

 

ちなみに、今回の研究で使われたアンケートは、「温度を感じましたか?」「ポジティブな気分でしたか?」「考え事をしましたか?」といった質問で構成されてて、それぞれへの答えを因子分析に使ったとのこと。その結果、チームは「純粋な意識を特徴づける12の要素を挙げることができた」と結論づけております。具体的には、こんな感じです。

 

 

  1. 時間・努力・欲望:呼吸とか思考に意識を向け続ける感覚(努力)の結果、普段よりも時間の感覚が変わり、なんからの欲求を強く感じる(腰が痛いのをなんとかしたい!みたいな)

  2. 平和・至福・静けさ:リラックスして落ち着いた感じがあり、なんだか幸せな気分が生まれ、ただそこに存在してるような感覚がある

  3. 自己認識・自律的認識・洞察:なんらかのものごとについて、知識や過去の体験とか関係なく「よくわかるなー」と思えるような感覚。自分自身についても同じような感覚がある

  4. 覚醒した存在感:「いまここ」への感覚を強く覚える。自分は現在に存在してるなーという感覚がある

  5. 夢と眠りの中の純粋な意識:夜に眠っているときでも、夢の中で「自分は夢を見ている」という意識がある

  6. 発光:いろんなものに対して、主観的に「なんか輝いてるなー」みたいな感覚がある。目を閉じててもなんか輝いてるような感覚がある

  7. 思考と感情:いろんな思考と感情が自動的にわき上がってくるような感覚

  8. 何もなさと非自我的自己認識:「結局この世のことって絶対的なものがないよなー」「自分とは関係なく自分は存在してるなー」みたいな感覚

  9. 身体と空間の感覚的知覚:五感から入ってくる情報を、意図的に感じようとしなくても把握できる状態

  10. 世界と自己に触れる:世の中のものごとを「そのまま体験できてるなー」みたいな感覚

  11. 精神的主体性:その気になれば「自分の意識をいろんなことに切り替えられるぞ!」みたいな感覚

  12. 目撃者意識:自分を人ごとのように体験できている感覚

 

 

いやー、これは難しいですね。いずれも主観的な感覚を記述してるんで、実際に体験してみないとさっぱりですな。個人的には、「覚醒した存在感」とか「平和・至福・静けさ」「思考と感情」あたりはわかるんですが、「発光」とか「夢と眠りの中の純粋な意識」みたいなのはまったくわかりませんで、ここらへんは個人差も大きそうですよね。

 

 

研究チームいわく、

 

この結果によると、純粋な意識の典型的な特徴は、例えば、静けさ、明瞭さ、エゴ的な自意識のないの知覚にあるようだ。

 

ってことで、「無(最高の状態)」でも書いた内容にわりと近い内容になってますね。もちろん、「この12個の体験をしないと無我ではない!」みたいな話ではなく、あくまで「自己が薄れた人はこういう体験をしてますよー」ぐらいの話なんでご注意ください。私としては、「こういう体験ができたらいいよなー」ぐらいの好奇心を持って瞑想に取り組むために、今回のリストを活用したいと思っております。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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