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【質問】プチ断食で早死にしやすくなる!ってニュースは本当なんですか?

 


 

こんなご質問をいただきました。

 

プチ断食で死亡リスクが上がるというニュースを見ました。プチ断食が体に良いわけではなく、早死につながるおそれがあるというのですが、パレオさんはどうお考えでしょうか?

 

ということで、プチ断食で寿命が縮む可能性があるんじゃないの?ってデータが出たよー、というお話です。このニュースは界隈で話題になりまして、旧ツイッターでも、アンチ・プチ断食で有名な医師がはしゃいでいるのをお見かけしました(遠い目)。

 

ネタ元はノヴィサド大学などの研究(R)で、ビジネスインサイダーさんの記事を引用すると、こんな感じになります。

 

研究チームは、米国に住む成人2万人分以上のデータを検証し、平均でのべ8年にわたり、調査対象者が自己申告した食事習慣と、その人たちの病気への罹患率や死亡率の関連を調査した。

(中略)

毎日に16時間のプチ断食をすると自己申告した人たちは、プチ断食を行わず、より長い時間帯にわたって食事をとった人たちに比べて、調査期間中に心臓血管系の病気で亡くなる可能性が91%高まる、という結果が判明した。

 

というわけで、およそ2万人を調べたら、8時間ダイエット(リーンゲインズ)をする人は、心臓病や脳卒中で死ぬ確率が有意に高かったんだそうな。うーん、恐ろしい。ご存じのとおり、私は長年にわたってプチ断食をしているので、これが事実なら困っちゃうわけですね。

 

で、私がこの研究をどう考えたのかと言いますと、

 

  • まぁ大丈夫でしょ!

 

って感じです。というのも、今回の研究よりも質が高いデータをチェックすると、「プチ断食は心臓によい!」って結果のほうが多いもんで。いくつか例を挙げますと、

 

  • ペニントン生物医学研究センターの研究(R)では、プチ断食によるインスリン感受性、血圧、酸化ストレス、食欲の改善が報告されている。

 

  • ヨーロッパ大学キプロス校による最近のシステマティック・レビュー(R)でも、5つのRCTをまとめたうえで、血糖コントロールに対するプラスの効果が認められた。

 

  • 中南大学による別のネットワーク・メタ分析(R)では、体重とインスリン抵抗性に対する有益な効果が報告されている 。

 

  • 1年間におよぶ長期のRCT(R)では、プチ断食を行った参加者は、普通の食事パターンを守った参加者よりも体重が落ち、心代謝系の健康指標(炎症、インスリン感受性、血中脂質)が良好だった。

 

そんなわけで、これらのデータを見る限り、プチ断食は、全死因死亡率、心血管死亡率、がん関連死亡率に関して中立か、あるいはメリットがあるんじゃないかと思われるわけです。

 

では、過去のデータと今回の研究はなぜ食い違ったんでしょうか? そこらへんを掘り下げてみると、だいたい以下のようなことが言えるでしょう。

 

  • 新しく出た研究はシンプルな観察研究であり、「心臓の健康に良い!」と報告した前向きコホート研究やランダム化比較試験よりも、客観的にはデータとして弱い。他のRCTやメタ分析が、中立か、または小さなメリットを示しているのだから、1つの観察研究で否定的な結果が出たからといって、逆転されるわけではない。

 

  • また、今回の観察研究では、たまたまプチ断食に近い食事をしている人の健康状態を調べたので、参加者に「これからプチ断食をしてください!」と指示しているわけではない。そのため、この研究でプチ断食っぽい食事をしていた人たちは、たんに病気のせいで食欲がなかったり、根本的な摂食障害のために食事を制限していたり、そもそも食事に無頓着な人たちがふくまれている可能性はかなり高い(このあたりは、他の専門家にもディスられている)。

 

  • さらに、ビジネスインサイダーさんも指摘するとおり、このデータは、参加者の2日分の食事しか調査していない。そのため、みんなの普段の食事習慣を反映しているとは、とても言えない。

 

って感じで、個人的には、今回のデータはあんま信用していないんですよねー。

 

まぁ、そうは言っても、プチ断食が完全無欠の健康法だとは私も言いませんで、

 

  • 摂食障害の傾向がある人が、体重をコントロールするためにプチ断食を使うと、いったん体重が減ったあとでドカ食いがはじまってしまうかもしれない。

 

  • 1日1食の場合、食が細い人は十分なタンパク質を摂取できないこともあり、意識してタンパク質を増やさないと、筋肉が減ってしまうかもしれない。

 

  • ライフスタイルによっては、空腹の時間に仕事をしなければならず、そのせいでイライラが増したり、集中力が下がったりするかもしれない。

 

といったあたりが問題になる方は、普通に1日2〜3食にしたほうが良いでしょう。食事の習慣にトラブルを抱えた方や、もともと小食の方は、プチ断食が悪い方向に進む可能性もあるのでご注意ください。

 

そんなわけで、いろいろ書いてきましたが、プチ断食の健康効果については、ここ20年ぐらいの研究により、科学的なコンセンサスが形成されつつあるところじゃないでしょうか。プチ断食は、体重の管理や、心代謝系の健康を反映するバイオマーカー(血中脂質、炎症マーカー、血糖コントロールなど)について、そこそこ良い結果をもたらしてくれるって結論のほうが多いですからね。個人的には、今後も普通にプチ断食を続けていくつもりであります。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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