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最大心拍数を「220ー年齢」で計算するのは間違いのもとなので、別の計算式を使ったほうがいいんじゃない?というメタ分析の話

 

 

自分の最大心拍数を知っておくと何かと便利なのはご存じのとおり。

 

 

最大心拍数を中心に設計されてるフィットネスプログラムは多いですし、有酸素運動能力を高めるためには最大心拍数の80〜90%で短時間の運動を、持久力を高めるためには65〜75%での運動をするのが良いとか言われてますからね。私の場合も、普段の運動ではアップルウォッチで心拍数を計測しつつ「いま170ちょいだからもうちょい追い込めるな……」とか判断しながら体を動かしております。

 

 

で、最大心拍を計算するためによく使われる公式として「220ー年齢」ってのがありますが、この計算式にたいした根拠がないのは有名な話でしょう。この計算式は、1970年に連邦公衆衛生局の若手医師だったウィリアム・ハスケル博士と、その指導者であるスタンフォード大学医学部のサミュエル・フォックス博士が考案したものなんですが、具体的にどのように生まれたかと言いますと、

 

  1. ある医学会議の準備のために、ハスケル博士がさまざまな年齢の人々を対象に最大心拍数を測定した10件ほどの研究結果を集めた

  2. 医学会議に向かう飛行機の中で、ハスケル博士が集めたデータをチェックしていたところ、「あれ?このデータをまとめると、20歳は心拍数の最大値が200、40歳は180、60歳は160になってるから規則性がなくない?」と気づいた

  3. それを聞いたフォックス博士が「じゃあ、220から年齢を引けば最大心拍数が出せるね!」という公式を提案した

 

みたいになってます。要するに、もともとは科学者が軽い気持ちで考えた説なんですよね。当然ながら、ハスケル博士が集めたデータは偏りが大きくて、ここで研究の対象になった参加者ほとんどが55歳以下だし、なかには喫煙者や心臓病を患っている人もいたんで、「220ー年齢」って公式だと、一般的な成人の最大心拍数を把握できないはずなんですよ。

 

 

ただし、この説が出てきた時代は世の中がフィットネスブームにわいてまして、「心肺機能を向上させるためにはどの程度の運動をすればよいの?」ってとこに興味を持つ人が多かったからさぁ大変。「最大心拍数を推定する簡単な計算式が見つかったぞ!」ってニュースはひとり歩きを始め、やがてポラール社みたいな心拍計ブランドの大手が公式を採用。最後には心臓病の患者に向けて教えられたり、教科書に書かれたりするようになったからすごいもんです。

 

 

では、本当に正確に最大心拍数を計算する方法はないのか?ってことで、コロラド大学の先生方が良い計算式を考えてくれてますんで、こちらを見てみましょう(R)。

 

 

これは18,712人の健康な人を対象とした先行研究のデータを使って計算したもので、過去に出た最大心拍数の研究から質が高いものを集めてメタ分析を行ったものです。ここから年齢と最大心拍数の正確な関係性を計算したうえで、その結果を、研究チームが募集した514人の健康な人で検証したんだそうな。

 

 

その結果、最大心拍数をよりうまく計算するには、

 

  • 最大心拍数= 208 - (0.7 x 年齢)

 

って公式がベストだったそうです。つまり、私の年齢(46歳)だと「175.8」が最大心拍数ってことになりますね。

 

 

まぁ「220ー年齢」で計算しても「174」ぐらいなので、そこまでが違いがあるわけじゃないんですけど、「208 - (0.7 x 年齢)」の計算式を使うと高齢者の最大心拍数の平均値ははるかに高くなる傾向がありまして、だいたい40歳あたりから少しずつズレはじめる印象ですな。つまり、若い人であれば「220ー年齢」でもいいんだけど、私のようにオッサンになればなるほど「208 - (0.7 x 年齢)」を使ったほうがいいんでしょうな。

 

 

ちなみに、心拍数トレーニングの世界は複雑で、そもそも「最大心拍数がフィットネスの指標として使えるのか?」みたいな議論もありまして、

 

  • 最大心拍数よりも「運動をやめたときにどれだけ早く心拍数が下がるか」のほうが大事じゃない?

 

みたいな見解も提示されてたりはします(R)。激しい運動をやめてから1分以内に心拍数が12回未満しか下がらなかった人は、13回以上心拍数が下がった人に比べて、その後の6年間で死亡するリスクが4倍になるってデータもあるんですよね。

 

 

とはいえ、酸素摂取量と心拍数との関係にはほぼ直線的な関係があるのは間違いないので、個人的にはいまも普通に最大心拍数をベースに有酸素運動を設定しております。試してみたい方はぜひ「208 - (0.7 x 年齢)」の公式をお使いいただければと。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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