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退屈なToDoリストをやる気が起きないときに使える心理トリックのお話


 


4年前に出した「ヤバい集中力」って本で、わたくし、こんなことを書いております。

 

昔からビジネス書の世界では「難しい作業から先にやるべし!」といったアドバイスがなされてきました。難易度が高いタスクを初めに終えてしまえば、あとはリラックスして残りの作業に取り組めるからです。「まず、朝一番にカエルを食べろ!(=難しくて大変な仕事から手をつけよ)」と主張するブライアン・トレーシーの著作などが代表的な例でしょう。

 

しかし、ハーバード・ビジネス・スクールの研究よれば、実際にタスクの達成量がもっとも多かったのは「朝に1日のタスクをすべて書き出し、簡単なタスクをリストの先頭にまとめ、その順番どおりに作業を進めた」グループでした。1日の最初に簡単なタスクをこなした被験者はみんな集中力が上がり、最後には仕事への満足感も改善したというから、すばらしい成果です。

 

ビジネス書などでは「1日のはじめには最も難しい作業をせよ」と書いてあることが多いけど、実際には「朝イチで簡単な作業をした方が、脳の勢いがついて、その後の難しい仕事もはかどる!」って話ですね。

 

が、新たに出た報告(R)は、これと逆のような話でして、まずは結論から言ってしまうと、

 

  • 複数の仕事をやるときは、一番最後に簡単な仕事を持ってくると、その経験を全体的にラクに感じる!

 

のようになります。

 

一例として、あなたが「たまりまくったメールを処理しなければ!」って状況におちいったとしましょう。メールの種類はさまざまで、上司に重要な仕事の詳細を伝えるようなちょっと難しいものがあれば、一方では、イエスかノーで返事をすればOKという楽なものも存在しております。

 

このようなケースでは、ビジネス書のアドバイスに従って簡単なタスクから手をつけたほうが吉。まずは重い仕事から終わらせたあとで、最後に負荷の低い作業をすることで、「メールの処理」という体験が、なんだか全体的に楽にこなせたような感じるわけですな。研究チームは、このような心理を「簡単負荷効果」と名づけております。

 

これは香港理工大学などの調査で、「簡単負荷効果」の実在を調べるために、いろんな実験を行ったんですな。ざっくりまとめると、

 

  1. 手を握る際に一定の圧力をかけ、その後で、より弱い圧力をかけながら課題を実行してもらう。

  2. 参加者に「本のタイトルをアルファベット順に並べ替えてねー」と指示するが、この際に、簡単なものと難しいものを用意する。

  3. 参加者たちに、小売店の客から届いたクレームに処理するシミュレーションをしてもらう。ここでも簡単なクレームと難しいクレームの2つを用意する。

 

って感じになります。それぞれの実験ごとに、簡単なタスクを行うタイミングを変えて、序盤、中盤、後半のいずれかに配置。その上で、作業の難易度の評価がどう変わるかをチェックしたわけですね。

 

すると、結果はこんな感じになりました。

 

  • たいていの人は、より簡単な課題を最後に配置した方が、「いやー、楽な仕事だったなー」と全体的な難易度を評価した。

 

このような現象が起きる理由は、おそらく「近接誤差」というバイアスの性だろうと、研究チームは考えておられます。これは「人間はより後に記憶したもののほうが頭に残りやすい」って心理傾向で、たとえば「買い物リストの内容を忘れた!」って状況になったときに、多くの人はリストの下に書いてあったものほど思い出しやすかったりするんですよ。

 

このバイアスは生活のいろんな面に現れまして、他にも、数十人を面接した面接官は、あとでしゃべった候補者のほうを採用しやすい傾向も確認されてたりします。それぐらい、ヒトの脳は後のものが印象に残るんですね。

 

こうなると、巻頭に挙げたハーバード実験との食い違いが気になりますが、これについては、研究チームいわく、

 

「簡単負荷効果」が役に立たない場合もある。タスクが非常に複雑で、互いに大きく異なっていたり、完了するのに長い時間がかかったりする場合、その効果は強くない。また、挑戦を楽しみ、困難な活動をマスターするのが好きな人にも、この効果は現れないだろう。

 

とのこと。簡単なタスクを先にするか後にするかは、作業の難易度で変わるのかもしれんですな。つまりは、

 

  • 事務作業や簡単な家事のように、全体の難易度が低くてやる気が出ないようなものは、簡単タスクを最後に持ってくる。
  • 企画書の作成や上司との交渉のように、全体の難易度が高い作業に挑む時は、簡単タスクを最初に持ってくる。

 

といった感じで使い分けをすると良さそうですね。

 

さらに研究チームいわく、

 

「簡単負荷効果」を使えば、日々の活動をより扱いやすく感じることができるかもしれない。めんどうなタスクに楽な感覚を与えることで、後の作業への満足感やモチベーションが増すかもしれない。

 

この効果は、私たちが日常的に行っている小さなタスクの多くに現れるはずだ。

 

ってことなんで、上記のポイントをうまく区別しつつ、タスクに取りかかる順番を決めていただければ幸いです。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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