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意志力って実は使ってもすり減らないんですってよ |「意志力3.0」 #1

Willpower

 

意志力には限りがある…のか? 

当ブログでは、よく「意志力って大事よねー」みたいな話をしております。たとえば、

 

 

といったところが代表的。とにかく、セルフコントロール能力が高くて、目の前の誘惑に強い人ほど人生がうまくいきやすいってデータが多いんですよ。

 

 

そこでとても大事なのが、「意志力には限りがある」って話。人間が使える意志力には上限があって、使えば使うほどすり減っていくって説であります。だから、意志力は大事に使っていきましょうねー、みたいな。

 

 

この説を広めたのはバイマウスター博士の「WILLPOWER 意志力の科学」で、マクゴニガルさんの「スタンフォードの自分を変える教室」でも基本的なテーマのひとつに取り上げられてたり。それぐらい世に認められた説なわけですね。

 



 

追試もメタ分析もボロボロの結果が

で、本題。なんと、この「意志力は消耗する」説に、近ごろ大きな疑問符(1)がついちゃったんですよ。

 

 

これはカーティン大学の研究で、2,141人の男女を対象に「意志力は消耗する」説を追試したもの。23の研究所で、バウマイスター博士が推奨する手順を使い、本当に意志力は使えば使うほどすり減っていくのかをチェックしたんですね。

 

 

その結果がどうだったというと、まさかの「効果ゼロ」。すべての研究所で、意志力が消耗する現象はほぼ確認されなかったんですな(d = 0.14, 95% CI [−0.02, 0.30])。

 

 

この論文を見たとき、私の反応は「またまたぁ〜」みたいな感じでした。なんせ「意志力の消耗」といえば、いままでに3,000以上も引用されてきた超メジャー論文でしたし、2010年のメタ分析(2)でもお墨付きがついてたもんですから(d=0.62)。そりゃあ戸惑いますよ。

 

 

とか言ってたら、今度はマイアミ大学から「2010年のメタ分析って間違ってね?」って論文(3)が出ちゃいまして、これまたビックリであります。詳細ははぶきますけど、ポイントだけ抜き出すと、

 

  • このメタ分析は、都合が悪いデータを組み込んでいない(いわゆる出版バイアス)
  • ちゃんとすべてのデータを組み込んで再分析すると、意志力が消耗する説を支持する証拠はなくなる

 

って話です。近ごろはマインドフルネスの世界でも出版バイアスの問題が起きてましたが、意志力に関しても同じなんじゃないのか、と。うーん、衝撃。

 

 

間違い確定じゃないけど振り出しには戻った感

もちろん、この結果についてはバイマウスター博士も反論(4)を出してまして、「自分のオリジナル論文の実験デザインと違うからねぇ」 みたいなご意見。ただし、追試のデザインは、そもそもバイマウスター博士が認めてたものを使ってるんで、やや反論としては弱いかなーみたいな印象ではあります。

 

 

まぁ心理学の世界では、これまでに「意志力の消耗」に近い現象もいろいろ確認されてるんで(ビジランス低下とか)、まだ「完全に間違ってた!」とは言えない段階。とはいえ、今回の追試はかなーり強い反証になってまして、とりあえず「意志力をどう捉えるべきなの?」って問題はふりだしに戻った感じがいたします。

 

 

私も過去に「意志力の消耗」をベースにしたエントリをいくつか書いてますけど、いずれも割り引いてお読みいただければと。いやー、まいった。

 

 

これからの意志力について考えよう

にしても、いくら「意志力は使ってもすり減らない」と言われたところで、私たちが普段から「疲れて自制心がなくなったなー」みたいな現象を実感しているのも確かであります。だからこそ、「意志力の消耗説」はここまで人気が出たんでしょうし。

 

 

というわけで、長くなったので本稿はここまで。次回は、

 

  • それじゃあ「意志力」をどう考えていけばいいのか?
  • これまでの意志力アップテクはムダになるのか?

 

 ってあたりを考えていこうかと思います。なんか長くなりそう…。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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